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まだ眠れる獅子の牙/対処と

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二日後、ついにバラックの一つが爆破された。ちょうどアストラが窓から、遊んでいた子供たちを眺めていた時だった。平穏な日常が、ずっと続いてくれればと思っていた時だった。


淡々と語るしか、アストラに精神の安定を図る方法はなかった。あの時に自分ができることは何かなかったのか、どうすればあの惨劇を避けられたのか。彼の脳内では今、そんなことばかりがぐるぐるとメリーゴーランドしていたからだ。


4人がいっぺんに肉に変わった。変化した体のせいで、無駄に進化した視力のせいで、折れる骨が、はじけ飛ぶ筋肉が、はみ出る脳が、まるでコマ送りしているかのように見えてしまった。その中の一人は、少し前に服を選んでやった子供のうちの一人だった。


こんなことになるのだったら、最初から交流なんて持つんじゃなかったと深く思えた。


どうして自分は生きなければならないのだろう。これだけ痛いのに、これだけ苦しいのに、どうしてこんな感情を持たねばならないのか。かつて責任転嫁してみたけれど、そうして生まれたのは同じ苦しみだけだ。


燃やされたから燃やして、殺されたから殺して、世界を呪って。奪われたのは自分の中の何なのだろうなぁ。


彼は思い出す。恐るべきあの瞬間を。


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ビリビリと窓ガラスが震え、急に内臓にふざけた感覚が伝わる。現実としては爆弾が爆発しているのだから当たり前なのだが、なぜ人間の情を持ちながらそんなことができるのだ?という怒りが一瞬彼の脳に現れた。なぜ人を殺せるのだ?


何があったのかと外を見てみれば、血が広がっている以外は何も変わらない、ただ少し転んだだけのような大人。誰か助けてくれと、炎の中で求める子供、両足を砕いた大人。


地獄だった。


生きていたはずの人間がいて、笑っていたはずの人間がいて。誰もが幸せだったはずなのに、いきなりすべてがバラバラになる。


誰もが救いを求める中で、彼は飛び出さずにはいられなかった。


窓を開けて飛び降り、力づくで着地して駆け寄る。もう隔離だのは言っていられない――――呼吸をしなければいいんだろう、呼吸をしなけりゃ。


破裂しそうなほどに息を吸い込んで、彼は窓ガラスを蹴り割った。


現場は見た以上に恐ろしい。壊れた家屋が人を踏みつぶし、破片になったガラスが血を飛ばす。腕が一本転がっていて、子供のものらしい。


彼は壊れたバラックを持ち上げて放り捨てた。急げば何とかと思ったが、下敷きの人間はもう事切れていて、血が彼の体にしみこむ。既に胴体から上下に分断されていたのだ。


せめてと目を閉じ、手近の男に急げば、彼はまだ息がある。青い顔をしてはいるものの、急いで病院に送ればなんとかなるか。アストラは能力でワイヤーを出して当て木代わりに固め、広場に担いで寝かせた。ひとまず折れた足だけでも固めておこう。


それから彼は全力で力を尽くした。心肺蘇生がいればマッサージを続け、戻ればまた人を探す。10分ほど苦労を続ければ、やっと3人ほどが蘇った。けれど残りは冷えて固まる。失われていくわずかな熱を肌に感じたときに、彼は無常を覚えた。


「アストラ!」


そうしていれば、ウィンが駆けてきた。どうやら彼はかなりの距離を駆けてきたのか、短髪にもかかわらず髪はぐしゃぐしゃ。


「わかってる…………医者は用意した。急ぐぞ」


その言葉からは、爆発を聞いてすぐに取って返したらしいことが読み取れた。


彼は担架用の布と紐を持ってきていて、質量から見れば20人は運べる。そのほかの応急キットも見れば、40キロは下らない物資を担いできていたのだ。


「救急車よりも俺たちの方が速い――――ここでトリアージして、担ぎ込むんだ」


ハルに治療道具を渡して、彼は担架を組み立てる。


「でも…………俺は隔離中の身で」


安堵しつつ、今までのを思い返せば危ないのでは?とアストラは答える。呼吸をせずにずっと動いたからいいのだろうが、けれどもう言葉を出してしまった。


「鉄の肺だって整えた!」


だがウィンはいいと返す。どうせウイルスにやられても、処置はこっちで何とかすると力強い――――彼は続ける。


「救急車が来るまで担架リレー、やれるな?」


アストラは頷いた。


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病院のオペ室前で、アストラは項垂れていた。


なんでこんなことになるんだ。恋人だって殺された。家族だって全員死んでいる。果てには自分だって死んだ人間が、こうしてまた、誰かの死を悼むとは思えなかった。


だからこそ、こうして失敗したオペの為に涙を流すのだ。だからこそ、いなくなってしまった人の思いを汲み取りたい。ここにいることを大切にしたいのだ――――アストラはいくらか息を吐き、けれどそれでも、死に出会うことは嫌いだとつぶやくのだ。


「残念、だったな」


アーカがコーヒーを手渡した。一口すすれば、顔をしかめて涙が出るほどのブラック。なんでこんなのをと思ったが、それは彼なりの理由付けだったのだろう。アーカもコーヒーを含み、そして目に涙を浮かべる。


「だが――――人は、いつか死ぬ。それが少し早まっただけさ」


涙を流しながら、彼は続ける。それがどこから来るのかは分かったが、男だからこそ理由が必要だったのだ。彼は痛みに耐えて続ける。


「ここに住んでる連中は、結局どこにも行き場がなかったんだ。だから誰かが守らなくちゃならない。だから俺は、持ってた土地を自由に置いたんだ。バラックなり家なり建てて、逃げ込んでくれって。最初はホームレス、次は家出小僧。そしてそこからハルとウィン。少しずつ広がっていくのを見れば、気もよかった」


「……それをどうして、今?」


コーヒー由来でない涙を見て、アストラはまた彼のやさしさを喉に、小さく泣いて問う。誰のために思うのか、それだけが聞きたかった。けれど余計な痛みなのかと彼は引き戻そうとする。アーカはせんでいいと、小さく息を吐いた。


「何度となくあったのさ。ホームレスなら殺していい、っていう輩がここに来るのが……………………そして、人は死んだ。撲殺、刺殺、そのほかいろんな手段で死んだ。ただの肉として扱われたガキも見たし、人の猟奇性なんて飽きるくらいだ。だから……」


「だから?」


彼は立ち上がった。


「泣きたいのさ。分かちたいのさ」


「……コーヒー、うまいぞ」


カラになったカップを傾け、エアで飲み下して彼は泣いた。


「いいジョークだ」


そのまま二人は、言葉無くして語り合った。


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