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遅すぎた埋葬/さようなら

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4日ほどしたときに、隣人が何をどうしてかアースチンの部屋に飛び込んできた。彼は何か不都合があったからかくまってほしいというのだが、病院で誰をかくまうというのだとアースチンは答える。


もちろん自分で、外の国から来た王族なのだと夢見がちに男は自らを『バルミューダ・エンペドクレス・ハスニレ・真田』と名乗った。本来は貴様と語るのもおこがましいほどに身分が違うのだぞと偉そうにしているので、アースチンは馬鹿じゃねぇのと布団に寝ころび見ないことに決める。


それを消極的肯定と受け取ったバルミューダは、どこで寝ようかと布団をはぎ取った。


「冗談だろう……床で寝ててくれ」


いらだち半分で彼は吐き捨て、強く布団を抱いて壁に転がる。半分落とされていた明かりの中で、バルミューダは他に何かないかと探し、ガンゴロガンゴロと部屋を踏み鳴らす。うざったくてうざったくて、痛み止めのアンプルをかじって彼は起き出した。


「ナース?隣人がこっちの部屋で寝るって聞かなくてね…………どうにかしてほしい」


ベッドわきに常備されているタッグを取り、彼はトイレにこもる。聞かれないように抑えめの声だったことで理解され、一応だよと誰かを引き寄せることにしたらしい。


「王の為には幾分硬いが……まあ、よいだろう」


せめてマットレスか布団だけは返せとしてみたが、バルなにがしは全く答えなかった。


「だから人の部屋を勝手に…………」


「私の物だぞ!王に逆らうとでもいうのか!」


彼は怒りなのか冗談なのかわからないよう一瞬叫び、飛び起きるようにして睡眠に戻った。いったいこれがどういうことかわからず、彼は看護師が来るまでキッチンのココアを淹れ、ため息を吐きながら埋め込みのタグレースをつけた。


深夜番組で、もうアニメしか残っていなかった。


あまり気は向かなかったが、これしかないのだから仕方ない。心惹かれるものを番組表で探しだし、彼は足音が扉を破るまで、ハイとはほど遠いテンションを維持していた。


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聴診器の冷たい感覚は心臓に悪いから好きではない。けれど何度となく当てられるうちに慣れてしまって、今は半月ほど刺さっていた点滴の針のように違和だけが小さくといった感じにしかならなくなった。


薬のにおいと同様に、瞬間的な不快だけはある。けれどそれがどうしたものか。


酸素には青いにおいがあるとどこかで聞いたのだが、空が一切どこからも感じないのと同様の理屈なのだ。


「あの人、前々から別の病院から『引き取ってくれ』ってされてましてね…………」


呼吸音とエアコンだけが響く診察室で、そう医師は語った。少し前に彼は、隣人についてとうとうとしてアースチンの隣人について語った。どこから来たのか、なぜ来たのか。いろいろがアウトにならぬ範囲で彼の耳に届いた。


時計の針が13時ちょうどをさした。アナクロなクォーツ式の時計がボンと響き、昼の時間ですと彼らに伝える。


「それで、ですか」


アースチンは一度会話を打ち切り、ゆっくり息を吐いて虚空を薙いだ。


「気に障りましたか?」


抑えるような医者の問いに、彼は小さく微笑む。愛想に近いのはよくわかった。


「そう、ですか…………」


少し前に気まぐれに、あの王様気取りについて少しだけを聞いたことを彼は思い出した。


誰が自分を収めたのか。それは自分自身だと豪語するけれど、家族が邪魔がって投げたことは簡単に分かった。手が付けられないから、あくまで入院として死ぬまで。ドグマに落として回収しないというだけのことだろう。


自分から進んでとはいえ、自分だってそんな風に埋められたようなもの。棺桶めいた部屋に檻付き鍵付き――――どうやって抜け出したかはわからないが、あの男だって同類だった。


カルテに書き込むペンの音だけが、カツカツと響く。


「いやはや、空気の一つもやわらげられないとは。お恥ずかしい限りです」


彼は一筆やり切ったという感じをして、無理した笑顔で風を切り裂いた。


「それはそうと、調子はどうです?」


ぽんぽんと空腹を示して見せ、彼は


「腹回り、何か起きていませんか?」


と続けた。昼の時間だから、昼食に行きましょうとの暗な提案なのだろう。


「……少しだけ、たぷんとする……くらいでしょうか?」


お茶を少し前に飲みすぎた。そんな冗談だったけれど真に受けたのが目の前の彼だ。


「服を捲ってくれませんか?」


冗談ですよと答えてみたけれど、熱心に聞く彼はどうもあながち冗談でもないらしい。二重三重にチェックしてみるその姿と、急いで書き込む追加の記述。ちらと見えただけでも、要検査だそうだ。


嘘から出た実とは、現状にあるのだな。


アースチンは微妙に笑みを緩め、ああそうかと現実を受けることにした――――そして医師は最後の最後まで聞いて、あきらめたように口を開く。


「腹水、ですか。明日には起きるのでしょうね」


「…………予兆」


薬で何とかなると聞いていたけれど、駄目な時もあるとは別で言われていた。確率はわずか3%だった。


「痛み止め、出しておきます」


けれど何とかならん時は、物理的にいなくなるまで耐え忍ぶしかできることはない。だから前兆――――あるはずのない質量の増加だったり、耳内部での異音だったり――――があれば諦めろと知っていた。


確かにかつては何とかなった。副作用か、傷かでひどい目には合ったが、末期症状だけはまだ来なかった。


「明日はよく注意しておけと、伝えておきますから」


けれどこんな簡単に。なれたこととはいえ運が悪いだけでというのは受け入れがたかった。アースチンは擦り減っていく何かを押し殺しながら、感謝の気持ちだけを表す。真実ではなかったが、そこに一切の嘘はない。


「ありがとうございます――――では、また」


「良い日をお過ごしになることを、心から祈ります」


病が末期症状になったとしても死なないとはいえ、激痛が走り全身が組み替えられるような衝撃がある。ドクササコを億倍にしてハザードにまき散らしたようなものだ。彼はケ・セラ・セラとしかできずにつぶやく。


「ハウメアの神の御加護があらん事を」


「?」


「冗談ですよ。隣人にほだされたとでも言ってみるだけです」


肩をすくめ、これで今日の診察は終わった。彼は一度もらった薬を置きに部屋へ戻り、鍵をかけて通貨素子をとる。今日のランチはまずいだろうが、食わねばやってられん。


遠くから差し込む日差しのように、一瞬の鋭さが彼の右腰を突いた。


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