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まだ眠れる獅子の牙/平穏へ

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人形は、自分の体を削って家を作った。その家は大きく大きく、自分の体の倍はあった。もちろんそれだけを削り取ったのだから何かあってしかるべきなのだろうけれど、彼の体積的には何もないように見える。まあ関係ないよと、ハルは話を始めるのだった。


「あるところに平原がありました。人の森の端にある平原は、だれも住んではおりません。ただわかることは一つで、だれが住むにも適さない地獄でありました」


そう語ると人形が苦しみ斃れ、家が崩れ落ちる。いつの間にか柱までご丁寧に立てられていて、それなりの規模のそれはパンケーキクラッシュして溶けるようになくなった。


「理由は簡単」


次はまた別の人形が二人、粘土から生まれいずる。それらのうちの片方はなぜか武器を持ってもう一方を殺す。そして肉を吸い取って変化をする。


「なんとそこには、土の悪魔がいたのであります――――そして悪魔はどうしてか、力を欲しておりました。だから力の為に殺すのでありました。どうしてそうなったかは分かりません。けれどもそれを繰り返して、悪魔は一つの理解をしたのでした」


今度は小さな町が飛び出る。


「多く吸えば力となるならば、自ら養殖すればいい。彼はその理解のまま、街づくりを始めます。どうせこれからなのだからと地下に潜り、仕組みを整え。一人ふたりいなくなってもいいくらいにまで土地を進めます。それを知らない皆々は、彼のことを英雄としてたたえていました。彼は言います」


粘土の悪魔はスーツを着込み、マイクに向かって口を開く。


「私はこの街を愛している」


「それが嘘なのかは誰も知りません。だから食べられることになったとき、やっと理解できるのです――――そして偶然、とある少年がその相手になりました。彼はどうしてか、悪魔と同じでありました」


そして小さな取っ組み合い。粘土らはそのうち互いを食い合い奪い合い、結局傷を負って別れるのだ。


「だから彼らは相打ちとなり、結局二人は別れるのです。そしてのちの為にと彼らは力を蓄えることとしました――――一人は自らの為に、もう一人は守りたいものの為に」


悪魔二人は傷ついて、それぞれまた世界を作る。一人は前の街を、もう一人はジャンクの山を。そして一人は死せるものを、もう一人は生けるものを食う――――そしてまた、力を蓄える。


「分かり合えないのだからぶつかり合い、そしていつの間にか壊しあいに。それはいつ止むか、誰にも、誰にもわかりませんでした」


殺しあう二つはすべてを飲み込んで一つになる。最終的には元の粘土の塊にまで、ばらばらにつぶれてうずめられる。丸い塊は表すもののようにでこぼこのテクスチャを出して終わり、つぶれてなくなった。


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「演劇もその程度にしておけ」


退屈していたアストラの元に扉の開閉音が響いたのは、救いであると彼に受け止められた。入ってきたのはそれなりに若い男――――20代前半だろう。来るまでにかなりのことがあったらしく、落としきれていない血の匂いが感じ取られた。


「俺はウィン・T・アドミラリ。ハルの兄だ。あなたに協力を要請したいが、いいだろうか?」


彼は名乗って小さな手紙を出す。この時世にタッグではなく物理書類とはと、アストラはそれだけ本気なのだろうと風蝋をつまんで便箋を取り出した。中には誰かの捺印と公式の命令がある。


「俺たちはアンダーの都市システムからはじき出されていてね…………それで、金属の買取だので生計を立てている。安価に回っている製品があるだろう?それが我々の成果だ」


「ほう…………確かに散々使わせてもらったが、それがどうしたと?」


何があったとしても、シティの外周部は外壁崩壊だのに備えて森林地帯となっている。染み出た水の吸収と地層固定の役割を果たしているが、ツリーハウス形式で住むならばいいだろう――――土地の問題ではない。それに安く済ませる手段になるのだから、そういうのでもない?では何だ?


「これを見てほしい。数か月前に入手した、新たなる開発計画だ」


アストラが考えながらページをめくると、今度はタグレースが机に出される。それから立体映像で表示されているのは新たな建物で、ぱっと見では特に問題などないように思えた。


「まあ、計画だな…………金は出るのか?こういう形態なら大体が」


彼はワイヤーフレームで流し見て、大移動ののちをどうするか聞く。ここまで巨大になったなら、資金が動くはずだろうにと彼はつづけようとしたが、それはどうやら違うらしい。


「出るわけがない。出して逃れたら困るから」


そう遮られた。


やはりというか仕方ないというか、この街はどこまでも落ちたものには厳しい。


「じゃあどうしろと?シティの力はデカいだろうに」


200はいるのに、一人一人の働き口に戸籍に。それらを確保できるわけがない――――おそらく彼らのエグゾダスはすぐに死への行軍になるだろう。シティの横断にいくらかかるかもわからない。無駄に裏社会まであるのだから、踏み抜けば奴隷扱いの種にされることだってありうる。


ハルがため息を吐きながら、インスタントコーヒーとポット、フィルターを取り寄せた。


「だから私たちがいるんだよ。流れで力になるために、私たちが」


注がれた黒の液体を、あきらめながらにアストラは飲み込む。


「…………協力すれば、いいんだな?」


「それは自由だ。逃れるのも自由。だが今日一晩だけは宿を貸そう――――好きな期間いればいい」


「それはどうも」


アストラはまだ隠しているだろうよと込めてみるが、それはお互いさまにと黙殺される。そのまま彼は部屋を出て、少しとどまっていた廊下でハルのつぶやきを耳にした。


「……私たち、いつになったら平穏になれるんだろうね」


わからないなと、彼は足を近くの部屋に進めた。


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