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Dark Brides −斯くて魔王は再誕せり−  作者: 入観ねいと
第8章 斯くて魔王は再誕せり
95/100

#95 継承者

「グッーーーガァァアッ!」


グラードの魔装による《禍重暗黒星雲(グラウ・ネビュラ)》に取り込まれたシグは、内部で発生する超重圧と超高電圧に絶え間無く蝕まれていた。

身体は全方位から潰され、外皮などとうに焦げ消え、身体の芯まで焼き付いている。

そして破壊の度に《不死者》の力はシグを蘇らせる。そして即破壊され、再生され、破壊され。

永遠に終わりのない生と死のイタチごっこ。なまじ痛覚が存在する為、シグは叫び続ける。


「ガァァァァァァアッ!」


それでも、彼の精神が発狂しないのは如何なる故か。際限なき激痛と死の繰り返しの中でも、シグはこの空間から脱出する為に行動していた。


「ダッーーー《闇、のッ支、配(ダーク、ロー、ド)》!」


闇の刻印(ダーク・レスト)》の力。自らの影に取り込んだモノを己が力とする、絶対支配の能力。

だが、かつて元六輝将である魔斧の本来の持ち主、ガルドアとの戦いでもうまく作用出来ない場合があった。

それは、己が力を超えた力を支配する事は出来ない、という至極真っ当な理由。


「ウ、ォォォオオッ!」


影は周囲の空間を飲み込もうと伸びるが、暗雲はそれに反発する。グラードの力は、シグのそれを超えているという証だ。

この空間を脱出する事が出来なければ、いくら死なないとはいえ、終わりない痛みに先に精神が崩壊する。


「諦めッ、ないッーーー! こんな所でッ! 俺ッはァァア!」


力の差がある。そんな事は、シグはとっくに知っている。人間だった頃から、《闇の刻印》を身に宿してからも、いつだって世界は自分を、自分の大切なモノを嘲笑うかのように奪おうとしている、と。

だから、決して諦める事はない。


「奪うなッ! 俺からーーー」


《闇の支配》の力を、更に強めようと気合いを入れたシグ。

だが、それに反して空間はあっさりと解けた。


「なッ⁈」


決してシグが《禍重暗黒星雲》を自力で破った訳ではない。グラードの力を飲み込んだ感覚などなかった。だとすればこれは。


「うッ!」


まだ思考がうまくまとまらない中、虚空から放り出されたシグが地面に落下する。咄嗟のことに受け身も取れず無様に墜落した彼を、六輝将グラードは笑った。


「はっはっはっはっ! なんて無様な姿だ! 笑わせてくれる! 喜べよ、責苦は終わりだ。俺様が貴様を解放してやったのだ。何故か、分かるか?」


嘲笑に対し怒りを覚える事はない。それよりも、信じられない光景がそこにあったからだ。


「なッ⁈ なぜーーーマナッ!」


新たにこの場に現れた見たことも無い魔族らしい女。その腕に抱くのは、カドレの森に残していたはずのマナの姿であった。


「いい反応だ。驚き、戸惑い、焦燥‥‥‥そして恐怖と怒り。下等な人間風情にはお似合いのツラだ!」

「貴様ーーーッ⁈」


身体は既に再生されている。シグはマナの元へと全力で走ろうとするが、それは出来なかった。

進もうとする身体は上空からの圧力により抑えられ、地面に沈められた。


「《其等の罪架(アーク・)よ失墜せ(グラウン)よ》。貴様も懲りないな。そこで指でも咥えて見ていろ。ああ、指すら動かせぬか!」


グラードの言葉通り、シグの身体は立ち上がる事も身動ぐ事も出来ない。


「マナにッ‥‥‥何をするつもりだッ!」

「クハハハッ! 吠えよる吠えよる! いい眺めだ! おい、ラヴィニア」

「‥‥‥はい」


黒装束に身を包んだ魔族の女、ラヴィニアはグラードの元へと近付いた。


「なんだ、寝ているのか? それでは面白くない。起きろメス!」


グラードは気を失っているマナの帽子を剥ぎ取り、露わになった長い金の髪を掴むと、強引に顔を上げさせた。


「痛ッーーー」


突然の痛みにマナの眼が覚める。あまりの状況の変化に追いつけず目が忙しなく周囲を観察し、そしてシグを見つけた。


「シ、シーーーグッ⁈」

「黙れ。喋ることを許可していない」


髪を更に引っ張り、マナへと喋る事を許さない。ギチギチと音が鳴り、顔が苦悶に歪んだ。


「お、お前ェェエッ!」

「貴様もだ、黙っていろ」


顔を無理矢理上げ叫び睨むシグに、グラードは十字架の魔装を軽く振り下ろす動作だけで再び地を舐めさせた。


「う゛ッーーーク、そッ!」


悔しさに声を上げるシグの様子を満足気に見下ろすと、グラードはゆっくりと口を開いた。


「さあ、始めようか。《不死者》殺しを」

「⁈」


この男は、今何と言ったのか。


「まあ聞け。あのまま《禍重暗黒星雲》で貴様の精神を殺し尽くした後に《闇の刻印》を奪っても良かったのだが、それでは時間がかかり過ぎるだろう? だからその厄介な《不死者》の力を無くす為に、その大元であるこのメスめを殺してしまおう、と言うのだ」

