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励声/ヨハネ

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工業用の薬剤生産工場。アンダーシティでは加工貿易か農業が経済上重要なものとされているため、よくあるものだ――――だがここは麻薬の生産工場でしかない。それで手に入れた金で動く、違法物の研究所でしかない。


立法府で禁止された成分をベースにして、一応合法でより効き目の強いものに変更するのだ。そしてそれを上で生産し、工業用途で買って流す。末端で2か3倍。それを民間人からひりだしているのだ。


今月の生産状況と、上から送られている違法化の日程が電光掲示板に表示されている。それはどこか本末転倒のような気がして、工場長には好みではなかった。


「あっちはどのくらいの生産を望んでいる?」


彼はわかりきった質問をして、向き合っているミュータントと会話をするのだ。それは自らのことを『エコー』と呼ぶように求めていて、それは自分の力からそう名づけられたコールサインだ。


彼は言わずもがなだろうとして肩をすくめ、我々の求める量だけでいいと返す。工場長はそれに隠してため息をつき、ライン稼働率についての面倒な始末書をどうしようかと椅子に腰かけた。


「お上はいつも無理押しをする――――金は生産に消えているのに」


地下についての書類を焼却し、彼は地下のサーバーにアクセスし、ファイルを一つ開く。3重の認証とバイオメトリクスで開いたそれは、大量の遺伝子コードの実験データと性能の向上が踊っていた。


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草木も眠る丑三つ時に、ごうんごうんとうごめくプラントが一つある。外見は特に変わり映えのない、のこぎり歯の採光屋根に搬入用だので広くとられた空き地。こんな時間にまで警備員を置いているが、それ以外に特にいうことは無い――――住宅地からは幾分遠く、工場のみの並ぶ経済地帯。


それから200メートルほど離れたところにあるビルの屋上に、アストラが居た。


「では、連絡の通りに潜入する。デコイは頼んだ」


彼の通信相手はビッタ・ベリス。相方たるクリス・エヴァンスは彼女の元で警護に当たり、緊急時はポラリスを通じてのサポート役としてビッタの元にいる――――つまり今のアストラは実行役だ。


「ビジネスだからね――――引き出した情報を解析して送信する。それで今回の関係は終わり」


彼は工場の死角から飛び降り、足音を完全に消して着地する。


「ああ。あの蝙蝠野郎を消して、あそこにあるはずの連絡端末を乗っ取るだけ。何も悪いものはねぇ」


そのまま闇に紛れてフェンスを越え、見通しのいい平面に置かれた監視カメラを無効化しながら駆けた。その途中にある警備員は特製のナイフを投げて斃し、一部は壁に貼り付けて通報を止め、そのまま進んで彼は建物にとりつく。


そして白い壁とシャッターの前にある、小さなポーチの上の端末をアストラのタッグと接続し、彼はビッタに操作を明け渡した。


しばらくのノイズののちに画面には緑文字の『OPEN』が広がり、五蘊に響く解放音があたりに響く。その上で彼は遠隔操作スイッチを握り、ナイフに仕込んだ爆薬に火をつけた。


爆炎はそこまで大きくはない。せいぜい半径50センチほどだ――――けれどそれが狙う場所は重要な電気配線をもろに直撃しており、破壊されて全棟で停電が発生する。緊急用補助電源が動き出してそれをカバーし、脱出のためにシャッターのほとんどが解放された。


破壊工作の音に飛び出てきた警備員の銃を99ショートでぶち抜き、機能不全での銃身破裂で彼らを慄かせて蹴り飛ばす。3人をまとめて飛ばし、そのうちの一人の持っていたアサルトライフルを借りて彼らを殺し、アストラは奥に急いだ。


今回の目的は先のとおり、情報を盗んでミュータントを殺して離脱すること。そのためには外に情報を漏らせないほどに電撃的に攻撃をしなければならず、また確実にポイントを見極めて行動しなければいけなかった。


「どこにロックがかかってた?」


アストラは廊下を駆けながら、マップにポイントを求めた。今回のプランは、解除システムに侵入してロックについて調べ解放したのちに、特に権限のいらないものをすべて開放して道路にするというもの。つまり重要部分はわかっているので、そこさえ示してもらえればというわけなのだ――――赤点で表示されたのは4点ほとんどが事務棟だったが、工場棟達の中に一つだけ該当するものがあった。


廊下の先に警備員の群れが現れたので、彼は近場の休憩部屋に入って扉を無理くりに閉じ、閂代わりに適当なパイプ椅子を折り曲げてタッグを確認する。構造は工場棟だと全て共通のはずなのに、どうしてこの一つだけ?


