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地下街の夜の夢/蒸散

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エレカが目的地と違うところで止まった時から既に、ミオは何かがあると知っていた。ああ、これでもう自分は終わってしまうんだな。そう納得しかけてしまっていた。


どこかからの銃弾で人混みが一体分いなくなり、誤解が銀の弾丸となってマフィアを駆り立てる。存在しない解答の為に彼らは殺しあうのだ。


逃げようと彼女は走るけれど、押し合いへし合いに飲み込まれてまっすぐできない。急げば急ぐほど取り残されたままになって、最終的に取り残されたままのようだった。


「何やってんだ!逃げるんだよ!」


後ろからヤバいぞと壮年の男が叫んだ。銃の声がしたら、絶対に伏せろ。そんな風に物語でも何でも学んだはずだ――――彼は生きるためにと駆けだす。後ろからマシンガンの音がバラバラ笑い、首を吊ったように痛みを何人かに押し込むのだ。


誰かが通報したらしく、パトロールとは違う音が広がる。逮捕が救いなのか、それとも社会的な脂肪なのか。どうしようもないままに少女は振り返った。急げよ、急げ。誰かがそう告げた気がした。


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神経が断裂する音を聞きながら、カーターはあの少女を探していた。今の能力を使えば、目の前の相手から逃げることは楽だろう。けれど殺しにかかるならどうなるかわからない――――腕の差は見えたから、目標がバレれば行動だって見透かされる。


能力一本で食っていたころも、直接戦闘の研鑽を怠っていたわけではない。いくら人外のミュータントとはいえ、銃を撃たれれば傷を負うのだ、研ぎ澄ますに越したことは無い。


けれどそれなのに、どうしてたかが数か月の相手にここまで苦戦しているのだろうか。


一撃離脱の繰り返しで確実に傷を負わせてはいる。しかしガードも回避も的確で、かすり傷と擦過傷、打撲が限界だ。


鈍い音が連なるこの場所に、血液はほとんど落ちていない。急げよ体…………!


分解されていく神経のパルスと音のギロチンが、頷くように心に合わせる。等比数列が二乗三乗に加速され、今度は肉体の細胞がアルベドとなって光を放つ。同時に急激な熱の放出が始まって、肉体を燃料にした強制的な空中機動が始まるのだ――――これならきっと。


白煙を噴き出して空を飛び回るカーターは初めて、アストラの腕に骨折レベルのダメージを与える。自爆でなく純粋なストレートとフックのみでなしえたので、彼は一度引いて反応するのと同時に前に飛んで蹴りかかった。


精神が少しずつ燃え尽きている。このままの限界は90秒だ――――三度の蹴り連続から上腕の薙ぎ払いにつなげ、頭周りを守らせたところで腹へのアッパーを入れた。1メートルほどアストラの体が飛び上がり、それに合わせて彼は下へとたたきつける。これで残り83秒。


地面に体が沈みこむと同時に金属質の針が飛び出てくるが、ランダム配置とはいえ回避できる。どころかそれを足場にして近づいて、瞬間的に生まれる鉄の盾を壊し、隙間から剥ぎ取りと連撃。


トラバサミのような罠もあったものの、物理的稼働の速度よりも早く動けたから意味はなかった。


音すら置き去りにするかもしれない速度で拳が飛んでくる。残時間はおそらく64秒。一時的な鎧はすべてはぎとられるので、作ったバックラーで何とかしのぐ状態だ。


残時間が50秒ほどになると、カーターの体が赤くなり始める。どうやら何かが変わった――――きっとのうにえいきょうがではじめたのだろう。せかいがどうしてからんざつにみえる。


ころすべきあいてがコートのかたまりにしかみえなくなってきた。かわでできたそれにみをまとったおとこは、なにかぎんぴかにうでをかざす。


つかえなくなるようにちゅうとでおると、どしゃくずれのようなこえ。かつてスピークイージーでころしたあいてのごとくして、かれはできるかぎり、アストラのからだをつかんでなげた。


