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Dark Brides −斯くて魔王は再誕せり−  作者: 入観ねいと
第6章 エルフの聖域
75/100

#75


それは正に遊戯じみた戦闘であった。

魔族のプミラを相手にディーネは自らと、敵の姿に変身させた自らの魔装にて、二対一の空中戦を繰り広げていた。


「ズルイズルイ! 卑怯ジャアリマセンカ⁈」

「何を。呪いなんて陰湿な手段使うあんたがそれを言うの?」

「ク、クヤシー!」


戦闘は不得手などと言ってはいたが、そこは魔族。食らえばタダでは済まない呪法攻撃をプミラは次々と放つが、放てど放てど同じ攻撃を繰り出す偽プミラによって相殺される。


「マ、真似真似メンドクサー! ヤメテ! 属性マデパクルッテ酷イ!」


全てが本物の放つ攻撃と同じ、鏡写しの魔装《千咲万水の華鏡》。威力も速度も術の出だしも、寸分無く写し取る。

そうやって実質攻撃を無効化した所にディーネが水魔法で追い詰めていく。


「"八津波の顎"」

「アアン、モウ!」


グルリと周囲から襲いかかる八つの水柱に追われながらプミラは空を逃げる。しかし目の前に現れた偽プミラによってがっしりと捕まってしまった。


「ハ、離シテ! ヤメテ!」

「離すわけないでしょ」


動きを封じられたプミラに追いついた水柱たちがぶつかり、巨大な水牢となって偽プミラごと閉じ込めた。


「ゴ、ゴボボボボ! 溺レマス!」


拘束状態となった敵に遠慮も容赦もなく、淡々とディーネは魔法詠唱を行う。


「"哀れなる死の使者よ 清らかなる流れに逆らう能わず 汝の還るべき場所へと還れ"


ーーー"聖龍の大海波"」


夜闇に昇った巨大な水の龍は、真上から勢いよく牢に閉じ込められたプミラへと落下。その顎で獲物を噛み砕く。


「アジャパッ!」


圧倒的な水量で地面に叩きつけられたプミラ。かろうじて原型を留めたものの、身に纏う包帯はボロボロに。元々グニャリとしていた手足も変な方向に曲がってしまい、酷い有様だった。


