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地下街の夜の夢/カラス

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いつものように邪魔者掃除の仕事を終えたガット・カーターへ、見覚えのない支払が届いたのは、久方ぶりの雨から2日あとだった。


「今週の支払い証書。どこで買ったんだ?」


同僚から経費で落とされた拳銃に食料、服などはどうしたんだとカーターは問われる。白いオフィスの中でエナジードリンクとドーナツをかじっていた彼は、そんなもの何処にも届いていないと気づき、少し待ってとタッグを見る。


どこぞの路地の銃砲店に、地下のエネルギー食、戦闘用の偽装装備。それらはもちろん彼の購入したものではないのだが、『ああ、それは趣味だ』とカーターは肩をすくめた。


「まあ、まとめたせいでまだ来ないんだがな」


どれもセカンドレイヤーの品であると理解して、カーターはそれをいつ落としたか思案する。しばらく戦闘任務はしていないし、基本的にスリだのは気づくだろう。落としたにしてもだ――――ということは。


タッグに示された支払情報から、オリジナルカードを使っていることを確認。カーターは前の戦闘の時に吹きとばした服の中にあったものが、壊れず残っていたのだと理解した。


「あの時のを……」


どうせホームレスか何かだろう。カードをパクって駅でもと思っていたら、セカンドに入って驚きのままに買い込んだに違いない。でも部外者が、我らの秘密に近づいてしまったことは大きな問題だ――――バレれば自分の首が飛ぶに違いない。


彼はしばらくの休暇を申請した。良くも悪くも替えの利く能力になった今だし、処理能力のあったころの休みは取ってあるから問題はない。非合法組織がここまで良い待遇をできるというのも少し不思議ではあるが、たぶんこういうことをしろとのためにあるんだろうな。


彼は消音拳銃をセーフハウスに取り寄せて、前に使った隠密装備を引っ張り出そうとエレカに乗り込む。たぶんハチ・ステーションあたりでやらかしたか――――それらしい情報を殴って引っ張り出せば、きっとどうにかなるだろう。


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カラオケボックスに寝て、ネカフェで身体を洗って。非合法の世界では身を守れないし、かといって合法の世界では法律に守ってもらえない。だから合法でありながら非合法に近い世界に住むことに、少女は相成った。


このままでは確実にポリスに捕まるのはわかるから、何かをしなければまずい。凶器になった銃を捨てて、非合法の品をこの世から消して。焼却炉にでも叩き落すか、それとも食べてクソに流すか。それくらいしか手法が出てこないのだが、それでもきっと見つかるから意味はないだろうな。


暗夜行路をどこまでも歩けば、声をかけるバッドボーイの波。酔っ払いを実銃だと言い張る実銃で避けて、少女は一週間を空虚に過ごした。


「もうそろそろ時間ですが」


午前五時だから、出て行けとの声がした。


ミオは通貨素子で支払って、帽子を目深にかぶり店を出る。ここ数日は監視カメラを避けて、地下を通って別のステーションに移ってを繰り返して。その上でエレカでの逃避行をずっとしているのだから、そろそろ彼女はこの旅の意味を理解し始めていた。


まだ空は暗い。季節などない中に無理くり作り出した四季なのだが、そのせいか少し肌寒い。薄着しか持っていないせいもあるのだろうが――――少女はバッグの上着を羽織った。


とことことしばらくの住居を考えて、ミオはアンダーシティ外周を思い立つ。皮膚から指紋だの繊維だのを採取されたかもしれないし、生きていれば顔も割れるだろう。


ここしばらくのニュースは、タッグでちらりとしか見ていない。店の据え置きだからそれも制限されていて、自分の物はどこかの川に捨ててしまったからもう使えない――――テレビなんてものはタッグとタグレースに吸収されて亡くなった文化だからもうないしで、何がなんやらである。


かつては情報が広まりすぎたせいで、敵がそれを逆用して自分の状況を見定めるなんて事件もあったらしい。


教科書のいくらかもタッグ内臓だから、物理書籍があればと思うことがくるなんてとミオは息を吐いた。


そうして乗り込んだエレカの中は本当に静かで、上下動などがなければ安心できる。その時間が吐きそうなほどに長いことさえなければだがと、彼女はほんの少しの暇つぶしに、地下で買ったジャンクのタッグをつけてみた。


世界がひっくり返って炎が饒舌に語りだし、ミオの体は川に投げ出された。


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ツェーン・ステーション近くの川に、爆炎を上げて落下したものの声がした。基本的に戦場は好かないのだけれど、また前潰した麻薬組織か何かだろうか?


川沿いの道路まで200メートルほどあるアパートの中で、目を覚ました姿があった。引きしまった肉体をしていて、よく考えなくてもわかる、明らかなるミュータントの雰囲気。外でよっぽど疲れることでもあったのだろうか、着の身着のままでベッドの布団に転がっていた。


まあ、敵なら潰すだけ。そうでないなら調べるまでだ。


コートの男は身を起こし、窓から飛び出して道路に駆けた。シルクリートの歩道を砕いて着地し、まるで壁でも走るかのような跡を残して橋に至る。


さっさとしないと消えちまう。裏の物がらみならなおさら、生きているという情報の残っているうちにしなけりゃ。


数度の失敗を経て手に入れたカードの残骸を見て彼は急ぐ。音の方向からして、たぶんここだろう――――そう思って見下ろした波紋の先に彼は人間を認める。


敵襲でも、あったのか?


水面に浮かぶ少女が、何らかの攻撃にあったことは明らかだ――――川のど真ん中にエレカが放り投げられて、爆発の痕跡が残っている。その上よくよく見れば、板金に人の手の形が残っているのだ。


何か聞き出せるかもしれない。アストラ・リベルタスはあたりを見渡し、そこに何もいないことを確認。少女に能力で作った網を投げて拾い上げた。


黒々とした朝の川の温度は低く、氷のように冷たい身体になっている。アストラは蒸着のシートをかぶせカイロを突っ込み、温度を確保してミノムシにした。これでしばらくは安心だろうと、路肩に置いて彼は潜る。


そして生物の微妙なにおいを辿りながら、エレカを見つけ、扉を壊して中身を引っ張り出した。


一体なぜ、こんな少女が殺される羽目に?


難なく陸に上がった彼は、食品に着替え、拳銃、そしてなんぞかのカードだけのボストンバッグを見て考える。特に変わった様子も見えないし、年齢からみても学童。なすすべもなく川から落ちたくらいで死にかけていることから、能力も力もない一般人だ。


でも、そんな少女がどうして?


とりあえず自宅で手当でも。彼はそう思い、姫でも抱えるかのようにその場を離れた。


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