「‥‥‥ふざ、けるな! そんな事は、させ、ないッ!」

「まだ喋るか。どれ、更に強めるぞ」

「ぐッーーー」


圧力が上がる。身体は地面にほぼ埋まり切り、板挟みになる肉体はこれ以上なく薄く潰れる。


「‥‥‥シ、グ、うッあ⁈」

「喋るな、と言った。くく、その状態でも耳は機能しているだろう? 続きを話すぞ、人間」


ラヴィニアから奪い取るように、マナの髪を思い切り引っ張り地面に落とす。髪は掴んだままなので何本か抜け、落ちた痛みとともにマナから短く悲鳴が上がった。

更にその背をグラードは容赦なく片足で踏みつける。


「くぁッ!」


そのような蛮行を前にして、シグは一切動けなかった。全身には圧力に負けじと己の肉体すら壊れる程に力を込めているのに、だ。


「そも《不死者》とは、この世に一人しか存在しない異常なる者の事だ。ああ、貴様は違うぞ人間。貴様は《闇の婚姻(ダーク・リンク)》によってこの力を借りているに過ぎん。話を戻す。おい、メス」

「う、あッ⁈」


背中に乗せる足に力を込めながら頭を無理やり持ち上げる。ボキボキと嫌な音を響かせながら海老反りにされ、呻くマナへとグラードは厭らしく笑いかけた。


「お前は《不死者》だ。その赤い瞳がその証拠。これ程までに痛めつけても死なぬしな。くく、背骨の折れる感触はあるがすぐに再生されている。まったく、厄介な力よ!」

「あ゛ッーーー」


周囲に響き渡る、ボギリという音と悲鳴。

マナの背中はほぼ直角に曲げられ、赤い瞳はグルリと白く剥かれた。


「殺、すッ!」


先程地面に落とされた黒い帽子が蠢いた。

それはディーネから借り受けた力、《魂身分離(スピリア)》によってシグの魂を分けてカタチにしたモノ。

先程までは怒りによって我を忘れていた為に遠隔操作出来ず、カドレの森での様子も分からなかったが、今は違う。


「む?」


シグは魂の片割れである帽子を操る。帽子は裂けるように身を開き、猛獣の口のように影の牙をグラードへと伸ばした。至近距離からの完璧な不意打ち。グラードは避ける動作も見せない。


「‥‥‥ああ、ごめんなさいね」


大きく口を開いた影だったが、その牙が届く前に一瞬で粉々に弾け飛んだ。

横に立つラヴィニアが軽く手に持つ十字架の魔装を振ったのだ。それだけでシグの小さな魂の片割れは消滅した。


「くッ‥‥‥」

「はははッ! 色々と姑息な真似をする。おい、ラヴィニア! 反応が遅い! この鈍間が!」

「ッ‥‥‥申し訳、ありません」


ラヴィニアの頬が弾かれた。グラードの理不尽な叱咤にも彼女は唯唯諾諾と従うのみであった。そんな様子につまらなそうに鼻を鳴らし、グラードはマナの髪を離した。


「余計な茶々が入った。なんだったか‥‥‥ああ、《不死者》についてだったな。もう再生しているだろう、答えろ」


背骨が元どおりとなり、意識も戻ったマナ。今度はその鳩尾に爪先が叩き込まれた。


「がッーーー」

「貴様は《不死者》。前魔王ゼグルドと、《不死者》ラナの間に産まれた者。そうだろ? 答えろよ」

「う゛ッ」

「‥‥‥‥‥‥」


シグには見えなくても分かっていた。グラードによりマナが嬲られている事が。年端もいかぬ少女を虫ケラのように蹂躙する悪鬼の顔が。


ーーーチリッ


焦げ付く。今なお身体を破壊し続ける重圧など忘れる程に、頭の奥がチリチリと焦げ付く。燃えて燃えて燃えて、何も考えられなくなる。


「だとすればおかしな話だ。《不死者》は死なぬ。だがメス、貴様の母親は今どこにいる? そう、いないさ! 死んでいるからな!」

「‥‥‥あ、ぅ」


マナの苦痛に満ちた声が聞こえる。聞こえる度に意識が暗く沈んでいく。


「貴様の母親は何故死んでいる? 不死ではないのか? いいや、不死だったさ! 貴様が産まれるまではな!」

「ぅう‥‥‥あ、ぁ‥‥‥」

「ここまで言えばいくら愚鈍なメスも、そこにみっともなく潰れている人間も理解出来たろう? 《不死者》は、一人しか存在出来ない! 新たな子種が産まれ落ちれば、その時点で力は継承されてしまうのさ!」


ーーーああ、泣かないでくれ。どうしたら君は泣き止んでくれるのか。どうしたら悲しまないでくれるのか。

それにしても耳障りな声がする。今まで見てきた奴らと同じ、奪う者特有の、下卑た声が。

一体何を理解しろと? 一体何をしようと?


