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励声/箱に残ったもの

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地上ではかなりの人間が、破壊され始めた工場の修復だのに動こうとしていた。どこかから呼ばれた消防車だの工作車だのはどこかからの命令で現場保全に努め、そのうち来るだろう特殊解析用の機材を積んだ専用車を待つ。


がれきをこれ以上増やさないという名目で、警備員たちはアストラのいた中から外に出て、何者かが闖入しないかと目を向ける。当人はシャフトに入ってしまったので、ミュータントに対応を任せるしかないと見たのだ。


「急いで避難を!次がないとは限りませんから!」


表向きのメッセージを広げて、なんでも封じ込めのためシーリング樹脂が必要だというカバーストーリーを彼らは乗せる。そうしてバタバタと、白いシルクリートに活動の跡を残すらしい。


「もう終わりだ……」


そんな人ごみをクリスが見ていると、恰幅のいい男性がへたり込んでいた。ちょうどいいからと彼によって、持っているタッグと無線接続を試みる。そうしてエレカの履歴を手に入れて、ついでにログにあったファイルをすべて盗み取った――――ちょいちょいとみてみると、何をどうしたか必要そうな書類がある。


どうして携帯端末なんぞに入れてあるのかと思ったが、着のみ着のまま出たらしい。まだ下と回線がつながっているらしいのだ。


彼女はそれをビッタに流してアーカイブし、がれきの群れに自動で動かし、監視カメラ代わりにアストラを待つ。つい今しがた電算室で戦闘とノーティスがあり、10分すれば出てくるとある。


それまで何が起きるか。遠くのモーター音を聞きながら彼女は、天に息を吐いた。


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そこまで広くない地下空間は、炎に包まれ始めている。エコーが破壊するガス管だのから噴き出したものに、アストラの銃の熱が伝わりでもしたらしく引火したのだ。


スプリンクラーもあるはずなのだが、上の設備と共用の水らしく動かない。ほんのわずかずつ消えていく酸素の中で、もろくなる金属質を武器にアストラは、10分の解析時間を稼ぐためにエコーをワイヤーで縛り付けて壁にたたきつける。


下半身が埋まりこんだそれは、勢いに乗ってアストラを逆に投げ返した。


そして線を切って超音波メスを乱射し、アストラを切り抜こうとする。


「うるさいが…………!」


ハンドスプリングで抜け、捕まえる手を剥がして彼は、顎をまっすぐにけり砕いた。


血液が広がって、暴発する声に口が切断され、エコーの顔が半分ミンチになる。だが壊れかけの顔で彼はアストラを捉え、死んでも構わんと余計な部分を吹き飛ばしてまで連撃する。空中ゆえ姿勢の変化しかできなかったアストラは、それを肩にかすった。


互いに一度離れて息を吐き、彼らは次の機会をうかがう。ダメージは深刻で破壊も怖いエコーは早く決めたがり、逃げが待っているアストラも拙速にしたがっていた――――そして同時期に彼らの意向は一致し、踏み出したアストラの音を銅鑼として、エコーは彼に手を伸ばした。


大振りにアストラはこぶしを突き出して回避を誘う。だが避けずにエコーはダメージ覚悟で捕まえて、いくらか血を流しつつ爪を差し込み逃さない。


右腕からビリビリと感覚が伝わる――――声帯から肉体で反響して放てるのならば、それがどうして破壊覚悟で胸郭から出せないわけがあろう?


アストラは自爆技とみて腕を抜こうとしたが、既に深々と差し込まれていて離れない。


「無駄だ!俺の爪は20センチの鉄すら貫いた!その程度で!」


エコーは少しずつ肉体に力をこめ、シャコの一撃のごとくして最大の放出を待つ。足を絡ませ押し付けて、爆弾を抱いたような状態にアストラをしてから彼は、全身全霊で息を吸った。


龍のうなりのような空気の流れ。それから繰り出される一撃は、自分もろとも受けた相手を肉片にさせてしまうだろう。


「!」


不可聴の轟音が、あたりに轟きわたった。


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爆発したかのような衝撃があたりに広がり、工場の外壁がいくらか誇りを上げて崩れる。それを見ているクリスは地下に何かがあったらしいとすぐに理解し、アストラにノーティスを送った。


だが返事はない。やられたのだろうか?


エレベーターシャフトから噴き出す大量の空気がそれを否定するようにアストラを運び、切り取られた腕の一本が、ついでとばかりに吹き飛ばされてきた――――切断面は鋭く、まるで刃で一瞬にして分かたれたからしい。


前に見た剣でも使ったのだろう。彼はそれを四分の一に詰めたかのようなナイフを作って投げ、警備員の壁に穴をあけてビッタの言う『帰宅手段』を探す。


彼が目を皿にして周囲の暗闇を見ていると、それになじむ艶消しの黒が目の前に飛び込んできた。


装甲で覆われたリムジンめいた高級セダン。どこか武骨でパワフルなスタイルをしており、タイヤの一つに至っても銃弾をはじいていた――――運転手は扉を盾にしてアストラの前に止まり、彼に言う。


「あんたを運んでくれと頼まれてる…………乗ってくれ」


「……どこまで?」


「ホーム・スイート・ホーム」


そうして彼が乗り込むと同時に、セダンのタイヤが地面に向かい、リフトファンになって空に浮く。その上リアトランクからジェットの噴出口が見え、車は空を飛んで遠くに消えた。


それを見届けたクリスはドローンとの接続を切り、少しの間目を閉じて冷蔵庫から、アオイドリンクを一本ビッタに手渡す。いくらか長い今日の夜は、あと少しだけ続くらしい。


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それからアストラが帰ってきて、物理素子を受け取って解析をして、一度きりの共闘関係は終わった。


クリスたちはそれぞれ『ストレイドのシノギ』と『データベース』を交換し合うこととなり、アストラが力で入手してきた資金のルートと、私たちが情報で入手してきた力の根源。それぞれが彼らの手元に残る。


この事実について、クリスはこう思った。


それらがどう動くのかはわからないけれど、告発には一歩近づいたということは確かだ――――陣貝を作り出して私兵とすること、そしてそれを裏社会での立ち回りのための力としていること。都市の根元にまで食い込んでいるのかもしれないそれに、私たちはどう生き延びればいいのだろうか。


それはおそれにも似た、生存の欲らしきものだった。


ストレイドはストレイドで自分の役割を果たし始め、アストラはそれに怒りから立ち向かう。ミュータントを知って、あれが何か知りたいという理由だけで入ってきたクリスにもそれは止まることない。日々の糧の為に踏み込んでしまったビッタにも、それは止められない。


ただ、今日の日だけは平穏無事であることは保証された。それが良いことなのか悪いことなのかは、この後の誰かが決めることだろう。


アストラ・リベルタスは今日もケルスの闇を飛び交う。


ビッタ・ベリスは電子の海をいつまでも泳ぎ続ける。


クリス・エヴァンスは事実の為に前を向く。


彼らがまた会うのは、そう遠くなかった。


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