シルクリートのどうろがぼこぼこになり、ひとごみのにんげんがかなりつぶれる。


「!!!!」


もうあいてのこえもわからない。どころかまともないしきすら――――ここがげんかいだった。


いまやらなきゃしぬ。かーたーはさいごのいちげきをとこぶしをふりあげ…………。


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ミオの目の前に転がってきたのは、アストラらしいボロボロの人間と化け物だった。恐ろしいほどに赤く光るそれは、全力で殺そうと目にもとまらぬ速さで力を加える。


「……ミオ!?」


アストラが必死に叫び、能力で作ったバックラーで必死にそらそうと試みる。相手の意識はもうろうとしているらしかったから成功し、道路に大穴を開ける結果となった――――反省から今度は前腕をつかみ、握ってまるで割りばしのように折る。


痛みで叫びながらも、彼は


「逃げろ!」


と語ることをやめなかった。


実際身体は逃げるべきだとサインを送っていた。この場で殺されれば元も子もないとかそういうようなものでなく、ただ生きたいというような感覚。けれど意識がどうしてか、銃を取り出して構えたのだ。


「バカかお前…………死ぬぞ!」


視線をそらしたゆえに、肩口に拳がめり込んだ。


「なんで逃げねえんだよ…………!」


アストラは邪魔だと言わんばかりに、片手間でラッシュを避ける。連撃がまるで一枚絵のようにつながって見える速さで、数発は確実に肉を削ってくるのだが、それでも彼は痛みに耐えて守りを続ける。


そのうち甲高い音を立てえてバックラーが二つに割れると、カーターはその断片にも拳を叩きこむのだった。


まさか。


無理くりコートを引きちぎって一度離れると、それがわかっていないらしい。アストラはその間に体を放し、適当な死体をそこに投げ込んだ。


確保できる時間はおそらく13秒ほどだが、それは骨を補うには十分で、反抗の為に息を整えるにも足りるだろう。もはやミンチになりかけている拳の先に追加を行って、彼はとりあえずバックラーを直した。


それからきっと、飛び込んでくるだろうカーターに身体を向け、また別の死体を引っ張り寄せる。


おそらくアイツはもう神経だのがやられている。その代わりにあの力を身に着けたのだろう――――だから別人でも気づきはしない。そして考えるだけの力もない。


だったら思考は読めるはずだ――――攻撃の一瞬にこちらのすべてをぶつける。


できるだけ鋭く、重く強く。彼は純粋に鋭い槍を生成し、両手に持って構える。折れた手の代わりに入れた骨から直で支え、ミンチが四散するのを待つのだ。


太鼓をたたくような音が続く。1秒、2秒、3秒…………。死体はいつ崩れ去ってもおかしくないほどに原型がない。ぼろ雑巾のようで、繊維レベルでほぐされているのだろう。


彼は聞こえる程度の小声で言う。


「……これが最後だ。立ち去れ」


けれどミオはどうしてか、いなくなる気がない。


「もとは私の始めたことだから」


少女は何かを決心したらしく、銃を構えた。同時にミュータントが、まるで銃弾のようにアストラめがけて飛んでくる。


さっきよりも4倍は速い速度で、ミュータントの動体視力でも見えなかった――――それは断熱圧縮で赤く燃える線として空中にひらめき、彼の作った槍を蹴り飛ばして男にしがみつく。それは寄せた死体だったが、あまりの速度ゆえの衝撃波で砕け散ったため、ターゲットはその後ろに切り替わる。


つまりはミオに。


まずい……。たったそれだけアストラが思うと同時に、リボルバーから放たれる光。発砲されたのだ。


弾丸は過たずカーターの頭を貫いた。勢いのままに砕け始める身体がシルクリートに広がり、液体を残していなくなっていく。もとは腕だった部分がじゅわじゅわと蒸発し、熱となって無に還る。


「…………」


あまりにあっけないようで、偶然のようで。二人は少しの間佇み、消えていく男を眺めていた。


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