表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
147/174

二の十乗/選択1-2

----


休み終わりの新学期。それもちょうど、始業の日。それが事故の日だった。その日は珍しく、●●が自宅近くのバス停で待っていた――――当時の彼女が言うには、いつもの路線が遅延していたらしい。生徒会の引継ぎ仕事だのがあるからと、遅れるわけには行かないようで。


だから私の使うバスを選ぶのは自然だった。


「●●じゃないの。遅延?」


「遅延。ってことはバスはまだよね?」


「もちろん。こいつ引っ張ってるときに間に合うわけが……ねぇ」


二人が会話しているのを、眠気もあってただ聞いているだけだった。私はその時、半分寝ぼけながら手を引かれていたように記憶している――――その手が誰か別の人間に受け渡されたことも覚えていて、受け取ってくれるのは彼女だけだったからと、主たる●●に寄りかかってみた。


幾分嬉しそうに、彼女は「もう朝なんだから、起きなさい」とつぶやいた。


私はただ、うむうむとするしかなかった。


それからしばらくして、バスは何もなくやってきた。黄色い二階建てのバスは、スクールバスなどでなく普通の公共のもの。扉が開いて誰も降りないので、扉わきの端末にタッグをかざして席を探した。


「ちょうど三人……こっち」


最初に乗った□□は、窓際に入り込んで●●と私を連れる。一階の最後尾の席で、それはだいたい、うちの生徒で埋まっているのだが。


「おあつらえむきねぇ」


今日は珍しくそこに誰もいなかった。私は眠りそうだからとよっかかれる窓際に入れられ、●●、□□の順に座る。外は今日も相変わらずで、読むものもなく、それ以上に好きなことはあれど眠たし。だから私は目を閉じた。


いつもよりほんの少し遅めの加速度を感じ、リズムに乗って目が沈む。こっそり手をつないでいた●●の感覚を感じながら、しばらくは心地が良かったと覚えていた。


----


事故から軽く10年は経過して、世界は完全に入れ替わる。


シルクリートで染められた道路には、爆発の跡も破壊の跡もありはしない。いったい誰が、ここに地獄があったなどと理解できるだろうか?そんなもの、知が無ければあり得ないのだと。


花を手向けるべきなのだろうけれど、すぐにゴミ掃除ロボに捨てられるだろうな。


多すぎて機能停止しかけのロボを見て、いまだに置かれるたった一つの造花でいいと、彼らは手を合わせて目を閉じた。事故の時刻は今くらい。寝ていた私にはわからないが、●●が語るならそうなのだろう。


「久しぶり…………ですね」


同じようにする人とは、顔見知りになった。


「半年ぶり、でしたね」


互いに言葉少なく、あの時を見る。数少なく救われたのが私たちだ。バスに投げ出された二人、救い出された八人。それ以外は全員がいなくなった。


私は前と同じように、軽食でもと彼を誘った。


「ごめんなさいね。今は……そうでなくて」


断られるのは、毎年のことだった。


----


黄色かった外壁が目の前に転がっていて、気が付けば無傷のままに外に立ちすくむ。バスに乗っていたはずなのに、いつの間にかカバンを背負って歩道に立って。私は何をしているのだ?そう気づいたのは、めらめらと赤い舌が私を捕まえようとしていた時だ。


何が起きたのかそのときはわからなかったが、耳に届いた大量のうめき声からそれは理解できた。


バス事故だ。


窓際にいた私は偶然にも無傷で投げ出され、寝ぼけながらにして神がかり的な着地をしたのだ。


大量に漏れていることから、もはや空気と一体化しつつある燃料の臭いからもそれはわかる。数少ない燃料使用車が転倒したのだ、いつ炎上から爆発に変わってもおかしくはなさそうに思える――――逃げるべきだろう。


救急車のサイレンも遠くから聞こえ始めている。消防の特殊車両でも来るのだろう、交通整理が始まりつつあり、急げ急げと消火器リレーが始まっていた。


「逃げろ!爆発するぞ!」


誰かの怒号が銃のように行きかう。泣き叫ぶ人の中には、私と同様の状況なのだろう。誰か救ってくれと、片腕から血を流して叫ぶ人間がいる。自分も熱さがあるからとみてみれば、左足にガラス片が突き刺さっていて、出血は止まっているけれども深く痛い。


よく考えれば、健の一つも切れているのだ――――足はなぜか動かないし、神経も死んだらしく感覚はない。なぜそれに今まで気づいていないのだろう?


動けないままに立ちすくんでいると、どうしてか強制的に開かれでもしたかのように視界が広がる。


小さな爆発で開かれた外壁からのぞく、私の隣にいた二人があるのだ。私はどうするべきか?


----


救えたのは一人だけだった。選んだのは一人だった。つまりそれは直接的に、救えないことを示しているのだった。私の行動を称賛する人間もいたかもしれないが、彼らの言葉は一切が私には無駄だった。


恋人か、親友か。その二択はいつまでたっても私の中に残り続けている――――選んだのは事実だけれど、選べたならと望むことは可能だ。


そうした時にどうなったかを考えることも。


まだ若い私にはどうすればよかったのか、その答えはまだ出ない。けれど思うことはできる。しなかったことへの後悔も、したことへの後悔も。してできなかったことへの後悔も、してできたことの後悔も、すべてが今は脳の中にある。


ひとまず今日は、これで眠るとしよう。ただ一日だけもらえた、慰霊と感謝の為の休息。それを体の中に、とどめておくために。


----

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
script?guid=on
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