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ハーフハート・アイ/トレイル

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獰猛な風が吹き荒れる裏路地で、失禁し腰砕けな青年に向かって、騎士はこう語った。白銀の鎧にどこか寂し気な体を隠す彼女の姿は、なにか寂しそうに思える――――だけれど血に染まったその手を見て、気づいていられるような人間はいなかったろう。


「消えた方がいい……じゃないと、私はもう知らん」


彼女の声は、虚勢に満ちていた。


三方を壁に囲まれた、街灯の光の届かぬ暗闇。そこでは骨格が変わるほどにまで殴りこまれた人革が広がり、惨たらしくあごを外され眼球が血に染まっていた。首には締めた跡があり、大腿の骨は折れている。多分もともとカーペットだと言われれば、疑いなく踏みつけるだろうほどに、頭を除けばそれは人間とは思えなかった。


プレートアーマーにしか見えないその姿が元に戻るにつれ、見てしまった哀れな一般市民の悲鳴が加速する。誰がそれを行ったのか、ロボットが犯罪者を殺したとでもいう逃げ道が消えていくにつれて、知りたくなかった物が突き付けられていたから。


「早くしなよ……死ぬよ?」


けれど腰の抜けた彼は歩けない。


肉の一片も外に漏らすことなく体の中の骨だけを折り、体表を徹底的になめす。邪魔だと言わんばかりに歯の一本一本を全て抜いてから声帯を引きちぎり、そして体を恐るべき力で変化させられる。そんな恐怖に塗りつぶされてしまった中枢神経では、何をどうしても心と体を繋げられない。


もはや生きたままにして死んだ彼が、逃げることも戦うこともなくただ静かに寝ころんで虚ろに天を見つめるだけなのを見て、彼女はつぶやいた。


「だから僕は言ったんだ……もう知らない、って」


そして彼はそのまとわりつくような低音に一瞬心奪われ、あっけにとられた瞬間に心臓を奪われる。高鳴る鼓動を彼女は握り潰し、悲し気にもう一度。


「だから僕は言ったんだ…………もう知らない、って…………」


本意ではなかった。そんな思いだけが風にのって小さく響いた。女は目の前に生まれた肉塊に、躊躇することなくかじりついて飲み下し、筋肉の4割を腹に収めて口を拭う。まるで涙のように返り血がこぼれ、彼女は天を仰いて答えた。


「終わった……これから帰投する」


返ってくるタッグの声に耳を澄ませ、コートの女はビルの屋上に飛び乗った。


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アンダーシティ・ケルスのとある通り。フロント企業として活動しているパルミジャーノ運送は今日も、頼まれたドラッグを指定の敵に送ってくれとの依頼で働いていた。


ひっきりなしに出て入ってするのはディーゼルのトラック。偽装の為に豪放なものも搭載してはいるけれど、必ず中には非合法薬物だの武器だの爆弾だのが収められていて、そのどれもがストレイド由来。何度となくポリスとコトを構えたこともあるが、運営にまで食い込んでいるこの世界の理に、勝てるものなどあるわけがない。


アリア・マーゲイはエレカを下りて、パルミジャーノ運送の玄関にカードをかざした。


今日もここを守るのが私の仕事だ。すべてはストレイドと、ここのメンツのためにある。彼女は小さくつぶやいて、また走り去る一台を横目に階段を上がり、自分のデスクに座した。そしてこの間の殺害について、ミュータントは報告書をぶん投げる。


内容はもちろん、この街に蔓延る違法ドラッグ『シュルク』についてだった――――特に高純度な原液輸送で、それも一番のお得意先だったから護衛についたときのもの。ケルス政府の治安維持部隊が無謀にも攻撃を仕掛けてきて、それを彼女が難なく撃破したときのこと。


定期的にポーズだけとって治安維持能力を見せつけ、こちら側との戦力差を確認させるいつものパターン。ガードに近い部隊でもこれだからと、とっちめるポリスはおかげでもういない。軍用ウィーヴスを持ち出さねば殺せない化け物が徒党を組めるというのだから、勝てる道理などないとわかりきっているだろうから。


秘書によって彼女の元にまた、一通の依頼書が置かれた。内容はうちの実態をバラすと脅すジャーナリスト崩れを殺してくれ、というものだった。傘下の企業が送ってきていて、期限は3日後まで。それまでに指定地点に来なければ交渉決裂とみなすらしい。


どうしてそんな情報収集能力があるなら、アンダーがミュータント側の物になっているとなぜ気づかないのか。


「すぐに立つ。私に回す仕事はなかったよな?」


彼女はコーヒーを一杯入れ、飲み下してそう言った。いつの日かこういう仕事から離れたい、そう願いながら。


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