#8
太陽の登りが直接見えなくても、朝が来ただろうことは意外と感じるものである。自然と目覚めたシグは隣で眠るアイシェを起こさないようにそっと起きると、側に落ちた剣をなんとか探り当て光を灯す。照らされた三人の寝顔を見てから、そっと火起こし場へと向かった。
横穴から薄く射し込む日差しを浴びながら身体をほぐす。日課の前の準備運動だ。身体が十分温まった後、一旦置いていた剣を再び取る。
「シッ!」
短く息を吐きながら繰り返し行われる素振り。上段から、下段から、時には背後へと振るう。
シグにとってこれは見様見真似ではあるが、だからと言って真剣に行っていない訳ではない。元の型を見せてくれた兄からも、直接的に言われてはいないが、暗に才能がないと諭されたこともあった。それでも、何もやらないよりはマシだと毎日励んでいる。
一時間程経ったであろうか。手を休め呼吸を整えていると、いつから居たのかアイシェが姿を見せた。
「今日も精が出ますなぁー」
「‥‥‥こっそり見てないで普通に入ってくればいいのに」
「いやぁ、真剣にやってるのに邪魔は出来ないって。だいぶ様になったんじゃない?」
「いや、それはないよ。こいつの本来の持ち主に比べたら、お遊びみたいなものさ」
手に持つ剣を寂しげに眺める。
「ふーん、そんなにお兄さんはすごかったんだ」
「そうだね。実際に戦ってる所を見たことはなかったけど、俺の前で見せてくれた動きだけでも技量の高さは痛い程分かったもんさ」
兄は才能があった。剣を振るう姿は、その道の者でなくとも魅了する美しさがあった。だからこそこの剣を与えられ、大義を任せられたのだ。
「そもそも、俺はこいつを剣として使えないしね」
「うーん、私も試させてもらったけどさ、ほんとにこの剣は鞘から抜けるの? 柄だっけ、鍔だっけ? これがガッチリ鞘を挟んじゃってるから無理な気がするんだけど」
アイシェの言う通り、刃を納めている鞘は牙を模しているであろう鍔が口を閉じたように噛んでおり、この状態では物理的に抜くことが不可能であった。
「多分、選ばれた者がこいつを持てば、この部分が動いて鞘が外れるようになるんじゃないかなあ」
「まあ、確かにここは稼動しそうな感じではあるけどね。不思議ー。で、選ばれたって具体的には?」
首を振って応える。シグ自身もこの剣が抜かれた状態を見たことはないし、どう言う仕組みで抜き放たれるのか聞いた事もない。分かるのは魔力を通せば鞘が光ることくらいか。
「さあて、雑談はこのくらいにして。二人、じゃないや、三人を起こしたら狩りに行きましょうかねー」
「ああ、それなんだけどさーーー」
「やれやれ、だいぶごねられた」
カドレの森は昨日とは違い、いつもの生命力が感じられる状態だった。そんな中、シグは一人で獲物を探すべく探索をしていた。
いつもは置いていく剣を帯刀しているのも、今日は自分の力だけで狩りをしないといけないからだ。人間であるシグに獲物を狩れる爪や牙などはないので代わりである。と言っても抜刀することは出来ないので、頑丈な棍棒のような扱いだが。
さすがにまだ正体の分かってないマナをルイシェとロイシェだけに任せられない。そう言って単独で狩りに行く事を提案したが、アイシェの不満はすごかった。だが他に代案もない為、不承不承ながらも狩りに出ることが許された。
「特に変化はない、か」
近辺の生態系は変わっておたらず、ここを縄張りにする動物は相変わらずいなかった。いつものように群れからはぐれた個体を探す為に、少量しか実のなる木が生えていない場所へと向かう。その道中であった。
「ガーーー! ガーーー! ガーーー!」
けたたましい鳴き声をあげながら、頭上を大型の鳥が群れをなして通り過ぎた。羽が散らばるほど慌てている。遅れて地面に住まう小さな生き物たち、昆虫の類までもが目に見える量で移動してきた。
「何だ⁈」
思わず声に出し、身体を木陰に隠す。通り過ぎていく生物たちは気づきもしないのか、あっという間にシグを無視して通り過ぎていった。
「‥‥‥‥‥‥」
自然と唾を飲む。変わらないはずの森の様子が一気に昨日と同じように静まり返った。また、何かが起きるというのか。
今一度冷静にこれからの方針を考える。
「‥‥‥森の外側から逃げていたのか。何か、外から来る? 何だ? この近くに人里なんかないし、他の種族もいないはず‥‥」
困るのは比較的森の外側に近い場所を住処としている自分たちにとって害となる者が来ようとしている場合だ。その場合はただちに逃げなくてはならない。
「判断材料が少なすぎるか‥‥‥」
シグはその如何を見極めるために、生き物たちが逃げてきた方向へと歩を進めることに決めた。