「コリャ酷イ。コンナ非道ナ事ガ出来ルナンテ貴女鬼デス、ネ!」


ディーネの魔法により出現した水で辺り一面が湖のようになっていた。プカプカと浮かび動けないプミラを見下ろすようにディーネが降りる。


「そんなになっても減らず口が叩けるなんて凄いわね。さて、終わらせましょうか」


水面が盛り上がる。水が人型へ、再びプミラと同じ姿に変化し、だが途端に崩れ落ちた。


「あら? 燃料切れ? この力って燃費が悪いのね」

「アラ、ラッキー!」


魔鏡を維持出来ず効果が解けてしまった。その隙をプミラは見逃さない。ボロボロのはずの身体はそんな事御構い無しに俊敏に動き、ディーネへと襲いかかる。


「モウ限界ダシ、貴女モロトモ! 呪イデ死ンデ、ネ!」


プミラの身体、ボロボロの包帯の隙間から禍々しき光が怪しく輝く。今にも爆発しそうに、光は強く強く大きくなり、そんなプミラがディーネの懐へ近づく。


「あらあら。私に手を出すつもり? 覚悟した方がいいわよ」

「覚悟スルノハ貴女デス、ヨッーーー⁈」


もう少しで手の届く距離まで迫りながら、届かず。プミラの身体は上空からの衝撃に再び地面へ、水面へと叩き落とされた。


「ほら、怖い鬼が来た」

「ンナッ⁈」


プミラの身体その腹部に深々と突き刺さる、黒き双子の蛇。そして容赦無く次々と身体中を何かが貫き暴れ回る。


「誰に手を出している」


《闇・双蛇の絞刃》と影による拘束。プミラを組み伏せたシグが赤い瞳を細め、敵を滅さんと力を込めていく。


「ッ〜〜〜! ミンナ呪ッテヤル!」


身体の自由を奪われたプミラの最期の抵抗。自らが内包する、命と引き換えに発動させる特大の呪い。神樹をも犯したその呪いをぶち撒けようとする。


「やらせない。沈め殺す」


シグが伸ばす影たちが幾重にも重なり、繭のように自らとプミラを包み込んだ。

沈む視界。暗闇の中、激しく輝き弾けようとするプミラの身体へと右手を突き刺した。


「‥‥‥アー、ココマデトハ。噂以上デスネ、継承者サン。素晴ラシイ」


破裂するはずの身体は強制的に鎮まり、止め処なく溢れ返るはずの呪いはその全てが飲み込まれていく。

観念したのかプミラは抵抗などせず、自らを打ち倒したシグへと語りかける。


「ワタクシガ褒メテルノハ、《闇ノ刻印》ノ事デハナイデスヨ? コンナ量ノ呪イヲソノ身ニ受ケル事ノ出来ル、貴方自身デス。凄イデスネ、普通ナラ無理デスヨ、気付イテマス?」

「‥‥‥‥‥‥」


吸収を緩める事無く、また返事をする事も無く、静かに睨みつける。


「貴方、面白イクライニ壊レチャッテマス、ネ! 身体ジャナイデスヨ? 心ガ! 非常ニ愉快デス! アノ精霊サンモ魔装マデ扱ッチャッテマシタシ、コレハコレハ楽シミデス!」


崩れた包帯の下、干からびきった肉体の口だと思わしき場所をニンマリと裂かせプミラは笑った。


「デハ最期ニ、我ガ主人カラ伝言デス。


『気に入った。お前達は必ず死人形にしてやる』


以上! ソレデハ、サヨナラサヨナラ!」


主人とやらの言葉を遺し、プミラの身体は呪いごとシグの闇へと飲み込まれ、消えた。




「おかえりなさい」


「ああ、ただいま」


闇の繭を解き、姿を現したシグへとディーネが寄り添った。


「それで、なんだか大変な事になってるんだけど、大丈夫なのコレ?」


これ、とシグは自らの足元、湖となり沈んだ聖域を指差した。


「ああ、大丈夫よ。はい」


パチン、とディーネが指を鳴らすとそれを機に徐々に水は引いていった。しばらくすると完全に地面が見え元通りとなる。


「さて、と。あんまり私ばっかりに構ってるとマズイわよ?」


上目遣いで楽しそうにそう告げるディーネに眉をしかめ、シグはなんとか言葉を絞り出した。


「‥‥‥あー、マナもクナイも、君が無事戻ってきてくれて嬉しがると思うよ。さあ、行こう」

「ええ」




マナ達四人は建物の上にいた事もあり、水に流されず濡れる事も無く無事であった。


「おか、えり」

「ディーネ殿! お久しぶりっス!」


屋上に降りたったディーネへとマナとクナイが歓迎の言葉と共にその身体を抱きしめた。いくら小柄な二人とはいえディーネも同じくらいの体躯。二人の抱擁によろけつつもしっかりと抱きしめ返した。


