手を読み込む/ジョン・ドゥ
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弾丸によって穴が開いたのは、アンドラスの顔だった。
札束の中にほんのわずかの空間を作り、そこに薬室を並列に並べただけの簡素な銃を3丁配置するという暗器を使ったのだ――――そのまま彼はPSSを奪い、護衛の1人の腹に弾をぶち込んでコンテナに隠れる。
顔を抑えるアンドラスを盾にして逃げ込んだジョンは、ついでとばかりに引きずり込んだアンドラスが邪魔をしないよう、脳に弾丸でお話しして黙らせた。
アーノルドは出てこられないように、コンテナの入り口に制圧射撃をして二人を近づける。
「今なら命までは取らない――――投降しろ」
彼はそう宣言をしてみるが、肯定的な反応などくるわけがない。開口部正面を除いた三方から近付いてくるライフル持ちにジョンは言い放った。
「なら、命は取るから投降しないでいいんだよな?」
同時にスモークが放たれる。即座に鉛球が煙を貫通していったが、ジョンの血液は一滴も飛散しなかった。
街灯の光を通さない煙に満ちて、夜の闇は深まっている。
あの男の口ぶりから察するに、もうアンドラスは死んでしまっているだろう――――『ダンツィヒ・ジャッカル』は終わりだが、そうだとしても商品だけは守らねばこちらの信頼にかかわる。
彼は大っ嫌いなトリガーを打算で引き、弾が無くなるまで煙の中に撃ち込む。さらにとてつもなく正確な手で、10秒もかからず弾倉を入れ替えた。
また拳銃の音がした。今度は人間が頽れライフルのたたきつけられる音のおまけつきで、どうやら反対側を狙ったらしい。音は1つだったが、すぐに2つにされてしまうだろう――――射撃で勝負してはいけない。だとするならば。
彼はナイフを抜きリボルバーを握って、数秒の隙に煙の中へと体を押し込んだ。
銃で狙えないくらいの近接ならあるいは。
そう思うと同時にアーノルドの背中にとてつもない衝撃があって、砕けるようなひどい音がした。
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それからしばらくは静寂だった。煙が晴れるにつれて惨状があらわになり、ブランクの人間とそれを満たす液体のみが散らばる。立ち上がって逃れられそうな人型は一人だけいた。それは仕方ないのだという風にしていた。
「悪いが俺はポリスでもなんでもない…………ただの人間さ。信じられたいだけの」
ジョン・ドゥことアストラ・リベルタスはそうつぶやいた。マフィア同士の取引だったが、片方がストレイド関連となれば追わない手はない。どうせなら武器も貰ってきてとクリスらに依頼されたのだから、自分へのプレゼントも兼ねて徹底的にしようかと考えたのだ。
「さて、逃げるとしようか」
彼は運転手席に入り込み、事前にビッタからもらっていたハック端末を使って強制的にエンジンをかけた。アクセルを踏むと、予想外にテンションのかかっていたモーターは悲鳴をあげ、ぶんぶんと高回転に留まる。どうやらここに来る時点でかなり無理をしていたのが、戦闘の余波でがたついたらしい。いつ壊れてもおかしくなさそうだ
「動けないか……俺のに積み替えるしかないな」
彼は信頼できないカーゴのドアを開け、シルクリートに降り立とうと足を出す――――しかしその目の前に跳弾の光があり、アストラは側面をぶち抜いて飛び出ることになった。
明らかに人間用でなく、戦闘機用のガトリング。それを持ち出した人の影がある。
ミュータントだ。
彼は流れのまま銃撃戦と対ミュータント戦を始め、不毛に殺しあう。
人間が蹂躙されて人外が日常を荒らす――――そんな非現実的な現実の中、アーノルドは砕けた脊髄パッドの刺さる感覚で目を覚ました。
「頼む……早く過ぎ去ってくれ…………」
彼はまだ握っていたリボルバーの引き金を引いた。
せめて抗えるのならば抗おう。そう思っていたら、あの憎々しい感覚がまっすぐに襲ってきた。
しかしシリンダーは衝撃ではじけ飛んでいたので、誰も殺すことはない。彼はそれに、もう逃れていいのだよとの理由付けをした。
「おお神よ……あなたを信じます」
彼の祈祷は届いたのだろうか。そんな即物的な神がいるのだろうか。ただ一つ言えることは、彼が何とか逃げ延びたことだけである。




