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Dark Brides −斯くて魔王は再誕せり−  作者: 入観ねいと
第8章 斯くて魔王は再誕せり
90/100

#90


シグの胸を貫く獣人ベースである混成種(キメラ)の巨腕が抜けられる。崩れ落ちる身体に更なる追い討ちとして、サラマンダーベースの混成種がその大きな顎を開け炎を吐き出した。


「シャャャャャァァァアア!」


圧倒的な素早さを持ってその場から離脱した獣人混成種。一人取り残されたシグは無抵抗に燃え盛る炎に身を包まれてしまった。


「ふひっ! ふひひひひ〜! 素晴らしい! 何という出来栄え! これほどまでの生命体を生み出せる私は天才だぁ! 神にも等しい!」


混成種の生みの親である魔族のゼペクターは、獲物を蹂躙した二体の様子に大変満足し高笑いをあげる。

炎は勢いを弱めつつも大地に轟々と咲き続ける。サラマンダーの火焔に、もはや跡形も無くその場にある物は燃え尽きるほかない。


「‥‥‥‥‥‥」


だがそれは死ぬ事の出来る物に限る。

《不死者》の身体はそれを許さない。


「‥‥‥なん、ですと?」


未だ立ち昇る炎の渦で、ゆらりとその身を、一片たりとも損なわせずに動かすシグの姿にゼペクターが驚きの声をあげた。


「あぁ‥‥‥とても、痛い。苦しい。我慢が、出来ない‥‥‥」


《不死者》の力は死を跳ね除ける。だが、受ける痛みを無くす訳ではない。サラマンダーの火焔は幾度と無くシグを死の直面に突き落としている。


「足りないと言うのであれば‥‥‥喰らわせ続けなさい!」


ゼペクターの指示に獣人混成種が動く。《獣身煌化(ライオ)》により強化された肉体で、今度はシグの目の前からその首を粉砕せんと拳を叩き込んだ。

果実のように鮮やかに弾ける頭部。だが、まるで夢幻かの如く何事も無かったかのようにシグはそこに立ち続けていた。


「痛い‥‥‥痛いんだ‥‥‥ダメだ、もう、これ以上‥‥‥」


繰り返される凶撃。その度に弾け戻る身体。

しかし永遠に繰り返される事は無かった。


「二重発動、《獣身煌化(ライオ)》《雷光刹火(ジグザ)》」


捉えられぬ筈の速さで動く獣人混成種を、それ以上の速さで背後に回り込み、その背に手を当てた。

超肉体強化の反動で体細胞は摩滅し、超光速電気信号により体内中を焼け焦がしながらも、《不死者》の身体は滅びない。


「《絶対凍結(フリーズ)》」


発動したのは七王剣ギルバートより喰らいし氷魔法。敵が逃げるよりも速くその身を凍てつかせる。


「せめて、安らかに逝ってくれ。ーーー《気焔爆雷(フレア)》」


氷漬けとなった獣人混成種の周囲に多重展開した七王剣キリエの空間爆撃魔法を容赦なく起爆した。破片すら残さずに、獣人混成種の姿がこの世から消え失せる。


「シャシャシャシャァァア!」


サラマンダー混成種が両手の鎌を猛烈に振るい、シグの身体を微塵切りに変える。

最初と違い一切避ける事もしない獲物に対して疑問も、そして手応えが一切無いことに対しての恐れも、混成種は持たない。ただ与えられた命令に従うのみ。

その命が尽きるまで。


「《魔装覚醒ーーー闇燼滅・(ダークエクス・)煉獄の轟斧(インヴォルヴァクス)》」


炎を喰らう黒き炎へとその身を変え、一面を闇に染め上げる。

超高熱に耐える頑強なサラマンダーの肉体。それすらも、この魔斧の黒炎は飲み込む。


「シャシャ⁈ ジャッーーー」


巨体を媒介に黒炎が柱のように立ち昇り、すぐにバラバラと崩れ落ちる。あれ程の大きさであっても一瞬で獄焔は全てを喰らい尽くした。


「わ、私の‥‥‥最高傑作、が‥‥‥ひぃッ⁈」


炎の侵略はそれだけで終わらない。ゼペクターを避けるように、周囲に残る混成種へと黒炎は容赦なく襲いかかり塵芥に変えていく。

炎の海の中、ただ一人残されたゼペクターは動く事も出来ず、ゆっくりと迫る炎の化身を眺める他なかった。


「‥‥‥痛みが、止まらない‥‥‥どうしても、消えない‥‥‥」


ここにきてようやく、ゼペクターは気付いた。最初に対峙していた時と今では、目の前の化物がこちらに向ける意思が、殺意が、桁違いに異なる事に。

化物の足が、自らが引いた境界線を越えた。


「ひッ‥‥‥そ、そうです! せ、せせせ線ッ! 境界線ッ! わたわた私、越えて、ませぇん! ふひっ、ふひひっ、だから、いいでしょ? 帰ります帰してやめて許してえッ!」


