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まだ眠れる獅子の牙/冗談のように

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市街地からそれなりに離れたところに、ひっそりとだけ存在する廃品の山。これらすべては街から運び込まれたもので、部品の分別をしてから売り払うことで生計を立てているのがここの住人だった。


それなりの面積の中には200か300か、それくらいはいるように思える――――そしてその中にはいくらか、人間でない者がいる様にも見えるし、実際に人間でないと理解している者もいる。銃を持つもの、剣を持つもの。誰かを殺せるだけの心意気と覚悟を持った者も、いるらしい。


まだまともに形の残っているシルクリートのビルディングへ、案内というには暴力的な手法で連れてこられたアストラは、不可視の縛りから逃れ『しばらくここで待っていろ』とだけ言われて部屋に収められた。


廃墟一歩手前の構造物の上に、ゴミ一歩手前の古いベッド。マットレスの中の綿はほかのゴミから抜いて詰めなおされたらしく、ふかふかではないものの分厚い――――そしていま彼が座っているクッションも同様だ。


ここからなら逃げられるか?と思って窓を調べてみたが、ガラスの奥には外せないくらいに堅固な鉄の枠がはまっていて抜けられそうにない。だったらとダクトの一つはとみてみるけれど、ご丁寧にばってんこされていた。


「つまり、逃げられないというわけか」


冷蔵庫でもあれば、中身をあさったものを。窓の外を眺めながら、霞をたしなんで彼は息を吐いた。


子供が山と山の間を走り、外れたタガを転がして回る。爆弾めいたものを渡しあって、一人が爆発のジェスチャーをしてみたり。ボールで古典的に好きなことをしてもいた。それを見る大人が教師めいたことをしているのも分かる。ほんのわずかではあるけれど街ができていて、それだからこそどうしてつれられたのかと彼は考えるのだった。


売春?そんな器量もなければテクなんてない。するなら全部自分の為だ。労働力?初老入ったやつがいまさら力仕事をできるように思えると――――いや、まあ確かに鉄骨上げたりはできるけれども。なら何なのだ?


うすうすはわかっているけれど、アストラはそれからあえて気をそらしながら考え、空を見る。合成の青は今日もわざとらしくは見えなかった。


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しばらくすると、あの時の女がやってきた。


「やあ、お兄さん。待たせてすまないねぇ」


彼女はコーヒーを淹れてきたらしい。部屋の真ん中の机に置いたそれからは芳香が漂い、盆から持ってきたティラミスをおろしてすすめる。彼女に少し遅れて腰かけたアストラに向かい、彼女はつづけた。


「さて、何から話そうか――――『死んだはず』のアストラさん」


しかし答える気は無いと、コーヒーを口に運ぶだけだ。そのまま雑にフォークで切って、苦みでつぶれた甘みを運び込み、飲み込んで彼はほっと息を吐く。


さすがにあれをするだけはあると、女は肩をすくめた。


「まあ名乗りもしないのはぶしつけか、そうだそうだ。私はハル・アドミラリ。これでいい?」


けれどもアストラは答えない。ティラミス食ってコーヒー飲んで。カフェで時間でも過ごすかのように、ただ雑音として聞き流しているらしかった。ハルはそれなら自分もと八つ時めいていただく。しばらくの間静寂があって、それから本当にどうしようもない、見合いの時間がいくらか流れた。


天使が通って書き文字が現れるような、本当に何もない時間。初対面相手にそんなにじろじろとするのもなぁと相手の黒髪を見て、褐色の肌を見て、そしてだからなぁと目を閉じる。幾らになってもこういうものは気まずいのか?と限界になり、アストラがやっと口を開いた。


「…………アストラ。アストラ・リベルタスだ」


「それは知ってる。で、ほかに何があるの?」


そしてハルは、やっとかという風に口を拭いた。何があるか?そんなもの。アストラは吐き捨てる。


「何もない。だから聞きたい。なぜここに連れてきた?」


「まあ不器用ですが、いいでしょう。聞かせてあげることにするわ――――ここまで引きずり込んだ理由。そのすべてを」


そう彼女が言うと、どこからか粘土が飛んでくる。それはなぜかハルの手に収まり、彼女はそれをこねて小さな人型を3つ作った。


粘土人形が一人起き上がり、ぺこりと礼をして見せる。


「昔話――――そう、昔話。これはまだ、ここに何もなかったころの昔話」


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