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まだ眠れる獅子の牙/大人げないのだ

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イースターの日の朝、一番最初に飛び出したのはハルだった。次いでアーカ、そして子供たち。大人が一番子供っぽいと世界ではいろいろ言われるが、一番偉いはずのアーカが本気で探し回っているのが何かこう、大人げないなと。


もちろんアストラも、引き留めるためという名目で子供に続いて飛び出した。


実は交換できるプレゼントの中に、ちょうど欲しがっていたゲーミングチェアがあるといううわさが流れていたからだった。


「アストラ……でも渡しはしないわ!」


屋根や鉄骨の上を走り抜け、どこにあるのかと彼女は目を凝らす。ぱっと見ではわからないのだから、前日と変わっていたり、珍しいところに足跡が残っていたりするようなヒントを。


そうして彼女は、屋根のテレビアンテナの根元の箱に不自然なふくらみを見つけ、その中にエッグがあると引っ張り出す。本来はここは面一だったはずなのに、昨日の間につぎ足したな。


ルールでエッグは10個までしか交換を受け付けないと言われているし、景品の追加もないと確定している。だったらいいもんが残っている早いうちに。ハルはまた屋根を飛び移り一つ見つけたらしい。視線で分かったので、まるで銀の風のごとく手を伸ばし、アストラはそれを先に奪った。


「どうせやるならジャンク山だろう…………ガキは来ない!大人は見つけられん!うってつけだからな!」


「それはまあそう……あれ?まあいいか!」


屋根の上に隠されているものを一つ一つと奪い合いながら、二人は3個ずつを集めた。ビルから直線状に置いてあるということはつまりだ。


バラックの中でも頑丈なものだけを選んで走っていると、仕事場にたどり着く。スティールの柱を縦にがっしりと踏みしめ、トタンのブルーを引っぺがす勢いで彼は地面にロンダート、前転。


目の前にある山に、明らかに人が登るには危険な位置にはさんである赤と青の縞を目に、彼は勢いのまま飛んで手を伸ばした。


パスンと空を切る。まるで糸でもついているかのようにそれは引き戻され、ハルの手に収まる――――力か。勢いのままに彼は頂上に手を伸ばし、行き過ぎた加速度をブレーキして空中で三度前回り。そのまま高さを地面に削り飛ばして、アストラは次を見つけた。


次の山に、双子めいて並んでいる。


彼は昨日分解したエレカを踏み台にしてつかみ取る。だが一つはどこかに引っ張られていた――――またハルだ。アストラは彼女にシートのクッションを放り投げ、力から逃れたのをキャッチして転がった。


「!」


顔にクリーンヒット。


「…………ごめん」


「許すと思うか!」


当然シートは、ボールめいてぶつけ合うことになった。


あまりの勢いでぶつけられたシートで、アストラは山をど真ん中に貫いて埋もれた。降り注ぐ電源のない回路基板をもう一度飛ばし、ついでにいくらかを分解して彼は外に出る。また次を見つけたらしいハルに、彼は思いっきりシートを放り投げた。


もはや衝突事故と言ってもいい速度でぶつかったやわらかなウレタンは、同様にハルを山に突っ込んで吹きとばす。その隙にアストラは全力で飛び、ちょうど埋もれていた卵をつかもうと駆ける。ちょうど顔のところに足をかけ、飛び上がる。


手が届くというところになって、ハルはその足をつかんでひっくり返した。


勢いで卵を捉え、力で引き寄せる。けれどそれは、ただ一本の金属のワイヤーによって防がれるのだ――――元を見れば、アストラから延びている。本人も分からないという様子だったが、ついに目覚めたのかと、ハルはそれを切断した。


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いつの間にできるようになった――――どうして生えた?


アストラはわけもわからぬまま、ただ増えた一つの感覚を動かしていた。どこまでも届く手が欲しい。そう思ったからか、先はまるで手のひらのように枝分かれがあり、飛んでいくそれは広がるようだ。それに触覚はあったが、欲しがったものだけしかないのは切断された時の無でわかる。


そうか、これがあの力か。


切られたのを伸ばしなおし、山に縛り付けて巻きあげる。先端でがっちりとつかんでいて抜けそうにもない。力より早く体は飛び上がり、卵をつかみ取って、まるでクモ男のごとく次を上から発見するのだ。


高層ビルを渡るようにブランコし、金属の身体ごとそれに手を伸ばして引き上げる。


7つ。悪いがハルには、一番などやるものか。


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「で、集めきった最初と二番目のプレゼントが『イースターの運営に参加する』か。大体そんなこったろうと思ってたさ」


アーカはウィンの代わりに働かされている二人を見て、そうつぶやいた。


「どうせお前らが一番に集めに行くっての。ガキどもに見つかる場所はほかので食い合うからマックスまで集まらんし、食い合わんところでマッハで終わるのは、そりゃお前らぐらいだろうなぁって」


「わかってたなら、言ってほしかったかなぁ」


子供にお菓子を配るハル。


「そもそも、爺さんだって真っ先に食いついてたくせに」


荷を運ばされるアストラ。


「馬鹿もん。誰が暴落する株わかってて売れと言うんだよ。買わせるのが一番得なのさ」


それを見て彼は、本当にどうしようもない奴らだなぁとあきれた。アストラはともかく、ハルは『プレゼントは先着からいいもんがあるわけじゃない』って前の前のイースターから知っていたくせに。


まあ前まではまだそれに見合ったもんがあったから、いきなりこれに入れ替えるっていうウィンの意地悪を見抜けなきゃあそうなるんだが。人柱として10人ほど先に行かせ、アーカはウィンから、プレゼントの壁掛け時計をもらう。


アンティークに見せたクォーツで、振り子のイミテーションがついた柱時計もどきだ。


「ま、せいぜい楽しめよ」


趣味に合わないからと、彼はアストラにそれを押し付けて帰っていった。結局あれだけ努力して、もらえたのはくたびれだけかと、アストラはため息を吐きながら笑顔を作った。


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それから一週間が経過し、ついに卵探しイベントは終わった。運営側にされたアストラとハルは、ウィンによってエレカに乗せられ、綺麗なレストランにたどり着いた。


大理石の床に壺入りの植物。化石がわかるように切り取って埋められた石材で作ったシルクリート、年輪の数え切れぬサクラのテーブル。いつもよりも高級な服に着替えさせられどこについたかと思えば、まさかそういう店だとは。


何度も来ていると言わんばかりに、ウィンは顔だけで警備員に通された。ボックスに入り席に着き、彼は頼んでいたコースをとでも出された水を勧める。


「なに、そこまで気負う必要もない。フランクでいい」


冗談だろう?少し硬くなりながら、彼はハンカチを首に巻いた。ハルもいつの間にかそうなっていて、ナイフとフォークを前におとなしくしている。そうして料理が一つ来ると、彼女は味わいながら口に運んで消失させていくのだ。


さすが人外。…………だがまあ、そういう場なのか。


落ち着いたアストラは、前菜のムースを掬い取った。


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