見取り図と扉の配置などを何度も見て、それなりの推理を組み立ててみていると扉がけり開けられる。マスターキーで蝶番を抜いたらしい。


アストラは部屋に置いてあった木の机を入り口に放り投げて押しつぶし、壁を前転で飛び出て頭を抜いた。そのまま見た方が早いとコンベアスペースに入って飛びあがり、できつつあった大量の薬瓶を踏み越えて反対に抜ける。


ベルトに乗って充填されていた何かの薬液が吹き飛び、ガラス表面についているラベル類は特殊用途のマークがあるのがわかる――――それを気にせず彼は外に抜けて隣の工場棟に入り、また廊下にいた数人を倒して先の部屋に踏み込んだ。


ロックのかかった謎の倉庫室――――しかしそこに何かおかしいものはない。ただ単に精密機械だから収納されているように見え、そこには奇妙らしい入口だの書類だのは何もない。広さは20×32メートルほどだろう。


プール一杯分の部屋には使われなくなったロボットが並んでいる。汎用機械としての自立ロボットで、つい最近型落ちになったばかりの品らしい。それなりの台数がかなり古びた状態だった。


「……何もないな」


アストラはそうノーティスした。飛び込んでみたはいいものの、並んでいるすべては電源と接続されていないから何をしても動かない。そもそも内蔵コンピュータで動いているから情報は引き出せない。


「何も?」


ビッタからの返信。しかし実際に何もないのだ――――ロボットを除けばあるのは移動用スレッドに柱だけ。どう見ても隠し立てはできそうにないのだ。


「ああ――――柱にロボしか…………!」


飛んできた銃弾をマズルフラッシュに反応してかわして、彼は先のライフルで撃ち返す。ロボットの森に隠れて彼は動き、出入り口へ制圧射撃をして走り抜けた。


「スターライトスコープ持ってんのかよ!」


夜警にしては無駄に重装備で、やはりここにはと彼は考える。ここに無いなら事務棟にだ。


扉を突き破って屋外の渡り廊下を抜け、ワイヤーで壁にとりついてガラスをけり砕く。そのまままっすぐに残った反応のうちの一つに飛び込んで、彼は机と棚でバリケードを作り中をあさり始めた――――中に立ち並ぶコンピュータのほとんどは電源が死んでいるので動かない。


やはりここも見当違いだったらしい。


ということはあと二つ。どちらが当たりなのか。


とはいえ重要人物のオフィスらしく、物理書類に金庫はそれなりに残っている。アストラはその一枚一枚を撮影して送信し、ビッタに文字起こしして解析してもらうことにした。


階下から駆け上がる人間の足音が響いてくる。けれど階段を上がってくるまでには十分探しきることができる。


そうして十分と見た彼は、バリケードを飛ばして次へ行こうとする。廊下に抜けて右に曲がった、奥の部屋だ――――すると遠くから空気を切る重い音。


それも人間サイズでしか出ない、重いようで軽い、ひょうひょうとした音色。


アイツか。彼は身構え、窓を割って入ってきた影に、99ショートを乱れ撃った。


「そいつは確か…………」


空中後ろ回り半ひねりでかわす蝙蝠が何なのかと、ビッタはライブラリをあさる。前に大まかなタグは見つけたから、つなぎ合わせてみると。


「コードネーム『エコー』…………夜間機動戦用ミュータント!」


彼女はそうノーティスした。アストラはそれに声で反応し、廊下を走って窓を突き破った。


「名前のままだな、『反響』とは!」


彼がいるのは地上11メートルの4階。そこから身をねじって着地して、ひび割れが走るのとともに工場棟へと駆けこむ。天窓以外の窓はないそこならば、飛行能力があっても持ち腐れというわけだ――――だが乗るつもりはないと、エコーは地上部隊に包囲しろと命令する。


どうせミュータント一人なのだから、すりつぶせばいい。こちらで無いなら敵なのだ。


エコーはそのまま空中で待機し、充分な人数が中に押し込まれるのを確認してから着地し、そのまま自分も突入する。突破にはもろいだろうが、それは自分の能力でどこにいるかを聞けばいい。


彼はいまだ廊下の中にあるアストラに追いつき、24メートルほどの倉庫室に逃げ込む彼を、ドアを無理くり閉めてやることで閉じ込める。そうして十分な人数が集まるまで、キンキンと響く破壊音に苛立ちながら待つのだった。


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