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まだ眠れる獅子の牙/日常のかけら

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一週間がたった。金属材料を分類し、精製しては売りに行く日々を繰り返し、まとまった量になったので売りに行く。それがちょうど昨日のことで、手に入れたのがギリギリ6桁。本来は月に2回売りに行ければいい方なので、少し溜まっていたとはいえ早い方だそうだった。


人頭で割ってこの額なので、かなりの量だったのだろう。前の通帳やらカードやらを無くしてしまったので、また買いなおすことに俺は決め、まずは服だけでもと無人店に足を向けた。


本来はそれに加えて家具、バッテリーだのも購入しようと思っていたのだが、どこかの誰かに『子供服もついでに買ってきておいて』と頼まれたから面倒くさい。半額出すからと頼まれたからうれしい頼みではあったが、そもそも俺はあまり周りの子を知らんのだが…………。


まあ仕方あるまい。覚えている子をベースにして、それらしいのを取り揃えればいいか。


そう思ったアストラが、渡された財布にいくら入っているかを見ようと開けると、中にはメモが入っていた。


『多分困ってるだろうから、一応サイズだけ。120の女児が2人、130の男女がそれぞれ、140の男児が1人。身長通りで一着ずつほしい。ノリで選んでいいよ ハルより』


ああ、つまりそういうことか。


アイツ服の買い出しをダシにして楽しむつもりだな。


アストラは絶対にマシな組み合わせで購入してやると決め、まずは自分の下着をいくらかと好みの着替えを選ぶ。食費他を考えれば、半分は使える。10着分は欲しい――――けれど自分から出せるのは上下で5日分。二日で洗いながら使うとしようか。


それなりの量をまずはカゴに突っ込み、次は子供服に行く。下着はいいから、持ってくるべきは・・………。


女児にはあまり触れてこなかったから、あまりどうすればいいかわからん。タッグがあれば楽だったけど、戦闘のどさくさでぶっ壊れたし…………マネキン買いしようか。


陳列をベースにして、彼はいくらかを選んで出る。レジにカゴを突っ込めばチップで勝手に処理してくれる。なので表示額に合わせて物理クレジットを投入すると、悲しいことに財布が食費のぞいてぺらっぺら。アストラはこれもまた仕方あるまいと店を出た。


「ハルに頼まれたから来たけど、服どうなった?」


ちょうどウェルがやってきて、ちょうど終わったことについて話し出すのだった。


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「センスは悪くは、ないわね」


ウェルはアストラにコーヒー缶を渡す。ブラックは嫌いらしく、ミルク入りを売りにするメーカーのもの。彼女はそれでも少し苦いと、顔をしかめながら飲み干した。


「選ぶのなんて、いつぶりかわからないから…………ですかね」


「誉め言葉くらい、素直に受け取りなさい」


彼女はタッグでエレカを呼び出した。よく考えれば、自分用のだけでも長いのに、ガキどものコーデを考えれば時間もすっ飛ぶ。あたりはもう既に太陽灯の光が届かなくなり始めていた。


「面倒だからこいつで帰るわ。雑貨は明日にね」


しかし忙しいという彼女が、一体どうしてこんな風に。


「ありがとう」


「礼ならウィンの方に言うこと。ハルを今しぼってるだろうから」


少し戸惑いながら礼を言うと、ウェルは誰の差し金か語る。それも何度となく起きてきたことだからいいわとでも言いたげに――――つまりどういうことかは。


「……ってことは、これも」


「恒例ね。センスを見て楽しむとかそんな理屈つけてるわ」


「なるほど」


余った金は自由に使っていいというのも、つまりはピエロをしてもらうからその代わりにとでもいうことなんだろう。あの野郎元から胡散臭いとは思ってたが、いたずらまでしてくれるじゃねえか、後で好物にタバスコでも仕込んでやろうか。