ギチギチと、何かが軋む音がした。身体ではなく、内側の、奥の奥の奥の底で。


「さあ、《不死者》殺しだ! 貴様が持つ《闇の刻印》、魔王の正統なる後継者である俺様に返してもらうぞ! このメスを貴様の前で無残に犯し尽くしてやろう。そして、コレが俺様の種子を孕んだ瞬間にコレは《不死者》の力を失い、同時に貴様はこの世から消えるのだ!」

「ぃ‥‥‥や‥‥‥」


ーーーーーー?


「ハハハハハッ! たっぶり可愛がってやるぞメスッ! 貴様が俺様の種子を授かった瞬間に、貴様の見初めたオスは無残に潰れて死ぬのだ!」

「シーーーグーーー」

「あーーー」




ーーーああ、殺される。



ーーー無慈悲に悪辣に。



ーーー暴虐の限りを尽くして。



ーーー意識は闇へ、されど殺意は拡がり満ちる。




ーーー嗚呼不遜な略奪者、傲慢なる強者よ。










ーーーお前は俺に殺される。








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意識が闇から解放される。唐突な光に目が眩む。

そこは先程と同じ場所。しかし、マナはいない。グラードも。ラヴィニアという女も。誰一人としていなかった。

そして、微かにあった草木も。いや生命というものが全て朽ち果てたように、この場所は生き絶えた荒野に変わっていた。


「俺、は‥‥‥さっきのは、誰の‥‥‥」


シグは周囲を見回す。だがやはり誰もいない。気配も無い。


『既に奴らは此処にはいない。とっくに逃げおおせている』


しかしはっきりと、先程と同じ声がする。


『‥‥‥人間が、まさかここまでの深層に堕ちて来るとはな。驚異的ではある。だが委ねるな。破壊の力としては最上だが、今必要なのはそれではないだろう? まあ、おかげで一時的にではあるが、こうして意思を伝える事が出来た』

「誰だ⁈」


叫ぶもやはり姿形は見えず。


『他の先代共はやはりお前に力を貸すことはないようだ。だが、俺は違う。俺の願いに応えるならば魔族でなかろうと、それが人間であろうと関係はない』

「誰なんだ⁈ 何を言っている⁈」


声はシグの問い掛けなど御構い無しに話を続ける。


『今為すべきことを成せ。擬似的にだが、お前は一つ上の位階の力を行使した。今度はきちんと制御しろ。そうでなければ救えない』

「救う‥‥‥そうだ、俺は」


マナを助けなければ。だが、どうやって? どこに消えたのかも分からないのに。


『《闇の婚姻》、その繋がりを意識しろ。それで居場所は分かる』

「‥‥‥‥‥‥」


声の言う通りに意識する。目を閉じ集中し、彼女との繋がりを辿る。

胸に刻まれし《闇の刻印》が赤く明滅を繰り返す。

借り受けた《不死者》の力、その元へ辿る。連れさらわれた彼女の元へ、その居場所へ意識は辿る。


「‥‥‥あっちか」


北西の方角に、マナの気配を感じる。そここそ、かつてシグを、アイシェを、双子のルイシェとロイシェを屠った魔族ノイノラの居城。彼亡き後にヴァインドラの魔装の発射によって廃城と化し、そして、現在グラードが拠点とした場所だった。


『委ねるな。堕ちようとも意思を落とすな。支配してみせろ。俺達魔族以外の、初めての継承者よ。救え、必ず。その為に俺の力を一時的に《継承許可(ロード)》しよう』

「痛ッーーー」


猛烈な頭の痛みにシグは蹲る。痛みの箇所を堪らず抑えると、いつもとは違う違和感があった。


『お前が何者かなどどうでもいい。ただお前が彼女に、あの子に抱く思いが俺と同じである限り、俺はそれを支援しよう』

「これ、は‥‥‥角?」


右側頭部。そこにはコブよりも硬く荒々しい、そして黒く長い、まさに角が生えていた。

変化はそれだけではない。意識が消えていた間にあったドス黒く濃密で暴圧的な力が、意識のある今でも体内から感じられていた。

驚くシグへと、謎の声は先程よりも消え入りそうな、そんな微かな声で、最後の言葉を残した。


『行け。そして俺の願いをーーー我が最悪の娘を、必ず救え』

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