励声/夜半
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ビッタ・ベリスがしばらくぶりの連絡を取ったはずの知り合いは、珍しく半日以内に返事を返してこなかった。電脳世界での情報合戦に身を投じるハッカーという身分をしているのだから、それほどまでに忙しいのかと彼女は三日待ったが、それでも何も帰ってこない。
おかしいと思って別の身内に連絡をしてみると、彼はこういうのだ。
「奴ならついこの間、頭をぶち抜かれて死んだらしい」
と。
それは彼女にとって、驚きだった。あれだけリスク管理を徹底している男が、何をどうしてそんな風に?
それはそのまま彼女の身の安全保障に結び付き、彼に何があったのかを知らねばという念になる。予備の捨てる予定だったタグレースを出し、彼女は近場のコンビニの回線を盗んで接続してピンを確認した――――かつて偽名だのを使って借りたサーバーから、充分の速度があると返答。
ビッタはそこからノードを辿って、緊急用に教えられていたデータ分岐用の送付先を見て、ある日付からそれが途絶えているのを見る。それはちょうど、彼女が連絡を取る前日のことであった。
コンピュータが起動していれば必ず確認データが残っているので、少なくともその日には彼は死んだのだろう。アイツのことだから、何か分かれば一つはヘルプを送るはずだが、それがないということは…………。
どこかの大型組織に間違えて喧嘩でも売ったか、それともアシついてから逃げるのが間に合わずに落とされてしまったかのいずれかだろう――――だがあんな臆病者が、下手こいて喧嘩を売ったとは考えづらい。
ということは、逃げるのが間に合わなかったのだろう。
さすがに隠しのクラウドは破壊されていなかったようで、送信が死ぬ1時間前のバックアップデータが残っていた。彼女はそれを一つ一つあさってみるが、仕事で使っているデータだけがわかって、それ以外は何もない。
「やっぱり、必要以外は消してたか…………」
仕方ないので最後の送信履歴だけを保存して、彼女はクリスを呼んだ。またしばらく面倒ごとになりそうだが、それでも利害の一致のため、手伝ってもらうしかあるまいな。
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クリスはほとんど使い物にならない拳銃を分解して、ため息をついた。
何度となく撃つ羽目になったせいで手入れ不足になり、ついにはスライドが吹っ飛んでしまったのだ――――修理部品は当然持っていないので、どうにかして購入しなければならない。個人的な好みのデザインで選んだからなのだが、旧式だったのが災いして、ネットにはほとんど流れていないらしい。
しかし表の銃砲店で購入をしにいけないのがつらいと、彼女は顔に手を当てる。ストレイドに目をつけられているのだから身分証明などできるわけもなく、かといって非合法の物を精度に強度をきちんとできるほどの改造などできるわけもなく。
まだ変えの利く、スプリングが折れただの、スライドストップ機能が死んだだのだったら…………。
「ビッタから買ってもらうったってなぁ…………あの99ショート、借りようかな」
かつてセカンドレイヤーで購入したという品。使っていないからサビサビらしいけれど、オイル入れれば動くでしょう。
もしくはサタデーナイトスペシャルでも使い捨てるか。
彼女はフレームまでに分解した愛銃を適当な箱にざらざらと流しいれ、ビッタのいる隣室をノックする。
今は寝ているはずの時間だったが、珍しく彼女はすんなり扉を開けて言葉を語った。
「ちょっと頼みたいことがあるんだけどさ」
いつものようにつり銭は取っておけとそれなりを渡し、まともに使える銃を頼むと、彼女はその程度ならとすぐ注文と信任書を偽造して、メリーランドのP2-4を届けさせるようにした。
前なら何ぞとごねてやっとするくらいだったのに。そうクリスは何かに気づく。ああ、そういう交換条件か。
「オーケー、ありがとう――――で、頼み事は?」
そんな受け入れ態勢の彼女に、注文してから半日で届くとビッタは小さく言ってすぐ、画面を切り替えファイルデータを見せる。
『連続ハッカー失踪事件』
ご丁寧にそんな見出しでまとめられた、ビッタなりの危機感の表明。内容は文字数にして2000ほどだろうか――――クリスは受け取って読んで、それが彼女にも降りかかるだろうと思ってどうか問う。するとビッタは
「わかんない。共通点は見えてるのはなにがしかのファイルを読んだことか、ある一人の依頼を受けてるかだし」
と返して、監視カメラに映った成人男性を見せた。トレンチコートを着て、誰にも見つかりたくないという風にしていて、割合に力強く歩いている。おそらくリアルタイムの映像だろうか。
「それが、こいつってわけ…………?」
「そ。しかも何でか死んだはずの人間なのよ…………気にならない?」
彼女は盗んでいた個人情報をオーバーレイする。男の名はアストラ・リベルタスで、復讐から放火をしたとして有名な人間だ――――自分で自分を焼き殺して終わったらしいのだが、それがどうして。
「気にはなるわね…………」
その事件の時に出動したことを覚えている。前の火災で人々が立ち上がろうとしたときにやってくれたから、ポリスはどうして逮捕しなかったとうるさかったっけ。
けれどあれから半年以上はあったはずなのに、今になってどうして。クリスはどこかで承諾し、口に出した。
「それを待ってたよ」
ビッタはきゃいきゃいとして笑った。
「新品届いて調整したらすぐ頼むね」
そして彼女は『これから何が来るんだろうか』といった楽しみを秘め、いつものようにコンピュータに向かう。
部屋に押し込んだポラリスのタグレースをつけて、クリスは状態を確かめた。
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