励声/取引
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隣室を渡すというのはジョークかと思っていたので、アストラは何か気まずいものを感じていた。部屋にある最低限の生活物資は自分のサイズに合わせてあり、どうやら電子戦では完全に負けている。
注文履歴をあさられているらしい――――届け先はボックスだったはずだが、徒歩圏内にしたのがまずったのだろうか。
一つ一つ嫌みのようにぴったりなのが、その気になれば通報してやるのもできるのだと言うようで、崖に蹴り飛ばされそうにある感覚だ。彼はいつものコートを脱いで、最低限をシャツのポケットに収める。
最低限の礼儀を整えて彼は、いなくなったオルレのことを思い許せと扉をノックした。
中にいるのはクリスとビッタ。もちろんしばらく前に戦闘をしていた時の装いだ――――と言っても中身からは湯の後の香りがあった。どうやら装備の重みに耐えかねたらしい。
「さて、取引をしましょうか」
女性の部屋に踏み入るのは幾分気が引けたが、逆にクリスはその程度どうでもいいのだろう。小説のように固い態度でホルスターを持つ彼女はビッタに示し、空間投影で情報を出す。青い色した中にあったのは彼に関連したハッカーたちと、その生死だ。
「貴方は現在で32人と関連して、その上で全員が死んでいる――――何がしたか、語ってもらえる?」
特に何か特別にしたわけでもない。ランダムに引っ張って依頼をして、まかり間違って戦闘に巻き込んだ奴らだった。
「語らなければ何をすると?」
アストラは肩に力を入れて見せる。ほんの少し前は協力をしたけれども、それはあくまで逃げるためのビジネス関係。逃げ切った今なら別に何もないのだ。
うすうすはミュータントだろうと勘づいている二人はそれも見越し、顔を見合わせて肩をすくめた。
「別に何もしないわ…………ただ、ちょっと教えるだけよ」
「何をだ?」
「そちらの居場所をよ。タッグの位置情報は抜いたし」
やはりかと、彼はタッグを握りつぶそうかと思う。中にいろいろを突っ込んであるから、オフラインで移して――――いや、結局ばれるか?
無駄と分かりながら彼は言う。
「どこに?」
それにビッタは、微笑みながら。
「ストレイド――――それが何を指すかは分かるでしょ?」
そうかつて購入した99ショートを回した。マガジンをアストラに向けて投げ、彼女は弾薬のないそれをもてあそんで続ける。
「ガッシャ・ユニットのガッシャハンド。それの99ショートよ――――あなたが持ってるのと同じ、コピー品。どこで入手したかはわかるでしょう?」
同じように彼は自分の物を取り出し、マガジンをホルスターに収めてスライドを引いた。
「セカンドレイヤー、か」
思った以上に深入りできるようだ。彼は拳銃を投げてはじけ飛んだ弾をマガジンにしまい、キャッチしつつ戻して流麗に収める。
「ステーション名の意味も分かるんだろう?」
無言の肯定。アストラはよいよいと冗談めいた剣を生成してみせ、自らがミュータントと示してつづけた。
「…………なら、あくまでビジネスといこうか」
彼らはしばらく睨みあって、互いに同時に力を抜いた。そうしてあの蝙蝠男について、いくらかの会話を交わし、十分に交換条件とした。
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