地下街の夜の夢/押しつけ
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こんこんと眠り続ける少女を、カプセルは運び続ける。太陽灯がまだ残る時間であったはずなのに、周りは完全になにがしかの帳に包まれていて見えない。昼なんて最初からなかったと言わんばかりの明るさで、それ以上にいつまで眠っていたのだ?と思わせるくらいに起きたミオを惑わせるのだった。
「…………どこに向かってるの?」
アンダーシティは縦横に線路が走っていて、そのほとんどはステーション以外は地下にもぐっている。だから闇の中であることは十分良いのだけれども、それが延々と続くことがおかしいのだ。
一応直通ルートがあるから、それに迷い込めば十分可能性はある。だけれどもそれならタッグで設定したはずのステーションにいなければおかしいので、本当になにか、別の路線に行ってしまったのでは?としかなりえないのだ。
よくよく考えてみれば、基本直線の路線にもかかわらずミオの体には周回のGがかかっていることに気づく。それはカーブの時のみにあるはずだが、ほとんどわからないくらいに緩やかなものだから今の今まで気づけなかった――――そして確実な浮遊感。
重力が30%ほど存在しないくらいに見えた。幼いころは世界が広かったというのは、体重という意味でもそうだったのだなという感覚もある。そりゃ単位面積での筋力は同じなのだから、広く飛べるわと納得し、そしてそれだけ時間が長く感じられたのだろうとも。
そうして明らかに下っていることが理解できたころ、線路は水平に戻って減速し始めたらしい。ミオはそれがどこにたどり着いてしまったのか、ということの為に降りる。清掃が行き届いていて、どう作ったかわからないほどに穴のないシルクリートが打たれており、その表面にはなにがしかのコーティングでカーペットめいていた。
駅構内は完全に一本道で、行きも帰りも同じような枝を使うのだろうと、白い壁に埋め込まれた端末でわかる。同時に200か300は楽に送り込めるだろうという地上にもない巨大なステーションで、わざわざそんな設計をする意味とはと彼女はタグレースにカードをかざし、駅を出ることにした。
どうせ心配するような家族でもなし。
そうしてミオは、地上と明らかに違う別の街を知る。
「ここは…………」
目の前に広がっていたのは、どうしようもなく広がる違法の群れだった。
通常の街と何ら変わりないのだけれど、それでもそこかしこによくアウトな店が並んでいる――――上では厳重に防護措置があるからそこまでない銃砲店が、雑なところではコンビニ感覚で並ぶ。
チップセットも偽物か本物かわからないものが並び、サイボーグ手術を売りにした医者まであった。上で使われている奴隷よりも安く買いたたかれる人間に、そこから引っ張り出したらしい臓器売りだのの情報も聞こえる。
「やあ兄さん。アイスどうだい?」
そう遠くから待ちゆく人に話しかけるのは、文字通りのドラッグストアの店主らしかった。
拾ったカードでついた先が、まさかこんな違法の世界だったとは。信じられないというような視線であたりを見る彼女に、色々のヤクザ物が目を向けてはあきらめる。その理由はカードのクリアランスだったからだが、日常と切り離された驚きに隠れ、心臓の鼓動で打ち消された。
見てはいけないものを見てしまった。そしてこれは明らかに危険なものだった。
手の上のカードを折ってしまおうかとも思ったが、そうすれば帰ることはできないと彼女は考え踏みとどまる。それよりも、急いで帰らなければ。
ミオはぱっと見で駄目だと理解し、すぐに引き返そうと試みる。しかし高クリアランスの客が来たと、大量の商人が彼女に物を渡しはじめ、結局そのせいで動きは止まってしまっていた。
「嬢ちゃん!これ渡すから頼むよ!」「うちの弾丸、ワンケースつける」「心筋のサンプルだ、持っていけ」「私らとイイコト、しましょう?」「心変わりすればこちらに!」
まるで言論の機銃掃射だ。いつの間にか手渡された袋に詰め込まれたものはすべてが非合法らしく、終いには人間まで付けられそうになる。
「サタデーナイトスペシャル、あるよ?」
とりあえずこれから抜け出そうと思ったミオは、最後に聞こえたそんな提案を受け、残念だったなと笑う女を選ぶことにした。
「じゃあ店までついてきな」
レザージャケットの彼女はそうして、ミオを店まで案内する。煌びやかな明かりの列にたった一つ切り取られたような、暗がりの路地。そこに隠すように並べられたアタッシュケースがその店らしくて、そこにあったのは銃だった。
地上に持ち帰れば、持っていることがバレれば、まっとうな人生からはお別れしなければならない。
「さあ、いらっしゃい。嬢ちゃんはどれが欲しいんだい?」
店主は押し付けるようにライフルを握らせて言う。
「Mfならこいつが一番安いぜ?それともこれか?」
映画の中でしか見たことのない、本物のアサルトライフルがあった。何をどうすれば撃てるのかわからないし、どうすれば良しあしが見れるなんてわからない。だからミオはガチャガチャと適当に、ついているボタンを押したりレバーを引いたりしてみた――――するとこりゃだめだと見たらしい。
店主は彼女の手からそれを引き上げ、複雑なものは駄目だなと拳銃を差し出した。
「ま、使い方わかんねぇなら教えるからさぁ」
バカにしてるんじゃないか?というくらいにシンプルなリボルバー。トリガーを引けばなにかカチンと打たれて弾が出るくらいは知っていたが、どうすればシリンダーを引き出せるかで少し困ってからミオは、ノッチに気づいてスイングアウトした。
漫画でよく見るような、適当な確かめをしてみる。銃口のなかはぐるぐると線が4本回っていて、途切れることなくコーティングされているらしき色。
カチカチとシリンダーを回そうとしてみると突っかかったので、なんとなくカチリと音がするまで変な棒を動かしてみると回る。ラチェットの音が気持ちいいので、しばらくトリガーガードに入れっぱなしの指が触れたらしい。撃鉄が下りたようだ。
「……えと、これを」
一通り出来ることをしてしまったので、ミオは気まずげに切り出した。買い方などは特に知らないし、金なんて持っていない。雰囲気にのまれ、彼女は半ばのあきらめと直面した違法とともにカードを差し出した。
「……ええ、オーケーだ」
店主はついでに弾丸を手渡し、
「試し撃ちは?」
と目を輝かせる。
「あ、はい……」
もちろん勝てるわけもなく、彼女は弾丸を追加する羽目になった。
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