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まだ眠れる獅子の牙/その先


「クソッ!」


動かないペダルを蹴りこんで、アストラは扉を開ける。だったら誰かのを奪うまで――――しかしすぐに道をふさがれ、機関銃を持った人間に囲まれて、どうしようもなく路地裏にまで案内されることになるのだ。


「手を上げろ!そうだ…………そこで動くな!」


めいめいの服で溶け込もうとしているギャングどもは、最後に装甲エレカで道をふさぐ。ご丁寧に3台がかりなので、どう頑張っても走り抜けられそうにはないなと見て取って、彼は出てくる男に目を走らせた。


つややかな漆めいた色から、色素のない薄い肌。シルクリートの灰色以上ではないのかと思える髪の色の彼は、小さく手を叩いて言う。


「手間をかけさせないでもらえますかな?ミスターリベルタス。これ以上するならば、命は知りませんよ?」


「人様を殴っておいて、それはそれは」


「会いに行けばカーチェイス。そうしたのは誰でしょうねぇ」


彼は灰白色に頑丈そうに光る手かせを取り出し、上にあげたままの右手を取ってガチャンと閉じる。


「まあ、お互い様とでも?」


そして腕を後ろに回させて、左手をつかみ


「そもそも、あなたが力を持つのが悪いのですよ…………あとは、オルレのそばにいたことも、でしょうか」


とつぶやいて左手のを閉じた。


鉄くらいなら引きちぎれそうな感覚はあったのだが、それ以上に強固な合金でできているらしく不可能だろう。アストラはそれでも不敵にしながら、


「知り合いが女優で何が悪い?追っかけか?」


として手近なギャングをにらんだ。


オートの拳銃があるらしく、左胸が膨らむ。バックアップも兼ねて腰の方にマガジンとショートバレルを隠していて、メインにサブマシンガン。どれも左右の枷をつなぐクサリをぶち抜けそうに見える。


「逆に良くそこまでたどり着きましたねぇ、キモオタでしたか?」


冗談めいて車に押し込めようとする男は、銃を下ろせと小さく示す。そして開け放しの扉にアストラをつかむと、超人的な力で持ち上げる――――投げ込まれるとすぐ、彼は理解した。


どこかから彼に指向性の高い音波によって、車の中で隠れていろとささやくかれていたことに。


もうどうにでもなるがいい。扉を閉められると彼は、何をするでもなく目の前を見た。装甲ごと前後半分に切り裂かれたエレカから、彼が投げ出されるのは同時だった。


飛んできた影は的確に吹き飛んだ人間からサブマシンガンを奪い取り、乱雑のようで精密にアストラの手かせと敵の頭をぶち抜く。そして自由になった彼を今度は別の影がつかんで言うのだ。


「ついてこい、ミュータント」


そのまま彼は、脱臼しそうな勢いでビルの上へと連れ去られる。追いかけようと先の男が駆けだしかけるが、それを抑えて誰かが言うのだ。


「すまんな、『ストレイド』。私達には戦力が必要なのさ」


「まだくたばってなかったとはな、ジャンク屋が」


「ま、腐れ縁ということさ」


「何をする気だ?あんなものをもらったところで」


「俺達には力がいるのさ」


遠くから風に乗って聞こえてくる音に対し、アストラを担ぐ女は「聞こえているでしょう?」と問う。それがどうしたと強がってみると、聞こえるはずのない距離なのにねぇと彼女は笑い、続ける。


「目覚めているのならそれでいいわ。だってきっと、まともに外で生きられるとは思ってないでしょうから」


いつの間にか枷が切り払われていて、既に自由だった腕には何も残っていない。ぶらついて邪魔だからとそれを彼女の顔面にたたきつけたアストラは、捕獲から逃れ着地して前転する。


「何が欲しい…………なぜこうする!」


残った左手のを握りつぶして、体重かけて引き延ばして棒にする。


「俺はただ、平々凡々を望んでいただけなのに!」


そして振りかぶって叩きつけるものの、いつの間にか棒は粉みじんにされている――――その上で彼女はアストラを手を捕まえて放り投げ、地面に広がる彼を拾い上げて不可解の力で縛り上げるのだ。


「だが今戻ったところでどうなる。土にでも還るつもりか…………?冗談じゃない。思いだけで何ができるというのだ」


「だがそれでも…………」


そのまま彼女はアストラを背負ってどこかに走る。


「それでも、何だ。それでもどうするというのだ。意思で人がよみがえるか!」


「それでも!」


手も足も出ないままに、彼は運ばれるだけしかできない。ただそれでもと抗う心を持つしかできない。そしてただ、ジャンクの山へと姿を消されることしか、できないのだ。


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