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Dark Brides −斯くて魔王は再誕せり−  作者: 入観ねいと
第6章 エルフの聖域
76/100

#76


暗い暗い廊下を照らすのは、外から漏れる幾多の稲光のみ。途切れる事なく轟音と共に落ちるそれらは、この国にいる者からすれば慣れ親しんだごく当たり前の光景である。


「ふ〜んふ〜ん、ふふふふ〜ん」


上機嫌に鼻歌を歌いながら陰気な廊下を一人歩く姿。とても小柄で子供じみた容貌であるが、青い皮膚に額から伸びる角は、彼が力を持つ魔族であると見た者にはっきりと理解させるに充分だ。

ここはドルヴェンド帝国が首都、魔城グレマンド。魔族の多く住むその中でも強大な力を持つ六輝将と呼ばれる魔族の上位種、その一角。

半年前にカドレの森へと強大な魔装を放つも、ガルドアの命をかけた一撃によって打ち消された過去を持つヴァインドラは、目的の部屋の前に辿り着くとノックもなしに思いっきり扉を開いた。


「やあやあやあ! 聞いたよ? プミラ四号やられちゃったって?」

「キャー! ノックモ無シニ入ッテクルナンテ最低!」


勢いよく開かれた扉の先は程々の大きさのある部屋だった。しかし、床という床一面に敷き詰められるように置かれた人形のせいでとても狭く感じられる。

突然入ってきたヴァインドラに悲鳴をあげたのはプミラ四号よりは小型の、やはり包帯でぐるぐる巻きにされたもので、異様に長い両腕を振り回しながら侵入者へと攻撃をしかけた。


「おっと! ダメだよ、城内で争い事は禁止禁止ー!」


ひょいっと潜り抜けるように躱し、両腕でバッテンの形を作り抗議する。


「日頃トラブルバッカノテメーニ言ワレタカネー! バーカバーカ!」


そう叫んだのは、先程とは違う個体だ。今度のは縦に長い、ヒョロッとした外見だ。これまた包帯でぐるぐる巻きになっている。


「ソノ通リ。我ガ主人ノ部屋ニ無断デ入ル愚カ者ノ言葉ナド聞ク必要ナシ」


ぬっとヴァインドラの背後に現れるのは先のニ体よりも大型の個体だ。外見はもう言うまでもないだろう。


「えー、許可とかボクらの間にいらないっしょ?」

「ンマ! デリカシーノカケラモナイ男ハコレダカラ!」

「そう? ボクって結構女の子にモテるタイプだと思うんだけどなぁ」

「ネーヨ!」

「ソレハ無イ」

「無イワ!」


三体からほぼ同時に否定の声が上がるが、特に気にした様子もなくヴァインドラはそちらに目を向けず部屋の奥へと進んだ。


「つかそろそろ普通に喋らない? たまには自分できちんと喋りなよクウォンナ」


目の前の、豪奢な椅子に座っている人形へと話しかける。とても綺麗な人形だ。魔族をモチーフにした青い皮膚と額から角を生やされた少女の人形。

ヴァインドラの左目に付けられた眼帯の上にある三つの目がギョロギョロと人形の全身を観察する。その目を持ってしても、対象の動きが微塵もない事が確認された。


「もしかして遂に死んだ?」

「‥‥‥死ぬのはそっち。クソ兄貴」


人形の口が開かれた。いや、人形ではない。微動だにせず、瞬きすら一切していなかったそれは生きている。生きた魔族の少女だ。


「酷いなぁ、開口一番がクソ兄貴だなんて」

「クソ以外の言葉が思いつかない程にクソでクソなクソ兄貴。何の用?」


口以外を全く動かさず、やはり人形ではないかと錯覚させるような彼女はクウォンナ。

ヴァインドラの妹であり同じく六輝将の一人。死人形遣いのクウォンナである。


「悲しいなぁ。お兄ちゃん、妹の大事なお人形さんが、せえっかく治したのに、またすぐにぶっ壊されたって聞いて冷やかしに〜、違った、慰めにきたのになぁ〜」

「本音くらい隠し通せこのクソ」


それはそれは嬉しそうに楽しそうに目の前で小躍りしながら冷やかすヴァインドラをクウォンナの無機質な瞳が刺す。


「我ラガ主人ハ大変御立腹ダ」

「ソーソー! 私達プリティミイラ、略シテプミラ四天王! 一人減ッテ超寂シー!」

「丁度イイジャネーカ! コノクソヲ材料ニ四号ヲ復活サセチマオウゼ!」

「おおっと、それは勘弁してね!」


ずずいと囲むように迫る三体をすり抜け出口まで逃げたヴァインドラは満面の笑みで妹へと別れを告げた。


「それじゃあねぇ〜。次はボクも外に出れるから嬉しくってさ〜! 君の人形を運んだホルザレが戻ったらボクの番さ!」

「‥‥‥‥‥‥」

「二度ト顔ヲ見セルナ」

「ヤラレチマエ!」

「死ンジャエ、単発早漏野郎〜!」


プミラ達の、まあクウォンナの言葉だが、罵声にもケロリと手を振り姿を消す。嵐のように過ぎ去ったヴァインドラ。残された部屋は静寂に包まれ、人形達は物言わず自分の居場所に戻る。