「おっとっと、ありがとう。ただいま。二人とも、変わりはない?」

「う、ん」

「お腹空いたっス!」

「うん、大丈夫みたいね」


相変わらずな二人の頭を優しく撫でるのであった。


「‥‥‥‥‥‥」

「ああ、これ? なんて言うか、謝るべきなのかしらね」


左手の薬指にはまる黒き指輪をじっと見つめるマナに、ディーネが少し困ったような顔を見せた。それに対してマナは首を振る。


「い、い。ディー、ネ、なら」

「そう‥‥‥ありがとう」

「でも、私、も、貰、う。必、ず」

「そ、そうね。頑張りなさい」


マナの無表情ながらも、こちらを覗く瞳に何かギラギラしたものを感じ、ディーネは少し身を引くのだった。

そして初対面となるエリシュと、未だ眠り続けるルナリスの方へと目をやる。


「それで? そっちのお二人が新たに引っ掛けた子達?」

「引っ掛けたって‥‥‥」


含みのある言い方に頭をかくシグ。

そしてディーネに視線を向けられたエリシュはあわあわと立ち上がり、コホンと一呼吸置いて喋り始めた。


「わ、私はエリシュ・ノーベディだ。お、いや貴女がカドレの森の精霊だな。どうする? 貴女を連れ去った事に対する罰として、私を殺すか?」

「何この子。すごくめんどくさそうなんだけど」

「め、めんどくさそうッ⁈」


ディーネの言葉にシグは苦笑するしかなかった。めんどくさそうという言葉がショックだったのか、エリシュは愕然とし固まってしまった。


「それで、こっちがあのお姫様、ね。ふぅん、成る程成る程、ねぇ」

「何か言いたい事があるなら言ってくれ」


ニヤニヤと笑い横目で見てくるディーネに憮然とした態度でシグが言い放った。


「別に? それで? 何で寝てるの、このお姫様は」

「ヴェルトリア様の魔法だ。私もなんとか解こうとしているのだが、思ったよりも深く落ちているのか目を覚まさないのだ‥‥‥」


魔法が解けない事が悔しいのか、エリシュは拳をギュっと握りしめた。

そんな彼女に対しなんて事ないように軽い調子でディーネが提案する。


「キスでもしたら目が覚めるんじゃない?」

「ブッ⁈ ディーネ、また何をふざけた事を‥‥‥」


キスで魔法が解けるなんて、どこのお伽話だ。噴き出したシグの目の前で提案者のディーネは身体を眠り続けるルナリスへと近づける。


「いえ、別にふざけた訳ではないのだけれど。どれどれ。‥‥‥んっ」


髪をかきあげ、寝息を立てるその唇をディーネの唇が塞ぐ。それはどう見てもキスであった。


「なッ⁈」

「お、おお、う」

「ほえ〜」

「な、何してるんだ貴様ッ⁈」


唐突なその行動に四人がそれぞれ驚きの声を上げた。


「んっ、よっと」


唇が離される。ディーネの口に何かが挟まっていた。それは小さな光のような結晶。プッと口から吹き出すと、結晶はサラサラと姿を消した。


「何騒いでるのよ。体内の魔法を吸い出しただけじゃないの」

「えッ⁈ あ、そ、そうだな! わ、私は分かっていたぞ! うむ!」

「中、々、刺激、的、だ、った。ぐー」


さも分かっていた風を装うエリシュと、何かが琴線にふれたのか変に興奮するマナだった。


「この場合はディーネ殿が子供を産むんスか? それともルナリス殿っスか?」

「‥‥‥クナイさん? 君は一体なんの話をしているんだい?」

「えっ、だってーーー」


ヒソヒソと話し合うシグとクナイを他所に、キスされたルナリスがもぞもぞと動きを見せた。


「ん‥‥‥んんぅ? うむゅ‥‥‥はれ? わらひ、何して‥‥‥」


ディーネに魔法を吸い出されたおかげで目覚めたルナリスは、まだ寝ぼけているのか目をこすりながらぼんやりと辺りを見回した。


「ここ、は‥‥‥あれ? さっきまで‥‥‥何かを‥‥‥」


フワフワとした視線がシグへと到達した。


「ッ〜〜〜!」


ボンッ、という音が聞こえた。もちろん幻聴だが。一気にルナリスの顔が沸騰し赤く湧き上がる。


「あ、う、あぁぁ‥‥‥わ、私、ゆ、夢⁈ な、ななななッ〜〜〜⁈」


動きは速かった。たまらず飛び起きその場から逃げるように走り去ろうとし、見事にズッコけ転がった。


「ふ、ふえぇぇ〜〜〜」

「‥‥‥これまた、愉快な子捕まえてきたわね」

「い、いや、いつもは普通なんだ。普通、のはず‥‥‥うん‥‥‥」


変なモノを見る目をするディーネに、尻すぼみにフォローになってないフォローを搾り出すのがやっとであった。


「やは、り、逸、材」

「何なんだ‥‥‥私の方が面倒を見ないといけなくなるんじゃあないかコレ‥‥‥」

「シグ殿シグ殿! 結局どっちなんスか! 誰か教えて欲しいっス!」

「ははは、さて、と」


ドタバタ騒がしい、しかし戻ってきた幸せのカケラ達に安堵し、シグは残っている問題に片をつけるべく懐から一振りの剣を取り出すのだった。

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