まだ眠れる獅子の牙/デモクラシィ
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それから攻撃が続くようになった。何度となく建物が爆破され、何度となくアストラたちは病院に駆け込む日々。『爆発事故』『やはり浄化を』『ゴミの群れ』などといった情報がSNSに流れ始めて、またあの地獄かと彼は泣く。
「消え去れ!」
「他人の土地に居座るクソどもは死ね!」
デモはもはやエコーチェンバー。シュプレヒコールが続けばうんざりもするが、それが日に日に武装を背負い始めるのだからどうにもならない。止めればまた悪にされて増長が続くのだろう。彼はそろそろ限界だと、ウィンに相談することを決める。
しかし彼も忙しかったのか、アストラが訪れればいたのはハルだけ。
「あいつなら、今日もまた外でロビーだってさ」
彼女は用心棒代わりに残っているらしかった。たまには外で自由したいというのが現れているが、いつもは逆をしているくせにとアストラは肩をすくめる。不満そうに彼女はつづけた。
「どうしてこうなっちゃったんだろうねぇ。爆発して、人が死んで。私はそんなの見たくないのに」
溜息を吐き、手元のボトルを回す。酔うわけにもいかないために、ラベルはジュースだった。
「何をしたんだろうねぇ……何が、悪かったんだろうね」
「何が悪いでもない。強いて言うなら時代さ」
珍しくしおらしい彼女は、アストラに酒を投げた。
「ならどうして、私たちなの…………どうして他じゃダメだったの」
プルタブを起こして開け、アストラは手近な椅子に座って飲んだ。
「どうして……」
いくら吐いてもため息は足りない。かつての当事者は、ただ貧乏くじを引いただけなのだと言いたかったが、しかしそれは今のハルの救いにはならないとあきらめる。アストラは口を閉ざす。
「…………」
いつの間にか、ハルは泣いていた。けれどもそれを宥めることは、今の彼にはできなかった。
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帰ってきたウィンは、泣きつかれたハルをベッドに横たえ、布団をかけて一人苦しむ。
あくまで合法的に土地を借り上げ、そこに物を個人で建てて暮らしている。それがとてつもなく格安なだけというのが我らの言い分ではあるが、税金だのはほとんどアーカの蓄えだので払われているのだから、不法占拠だというのがデモの言い分だった。
いくら言い聞かせても平行線。互いに交わらないのだから、止めることもできないわけで。
珍しく彼は酒を開けた。どうせこれもストレイド――――俺たちを引き戻して研究したいから、無理くりに居場所を無くして戻そうというんだろう。
かつて、とある女優が適合素材だったからと培養材料にされ、内臓だのを余すところなく調べられたのちにクローン体を死体として捨てる、なんていうのがあった。
火事だって目的のためなら引き起こすし、なんだったら戦争を隠すことさえできる。狂った名前をしているからこそ、そこまでも冷徹で悪意的にできるのだろう。彼は苦いアルコールを喉に押し込み、天を仰ぐ。
せめてもう少し、時間の一つでも稼げたらよかったんだがな。
デモ団体が武力行使を始めるのは時間の問題だ。そうなるように扇動がなされているし、そうならなかった時にはストレイドが直で攻撃をする。自分がこんな生まれであることがどこまでも憎らしい。どうして俺は。
けれどそれでも進んで手に入れた道だ。守るしかない。
明日に近い終わりに向けて、彼は決意した。絶対に終わらせはしない。
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「我々は!」
「なんぞの元に」
「貴様らを出ていかせる!」
そうしてデモもどきの破壊は始まった。全員が不自然にも白いTシャツを着て、全員が不自然なゲバルト棒を持って。自由意思に見せかけられた洗脳によって働いているとみていいだろうそれは、どう見ても悪意によって動いていた。
「ま、お前さんの力があればこそ、だろうな」
男は隣の影に語る。人間でないように見えるそれは、どこか女性らしいけれども機械だ。それは答える。
「人の脳にちょいと送ればいいのさ。そうすれば誰だって別人。理屈とどうでもできるのさ」
「勝手に理屈付けして、勝手に理論化して戦ってくれる。間違ってても億回言えば正義で、一人一派こそが逃げの道なのさあ。あとはペラい理屈と他を切り捨てればいい。受け入れるから俺たちは戦える、ってんだろ?じゃああとは俺の仕事。力を与えて殺しに向かわせるってね」
「コンビは最強さ。ファール、あとは頼んだよ」
「細工は流々。仕上げは肝心ってね」
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