「‥‥‥《不死者》に、魔装遣いの精霊。欲しい」


椅子に座り微動だにしない主人の一言を皮切りに、それ以後物音一つ立つ事なく部屋は沈んだ。






「なァ、もう帰っていいか?」


うんざり気味にそう呟くのは翼の魔装を持つホルザレだった。鳥類の見た目と鋭い瞳を持つ彼は今、神樹の聖域の遥か上空、雲の隙間に浮かんでいた。瞳が細められているのは獲物を前にしてではなく、単純にうんざりしていたからだ。


「いえ、もう少し。どうやらクウォンナのかけた呪いを解くようです。それを見てからにしましょう」


ホルザレの隣に浮かぶ目玉が返答した。視線は遥か下界、神樹の根元に近寄るシグの姿を捉えていた。


「オルフェアイよォ。俺っちは便利な運び屋でも、あの兄妹の専属でもねェはずだよなァ?」

「ええ、もちろんです。大変申し訳ないとは思っておりますが、現状こうするのが一番効率が良いので」

「本当に分かってんのかねェ」


形だけは謝るが、悪びれる事なく淡々と答える目玉にやれやれと肩をすくめるしかなかった。


「しかし、貴方達は仲が良いのでしょう?」

「おいおい、節穴かよあんたの目玉はよォ‥‥‥。沢山あるくせにちっとも分かっちゃいねェよあんた」

「そうなのですか? 魔族の中では珍しく兄弟みたいな関係なのかと」

「嫌だわ、あんな弟に妹なんてよォ。ハァ、俺っちも六輝将のはずだよなァ、なんだかなァ〜」


頭が痛むのか、眉間のあたりを強く揉みながら愚痴る。細められた目の端に、何か光るものが見えた。


「ん?」

「ああ、どうやら始まるみたいですね。我らにとっては忌々しい光りですが」

「あっそォ」


興味深げに真下を覗き続ける目玉に対し、興味無さげなホルザレは、また帰りは荷物がないから楽チンだなァ、とぼんやり思っていた。

帰還後直ぐに件の弟分を運ぶ羽目になる事を、彼はまだ知らない。






夢を見た。いや、夢を見ている。

在りし日の、姉との記憶。

まだ幼く未熟なヴェルトリア。泣き虫で魔法も上手く扱えないヴェルトリア。

そんな彼女に、姉のヴィストリアが優しく頭を撫でている。


『ごめんね、ワガママなお姉ちゃんで。あなたはもう立派よ。私なんかよりもとても上手に魔法も使えるし、神樹の守り手としても、とても立派にやっているわ』


姉の姿が光に包まれボヤけていく。その光は幼いヴェルトリアへと、優しく優しく染み込んでいった。


『こんな無責任なお姉ちゃんが言っても怒られるだけだろうけど、どうかあなたも幸せに生きてね』

『あ、姉上!』


手を伸ばすも光は既に霧散し、夢は崩壊する。




「‥‥‥‥‥‥」


目が覚めて最初に見えたのは自分の、空に伸ばされた右腕だった。夢だという事を理解していたヴェルトリアはその腕をぞんざいに降ろす。そこに、何か硬いモノが当たる感触があった。


「姉上‥‥‥」


夢とは違う姿形で、また一言も発する事の出来ぬ姿で、姉は、ヴィストリアはそこに居た。

既に鞘に収まった状態で、聖剣ヴィストリア・ハートは妹に寄り添っていた。


「目が覚めたかい?」


仰向けの視界に現れたのは、死闘を繰り広げた人間。いや、色々なモノが混ざり過ぎて人間などとは最早言えないが。彼はこちらを見下ろしそう尋ねた。そこにはもう敵意も殺意も無い。


「‥‥‥この剣で呪いを祓ったか」

「ああ」


迷う事ない即答。何の為に、だとか、何が目的で、だとか、そういった言葉はもうヴェルトリアの口から出てこなかった。


「悔しいなぁ。何が上手になった、じゃ。我にはまだ祓う力は扱えぬのに。不器用な、全てを壊す力だけじゃ‥‥‥全く、最悪の気分じゃ」


目を閉じ、まだ調子の戻らない身体を地面に預けて、最悪だと言う彼女の顔は、しかし晴れやかだった。


「全く‥‥‥敵わないのう‥‥‥」


休むヴェルトリアと、傍らに置かれた聖剣をそのままに、シグは何も言わずにその場を離れた。

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