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まだ眠れる獅子の牙/前々夜

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アーカの解体手順書を読み込んで、分解してはウィンの元に持ち込む日々を繰り返して、プリペイドカードだのを使ってタッグを購入した。最近はこれがないと仕事が始まらないと言ってもいいくらいのインフラだからと、アストラはついでにバッテリーと自家発電機を冗談で購入する。


なぜか最近力が有り余っているから、運動がしたい気分だったのだ――――ホームセンターから担いで帰って、少し疲れて箱を開ける。そして説明書もそこそこに読んで、バッテリーにつないで全力で漕ぐ――――重さは可変だけれど、最大で30キロくらいとある。かなり力のいるものだが、性能はすさまじいらしい。


30分漕げれば、どんなタッグでも満充電にできる。箱にそう書いてあったので、力試しも兼ねて勝ってみたのだ。もちろん無理なら明日にウェルの元に行く予定を立てているが、果たして。


座ってペダルを乗せてみると、案外に軽い。ここのところガテンばかりしているから力が有り余っているのだろうか?


彼はガンガンに漕いでみるが、全く抵抗がないに等しい。設定は半分くらいにしているのにと思って最大にしてみたが、それでもまあ普通の自転車か、と思えるほどだった。


冗談だろう?彼は漕ぎ続けるが、本当に抵抗はない。まあこれならいいのだろうか?ついでにバッテリーもつないでみても同じで、それから10分ほどやってみたところでノックの音がする。


まあさすがに防音もないビルの中で何をしているのだと、ウィンが怒りに来たのだろうか。


だが開けるとハルだった。彼女は新しいおもちゃでも見つけたかのようにして入り込み、人力発電機だなと乗って漕ぎ遊ぶ。どう見ても軽々しているらしく、アストラと同じような速さでペダルが文まわっていた。


「……そんなに早くて、つらくないのか?」


彼は自分はそうでないのに棚に上げて聞く。さすがに人間離れしたことをしていても、さすがに人間だ。無茶は駄目だろう――――30キロだぞ。


息一つ切らさず彼女は漕ぐのをやめ、右に両足を下ろして不思議がる。


「辛い?人間用で、そんなわけないじゃないの」


そして『ああ、まだ知らないのか』と彼女はつづけた。


「私たちはもう、人間じゃないんだから」


アストラはそれがどういう意味かしばし受け入れられなかったけれど、すぐにあの力の根源が何か見てわかった。そもそもうすうす死んでいたはずなのに生きていることからも自明だ。酸素もなくなり燃え盛る炎の中で焼け死んだ。それが自分のはずだ。


だからうすうすはわかっていたけれど。


「…………知らなかったのね。なら少し、話でもしましょうか」


ハルは仕方ないとまた粘土を取り出す。そういえば前も見たが、これはマジックだのではなかったのか。


「昔々のお話。まだ世界が剣と弓で出来ていたころのお話――――あるところに、それはそれはたいそう強い人々がおりました」


よく感覚を研ぎ澄ませてみれば、幾分冷たい風がある。ほんのわずか感じる感覚は、ハルでないものから発されていると彼は気づいた。


「……あら、ウィンじゃないの」


続けようと思っていたらしいが、彼女は任せることにして止める。ちょうど下で誰かが呼んでいるらしいので、そっちの対応も兼ねているようだ。


「ミュータントについて、任せるわ」


そして窓から飛び降りて着地する。重力が瞬間的に地面へと逃げたようにビタリと静止し、彼女は何の用だと依頼者に口を開いた――――同時にウィンもそうする。


「では語るとしようか。『ミュータント』についてを」


そして彼は、いつも見るジャンクのかけらを机に置く。それは前のハルの粘土のごとく形を変え、なしてか人の姿を取って踊った。


「まず最初に、これが人間技だと思えるか?」


「思えたらジャパニメーションだ……だが、どうやってそんなことを?」


「わからない。だが俺たちはそういう能力をいつの間にか身につける。同時に人間を超えた身体能力を。ハルが飛び回るのをよく見るだろう?あれの半分はそれだ」


「ということは、もう半分は…………」


重力がないかのようにふるまうのではなく、本当に重力を打ち消したり反重力をしたりとしているのだろう。物理的にはあり得ない操作ではあるが、そういうことが起きてしまっているから仕方ないのだろう。


「そう。アイツの力だ」


ウィンは肯定した。


「ないものもいるが、大方は力を持っている。たぶんそっちにもあるだろう」


「見分け方は?」


「知らん。わからん。俺たちが知るのはそれだけだ」


彼は能力で人形を動かし、自室からドリンクを取り出して飲ませる。


「だが少なくとも、風を感じればそいつがミュータントだ」


そして隠していた何かを放つようにすると、ほんのわずか暖かい風が流れた。


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事実にはあまり驚くことなく、彼は日々の仕事を繰り返す。エレカのモーターを抜き、コイルの線を取っては磁石を箱に突っ込み、リテーナーを分けては球を取り出してベアリングをばらすのだ。


よく考えれば、回数をこなしたとはいえ覚えるのが早い気がする。力は前から気づいていたけれど、そういえば。


手際よく3台目に取り掛かりながら、アストラはそう思っていた。ウィーヴスの免許を取るので四苦八苦し、文字で七転八倒していたころと比べれば大違い。あの頃でも20代に行かなかったのに、そう考えればそれより速い。


だがなぜ俺は人間をやめたのだろう?いつの間にやめたのだろう?確かに俺は人間だった。


よく考えれば、前はもっと悩みながら仕事をしていたはずだ。体が勝手に動くようになるまではまだ長くて、燃やすちょうど前くらいにやっとだったはずだ。


ダッシュボードもフレームも、いつの間にか分解が終わっている。どころかコンピューターの中身まで冗談でやってみると、プリント回路までは無理だったものの、抵抗の一つ一つまでなら3分でできるくらいには手が器用になっていた。


アストラはまた、無慈悲に目の前のことに打ち込む。数をこなせばもっと早く、もっと早く。出来上がるのは全部が全部変わってしまったことの表れで、何かどこか、空っぽな気がしていた。


「どうした、お前さんよ」


アーカが買ってきていたドリンクを差し出して言う。


それをあいまいにごまかすのは、悪いことだったろうか。


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