まだ眠れる獅子の牙/労働
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初めての夜は、久しぶりの野宿の感触。音は小さく冬に感じ、誰もが誰もでここにいる。空気はまだまとわりついているが、室内だからかまだ救う。外の人々はたぶんこれ以上に苦しむのだろう――――同じ目にあったからわかる。
でもそれがいいというわけでも、悪いというわけでもない。自分が生きるために自分のことをしていたのだから、こうなることは必然だ。
だからと言って、か。
自分でもお人よしだということがよくわかる。かつての自分だって、理由もないのに誰かを肩代わりして、結局骨の一本無くす。同じことを何度繰り返せば私は学ぶのだろう?
アストラは置いてくれていたベッドで眠りにつく。いつも以上に部屋の温度は低く感ぜられた。
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朝目覚めれば、白くなるほどの温度の低さ。暖房なんてものはないから、人の熱でしか保てない部屋。そこでどうするのかなんて考えてみたけれど、ここに来た時点で私はどうしようもないらしい。アストラは部屋のノッカーが動くまで、白く濁った窓を見ていた。
「おはよう。ベッドの調子はどうだった?」
「ベッドより布団の質を上げてほしいもんだが、まあ仕方あるまいという感じか」
「そりゃどうも」
部屋に来たハルに彼は、どうすればいいと言葉を投げる。
「ま、それならそれで、ボランティーアでもすればいいんじゃないの?ここは結局セルフサービス。できることはやらないと」
タッグを回して彼女は示す。
「じゃないと金も、電気も食べ物も。何一つ手に入らないからね」
「なら稼ぎを教えてくれ。用心棒一本で食えるのか?」
そんなことわかっている。だから彼はここの産業について聞くのだ。
「そう来なくっちゃ。分解担当まで、案内するわ」
土固めのストリートへと道をおろし、彼女らはこのビルを出た。
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ぼそぼそと、あいつは誰だという気配がある。新しい人間が来たからだろうが、それによって向けられる感情は受け入れではない。本質的には疑いが近いのだろう――――誰が望んだというわけでもないが、徹底的な排斥を続けられればこうもなる。
火をつけられ物を盗まれでは集落だって作って力を得たくなるから、仕方あるまい。
ビル前の広場から放射状に延びる道を通ってジャンク山に入り、ハルは取り仕切るような男性に声をかける。彼はそいつが新人か?と小さく眺めたのちに、まあ覚えてもらわねばなとエレカの残骸を示した。
「アーカ爺さん。こいつバラしていいの?」
「好きにしな。どうせお前でなきゃできん奴だ、連れてきたってのはそう言うことなんだろ?」
「察しがいいことで何より」
アーカ爺と呼ばれた男はアストラにモンキーレンチと切断機を手渡し、あとは任せると自分の作業に戻った――――彼が分解しているのは、偶然ながらアストラがカーチェイスに使っていたものと同系同色の新品らしい。
「近年のエレカは無駄に複雑で硬いプラだからな。工具は耐えても力が足りねぇ――――だから、ぶっ壊れたのをやらなきゃならんのさ」
彼はついこの間事故で手に入れたんだとつぶやき、ちぎれたモノコックフレームから丁寧にプラスチックを取り外していった。
ほとんど手つかずの廃品をバラしていいと、ハルは気分よさげにボンネットを開く。
「じゃあ、モーター周りから始めましょうか――――だいたいはフレームと結合してるから、分解の為にモノコックを切断から始めるわ」
そして彼女は腕を組む。工具を使わずに?とアストラは思ったが、そういえば彼女には不可視の力があったなと静観する。何かをつかんだようで、左手だけを腕組みから外し、指を開くとフレームはねじれた。
そのままキャビンまで真っ二つに裂けて、モーター周りは完全に露わになる。それをひょいと引きはがし、
「こうするの。わかった?」
とハルはどうしようもなく言った。
「参考にならん」
アストラは使いもされなかった工具でモーター周りの固定具を外し、とりあえずプラの山にそれを放り投げて線を出す。一応は経験があるけれど、かつての時代からは大きく離れているように思われた。
「まあいいわ。次はバッテリーだから、これも後ろから取り出すの――――ここか」
彼女はまた車体を引き裂く。少しは慎重になっているけれどもおおざっぱで滞りなく、固体バッテリーが箱のまま取り出されるのだ。
そしてまたキャビンに到達し、面倒なロックだのを回避する意味もあって車体が左右に、まるでさんまでもおろすかのように分割される。そこから格納されているハンドルユニットを取り出し、今度はシートを引っぺがして固定具を捨て、ボルトヘッドを捨ててマットを取り出した。
「んで次が操作系……まあ、ダッシュボードの奥か下よ」
今度はプラの板材が丸ごと引っこ抜かれ、ナビとコンピューターをあらわにする。
「……バラしてどうするんだ?」
アストラはそれを受け取って、板と電子部品を分かった。
「売るの。レアメタル量がラベルにあるでしょ?分割して、貯めれば資金よ」
「いくらで?」
「1キロで60人が一月ね」
「前はその1割だったが…………需要も上がったもんだ」
かつてとほとんど同じ系列で、抜き方も同じらしい。アストラは簡単にレアメタル複合回路を取り出し、どうすればいいか聞く。とりあえず後で分けるからそこに置いておいてと言われたので、彼は箱に突っ込んでまた一つ受け取った。
「で、残りも売ってカネにする、か。フレーム単価で200とかそこらだろう?」
「そ。あっちで固めるから引いてって」
ハルは持てるでしょう?と軽くエレカのフレーム材を投げつける。あんたも持てるだろうにと捕まえて、そもそもだったらあっちでやればとアストラは背負うのだ。
「固めるって…………どうやって?」
「ウィンの仕事だから。私はバラすだけ」
「あいつか…………」
「ま、教えてくれるわよ。あと、あの一台明日までにバラしておいてね」
そして彼女はついでにと、送っていない物どもを乗っけ、アストラをシェルパめいて歩かせるのだった。
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