手を読み込む/ガードユース
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夜の中で動いていたからなのか、それとも20分ほど先にたどり着いたからなのか。現場には誰もいなかった――――こういうことはそれなりにあるので、彼らはあたりの確認をして時間を潰し、予定の時刻になるのを待つ。
こういう取引では、人払いをきちんとしておくことも重要なファクターだ。人がいなければそれだけ安全な売買ができ、ポリスに見つかる心配も、対抗組織に追われる心配も減少する。こういう場所では逃げるルートの確認という意味もある。
アーノルドは懐のリボルバーを確かめ、ケースからライトを取り外して影を照らした。
取引は手早く済ませて手早く帰るというのが理想だ。使われない軍隊ほどいい軍隊はないし、無能なと夜警だけの世界ほど安心して眠ることのできる夜はない。
俺はそんな存在でありたい――――けれどどうせ、ドンパチされるんだろう。
タブレットをかみ砕いてカフェインをいれ、集中することにした。今は午前3時で、河川管理場は完全に黙り込んでいる。一般的な始業までは四半日あるのだ、目を覚まさねば。
5人がめいめいに自らのするべきことをみていると、それなりに遠くからエレカのエンジンダミーが響いた。客のお出ましだろうか。
何があってもすぐに対処できるよう、アーノルドは照準器兼用のグリップを良く握った。夜のとばりに覆われていて見にくかったが、真っ赤に染まった小型タイプ。だが型式から見て、分類がおかしいのではないかと思えるくらいは搭載できるだろう種別だ。
「止まれ!」
コンテナに乗っていた三人のうちの一人が叫んだ。そのまま彼は銃を向け、降りるように促す。
「わかりましたっと…………」
エレカの主はそうつぶやき、システムを落として地に立った。ハーフサイズのコートを着た背の高い男は、ボディーチェックを先にしてくれと両手を上げて出てくる――――彼の右手には丸められた札の束があった。今時珍しい物理的な金。
アンドラスは彼に向かい言った。
「疑ってるわけじゃないが、チェックはさせてもらおう…………おい!」
すると先の護衛は銃を向けたまま、他の二人を先に行かせた。彼らはぱんぱんと体を叩き、そのどこにも硬いものが無いと見て取り、首を振る。
「オーケー。すまなかったな……」
アンドラスは手を下ろさせ、肩をすくめる。男は札をコートのポケットにしまって肩を回した。
「あんたらが『ダンツィヒ・ジャッカル』だな?」
彼は値踏みするように視線を走らせた。最初で気分を悪くしたようだ――――取り返すようにフランクな態度でアンドラスは手を伸ばす。
「ああ。俺が代表。アンドラスだ」
「ジョンだ。よろしく」
二人が固く握手をしたのを見て、アーノルドは力をほんの少し緩めた。あの金から見て、拳銃を3か2、もしくは自動小銃を1丁買うくらいだろう――――恐らくこれからに合うかの試金石だろう。セキュリティだのでがっつり使うわけでもなさそうだ。
コンテナを開け、アンドラスはまずは手ごろなものをと、9ミリ口径を一丁取り出した。
「シャーフナックのPSSだ。9×20ミリ。手元に置くにはいい具合のだ」
それを受け取ったジョンは滞りなくスライドを引き、弾が入っていないのを見てからストップを抜く。そして削れをみてからアセンブリを押し出して外すのだ。
「手慣れてるもんだ……元ガードか?」
そこからさらにバレルを外し、街灯の光に透かして彼は答える。
「そう。何度となく撃ってたさ」
左目を開けた彼は器用に組みなおし、スライドとトリガーを引いて重みを確かめた。ドライファイア。正しく組みなおされたことは確かだ。
「プルは1.8キロって所か…………上々だ」
「そうだろうそうだろう!」
PSSを受け取ってアンドラスは、先の物よりごつい一丁を取り出した。
「だが、まだ満足じゃないって顔をしてる」
部分部分に先のと似た意匠の見えるそれは、ハンマー代わりに釘を打っても弾をはじき出せそうに強固らしかった。
「そこでこれだ。シャーフナックAPS。PSSのガード向け仕様だな――――強装のが使えて、ストッピングパワーが高い」
受け取ったジョンは分解する前に問うた。
「内部は同じでいいのか?」
「ああ。ベースは同じだ」
「そうか。ならいい」
すぐさま彼はばらして組み上げ、感触を確かめてくるりと回す。重心の位置が気に入ったようで、盾に横にの手慣れたガンプレイに、場にいた5人は見とれ嘆息した。
地下水の川の音が、さらさらからジャバジャバに変化する。自動放水の時刻らしい――――確か今日の日程は、2時50分だっただろうか。
鈍く光るように、部分のゆるりとしたへこみすらなく磨き上げられたそれを、ジョンはもったいぶって返す。
「出来ればこのまま持ち帰りたいさ」
それに満足げなアンドラスは何かをメモし、護衛の3人に渡してタバコを吹かして言った。




