フラットアース/玩具
「死神…………噂には聞くが、まさか私に来るとはな…………」
男は炎を右手にまとってつぶやいた。
「それがお前の力か……面白い」
アストラは右手にガントレットを生成し、標識を槍に変形して固定し構える。それに向けて連中が銃を向けるが、その一つ一つをほんのわずかなモーションでの針投擲でつぶして彼は、一周くるりと槍を回すのだ。
「私は何もしていないのだが…………できるとは思わんが、力で押し通して再審をするしかあるまい…………」
5メートルほど離れた距離で彼らはにらみ合った。その間に数人がわきを去って逃げていくが、あまり気にせずに数秒を待ち、タイミングとみてアストラは槍を投げた。
穂先の広いそれを手で払い、先端を天井にさして男は止める。同時にアストラは駆け出して懐に入り、腹へストレートをしたが流された。
そのまま左ストレート、右ストレートとつなげてみたが、流されたので彼は飛び去る。同時に蹴りが空を切った。
アストラは机に着地して置いてあったペンスタンドを蹴り上げ、ハサミを握って横に薙ぐ。それをかわされるのも織り込み済みで、下がると同時に壁を生やして男をとどめ、右腕付け根に刃を差し込んだ。
力強く血が流れ出るのも気にせず、男はアストラの腹に炎をまとった蹴りを繰り出す。ハサミを突き立てた手を握っているので避けられないと彼は確信したが、逆に腕を折る勢いでの飛びあがりで避けられ、そのまま関節から折られて動きを止める。
「速い…………やはり名には、たがわぬか」
最後の抵抗の蹴りも空しく当たらず、だるまに等しくされて彼は横たわった。
「すまんな…………だが、これもしていることが悪いのさ」
幾らか心を痛めたが、麻薬売買していることには変わらんとアストラは割り切り、これ見よがしに置いてある金庫のノブをねじ切る。物理的な書類で証を残し、それを名目として力で解決するのはよくあることだ。
だから残っていないわけがなかった。彼は何枚かを見て、護衛委託の文字を知る。莫大な額だが、それを入れてからは一気に収入が上がっているので、ここからはあのミュータントに任せたということだろう。
彼はそれをコピーしてタッグに残し、這って逃げようとする男の頭をつぶし、残っていたこぶしの炎をもらって書類に火をつけた。
そしていくらか金とメモリを盗み取り、邪魔者を排除しあさるだけをあさってビルを出る。
これらのほとんどには何もつながらないのはわかっているが、マフィア壊滅の実績があれば、そこらのハッカーは言うことを聞くだろうか。
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解析してみようとメモリをタグレースに挿入してみたが、全くといっていいほど反応がない。やはりそういうつながりのある所から持ってきたのは専用のソフトでもないと解析できないのだろうかと、アストラはあきらめてメモリを抜いた。
初めて鉄砲玉を差し向けられてから半月だった。ネット上で適当に見繕ったハッカーにデータを投げてみたが、そのほとんどは解析不能だとして追加資金を要求した。そして彼らはほとんど同じようにいなくなり、後に残るのは通話したという事実だけ。
資金の都合で回線を繋げられなかったタグレースで開いたから、何も来なかったのだろうか。
移動を繰り返し、対応策も覚えた。できるだけ追尾しにくいようにと串を指す手段も手に入れ、一応はつかまれてはいない――――といっても人力で見つけられて攻撃ということは2、3度あった。
確実になにがしかの組織は存在する。けれどそれが何なのか、どういうものなのかはわからないとアストラには思えた。
少なくとも今、野良ミュータントとして自分を認識している、ミュータントを戦力とする謎の集合。けれどそれをどうやって確認すればいい?
彼はまた、適当に見繕ったギャングだのへと駆ける。たった一本しかない、この戦いという道。
逃れることもできないのなら、最後の最後まで戦うしかないだろうか。
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