その声に反応したかのように、炎が嘘のように消える。飲み込まれた数多の混成種も、その姿は無い。何もかもが嘘のように消え去った。


「‥‥‥‥‥‥」

「は、ひは? ふひひは? そ、そうです‥‥‥あなたが言ったことです‥‥‥守らないと、いけませんよ、ねえ! ふひひひひっ!」


周囲を包囲していた炎が消えた事に安堵し、叫ぶゼペクター。そして何も答えずゆっくりと、武器も何も持たずただ歩き寄るシグ。

そして両者の距離が手を伸ばせば届く頃になってゼペクターは更に口を開く。


「ええ、ええ‥‥‥私も帰りましょう‥‥‥帰りましょうとも‥‥‥自分が言ったことは、守りませんと、ねぇッ! 《生命弄びし神の執刀(パラストメス)》ッ!」


ゼペクターの両手にある魔装がシグを貫く。五指から伸びる細長い刃は全てが抵抗無く肉の中に埋没した。


「ふひっ! ふひひひひっ! 勝ったあ! あなたもッ! 立派な混成種へとッ! 生まれ変わらせてあげましょうッ! この神の見技によってねぇッ!」


ゼペクターの魔装、《生命弄びし神の執刀》はその刃を受けた対象の肉体を自らの支配下に置き、同じく支配下に置いた別個体の肉体とを意のままに混ぜ合わせる事の出来るモノ。


「残念ながらこの場には‥‥‥他の実験体がいませんからね‥‥‥城に戻ったら、そうですねぇ、まだ残っている獣人族とでも‥‥‥混ぜ合わせてあげますよ‥‥‥ふひひっ、ふひひひヒィッーーー⁈」


ならばこの魔装に貫かれたシグもゼペクターの支配下に置かれて然るべき。

しかしゼペクターの悲鳴がそれを否定する。


「あっ、えっ、あっーーーあぁぁあ⁈」


懸命に自らの生命線とも言うべき魔装を動かそうとする。そして貫いた、もはやモルモットと成り下がる敵を意のままに動かそうとする。

だが肉体か離れた、腕ごと切り離された魔装でどうやってそれを行うのか。


「あじゃぁあ⁈ う、腕でで⁈ どおしたどうしてなんであれあれああぁぁあ⁈」


目の前の光景を受け入れられずただ慌てふためくゼペクターの周囲で、限りなく細く、それでいて何よりも強靭な黒き霊糸がふわりと漂う。


「反吐が出る。コレも、お前も」


突き刺さったままの腕が、もはや持ち主から離れたそれが勝手に動き、シグの体内へすぶずぶと飲まれていく。

それを心底嫌そうに眺めながらも、霊糸の操作はやめずゼペクターの残った肉体をぐるりと拘束していく。


「ぎぇっ! わたわたわたしのーーー腕ッ! 返せ返せ返せぇぇええ! それ、はッ! 神の、腕なんだ、ぞッ!」

「もう黙れ」

「ンムッ⁈」


拘束を受けても叫び続けるゼペクターの口が霊糸により縫い合わされた。


「どうしてなんだ、どうしてお前達はこうも人の神経を逆撫でさせる? 痛い、痛い痛い痛い痛い痛い痛い! この痛みをッ! どうしてくれる!」

「ンムッ、んムムムッ⁈」


激しく明滅する赤の瞳と、至近距離で爆発しそうな激情をぶつけられ、ようやくゼペクターの本能が危機感に震え始める。


「やめろ‥‥‥もうやめてくれ‥‥‥俺はただ、幸せになりたかっただけだ‥‥‥あぁ、アイシェ‥‥‥俺が、俺の、俺のせい‥‥‥奪われる、また‥‥‥」


どうしようもなく絶望的な状況の中でも、なぜか冷静にゼペクターは目の前の異様な人間の発する力を分析していた。いや、絶望的だからこそ必死で生き残ろうと敵の情報を感じ取ったのかもしれない。

魔力とはまた異質なナニか。魔族である己ですら身が震える、恐るべき力が、徐々に徐々に大きくなっていくのを感じる。

それに合わせて敵の衣服の隙間から見える肌に、先程まではなかった刺青のような黒き模様が、まるで生き物かのように蠢いているのが見えた。そしてそれは肌を染め上げるかのように首元まで伸びていく。


「奪われる、また。奪おうとする、敵だ。邪魔だ‥‥‥邪魔なんだ‥‥‥消えろ、失せろッ! 奪おうと言うのなら、俺が奪ってやるッ!

ーーー《魔装複合顕現》」


水溜りのように落ちる影から取り出されるは一振りの剣。二本の曲りくねる刀身が絡み合う猛毒の魔装剣、《闇・(ダーク・)双蛇の絞刃(ツヴァイラ)》。

そして今回はその柄の部分に《闇・雷迅(ダーク・ライジン)》が混ぜ合わせられていた。


「お前の顔を、お前の存在を、これ以上見たくはない。だが、せめて苦しんで死んでくれーーー」

「ブヌッ⁈」


胸板に突き立てられた猛毒の剣。それだけでゼペクターの体内に一瞬で致死毒が、そして死に至るまで一日も費やす嗜虐の毒が、激痛と共に巡る。


「《闇・雷迅》、抜刀」


ゼペクターを貫いたままの姿勢で、次に発動させるは電磁抜刀。通常であれば音速を超える抜刀術の為にある技であるが、今回はそれを敵を彼方へ吹き飛ばす為に使用した。


「ブヌヌヌヌッーーー」


口を縫われ激痛に叫びも満足にあげられないゼペクターは、自らを貫く剣とともに電磁抜刀の反動により一瞬でその場から吹き飛ばされ、消えた。

残ったのは発射台となった鞘だけを持つシグの姿だけであった。

ゼペクターが消えた彼方には、まだ三柱のうちの残った一つが率いる軍と、その奥にはそれらを従える六輝将グラードが座するであろう拠点が見える。

未だ明滅する赤き瞳をそちらに向けたまま、シグはポツリと呟いた。


「ーーー皆殺しだ」

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