「ホースラディッシュはじめ、あいつに飯関連でいたずらはやめておきなさい。死ぬわ」


「試したのか?」


「誰も骨折まではいかなかったけど、ウィンが珍しくハルを止めたわ」


それからしばらく彼女は、とうとうと起きた事件について話していた。


例えばハルは案外適当そうで可愛い趣味をしているだとか、ウィンは案外食が細いくせにグルメだから、どれも一つのメーカーのしか食べないだとか。アーカ爺には昔同居人がいて、死んだあとは趣味も兼ねてこの生活をしているとか。


自分はそれなりに速いころにあの二人と知り合って、土地を持ってるアーカの暇つぶしに付き合うことにしたとか。土地を法人にして分譲しているとか、そんな生活のはじめのことでもいろいろ彼女は語る。


「そう、例えば……なんであそこが『コールド・タウン』なのかわかる?」


そして彼女がその話に差し掛かったところで、ちょうどエレカは街にたどり着いた。


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「おかえり。ウェルから聞いてたよ!さて、お目当ては…………」


コールド・タウンの入り口でエレカを降りると、モーター音を聞きつけてきたハルが飛んできた。この場合の飛んできたは文字通りの意味で、見事な体さばきで柱と柱を蹴りながら前転で遊んできたらしい。


多分タッグを使っていたのはこれもあるのだろう。ウェルはいつものことだと彼女に袋を渡す。


「これね。サイズ合うか着せてきなさい」


多分ハルが犬だったら、思いっきり尻尾を振っていただろう。けれど持っていたのが彼女だからと彼女は残念がる。でも大丈夫よとウェルはするのだ。


「なんだ。それならあんたのセンスじゃないの…………楽しみたかったのに」


「それは心配ない。行ったときにはすでに終わってたから」


「なら楽しみ。それはそうと幾ら余った?」


「半額。渡すの?」


「うん。ってなわけで、使っていいわよ」


そして彼女は財布のガワだけを取るとまた飛んで行った。ところどころで黄色い声が聞こえてくることからも、たぶん着せてまわろうっていうのがわかっているらしい。そのうちのいくらかに飛び降りて、彼女は子供に話しかける。声は聞こえないが、察せた。


「…………なんともアグレッシブな」


廃材の街をどうすればあんな風に動き回れるのか。そしてそもそも、どうして人にあんな風にできるのか。


「慣れなさい。良くも悪くも、あの子でここは回ってるんだから」


それから少し歩いて、平地の上に並ぶ珍しいプラスチックの家に彼女は消えていく。


「ま、電気で世話になるでしょう。そのときは着なさいね」


アストラはその姿に、小さく礼を言った。


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買い物から三日たった朝のことだった。知らない子供がアストラの服のすそを引き、手に持った風車を渡そうとしていた――――どこか見慣れた服を着ていて、はぐれたの?と聞いてみると否定する。


ならどうしたのと問えば、彼女は自分をシャルク・ハネスの娘だというのだった。


確かそれは、少し前に飲んだあの男。時折仕事帰りにいろいろ融通しあったり、ボードゲームをしたりと近しくなっていたのだ。よく思い返せば、いつかの日に娘がいると聞いた記憶がある。


少女はそれを強引に渡すと、小さく「ありがとう」とつぶやいて走り去った。後ろ姿でやっと思い出せたが、それは自分があの時買っていた服――――フェイクレイヤーのシャツにサスペンダー止めのスカート、ブラウンのジャケットだ。


さすがに好きそうなゴテ盛りのスパンコールだのはどうだろうなと選ばなかったが、偶然にもお気に召したらしい。


渡された風車は丁寧に黒染めがされていて、エッジはすべて丸まっている。薄めの板で出来ていたが、曲げるには子供の力でも厳しいものがあるろうとわかる。


親父か母かに、作ってもらったんだろうなぁ。


年からすればまだ、旋盤はともかくドリルも使えないはず。握力からしても、材を切れるわけがないだろう。


彼は息を拭いて回してみる。いくつかの声を喉に消して、通り過ぎる人並みに、働いた意味だなと重ねてみた。どこか懐かしい、別れる前の記憶が見えた気がした。


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