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Dark Brides −斯くて魔王は再誕せり−  作者: 入観ねいと
第6章 エルフの聖域
61/100

#61


王国からカドレの森まで、まともに歩けば一週間はかかってしまう。

追っ手の問題も考えると、のんびりと進む訳にもいかない為、シグは王国侵入脱出で味を占めた《闇・雷迅》の超電磁射出による超長距離移動を多用した。

いくら剣を上手く使えないからと言って、このような使い方を見たら製作者はきっと嘆く事間違いなしである。


シグはマナとルナリスを影で包み抱え、クナイは背中にしっかりと掴まらせ、跳びに飛ぶ。

脱出の際とは違い余裕がある為か、空の飛翔にルナリスも影の隙間から、わあっと目を輝かせて世界を俯瞰した。

マナも、多分楽しんでいたと思う。クナイは言うに及ばず、背中で興奮して暴れるので落っこちないかとヒヤヒヤした。


ある程度王国から離れた場所まで移動し終えると、休息の為に着地し、近くにあった見晴らしの良い丘の上に腰を下ろした。


「つ、疲れた‥‥‥ここまで離れたら、少し休憩しても大丈夫、なはず‥‥‥」

「おつ、かれ、さ、ま」


夜明けまではまだもう少し時間がある。まだ顔を見せる月の姿を見上げて一息ついた。


「みんな寝てないからきついだろ? 見張っておくから寝ておいてくれ。言われなくても寝てるヤツもいるけど」

「ん」

「くか〜〜〜むにゃ‥‥‥」


転がって速攻で寝落ちしたクナイの横で、マナも目を閉じた。やはり眠かったのだろう、すぐに寝息を立て始めた。


「‥‥‥ルナリス、大丈夫かい?」


同じく疲れがあるはずのルナリスは目を開けたままじっと空を見つめていた。声をかけると慌てた様子で返事をする。


「えっ、あ、はい! いえ、あの‥‥‥少し、興奮して、眠気が来ないのです」


そう言って再び星空を眺める。翠の瞳は星々の光をその中に反射させ煌めいていた。


「同じ星空でも、それを見る場所が違うだけで、こんなにも綺麗に感じるのですね‥‥‥」


夜風に銀の髪がたなびき、純白の花嫁が夜に浮かぶ。まるで一つの絵画のようなその横顔に、問いかけずにはいられなかった。


「‥‥‥後悔はない?」

「はい。こんなに素敵な気持ちになれたのですから」


微笑み、こちらに視線を向けてルナリスは口を開いた。


「ありがとうございます、シグ。今私、とても楽しんでます」

「そっか、それなら良かった。‥‥‥ルナリス、約束するよ。君はこれからもっと楽しく過ごしていける。俺はその為に出来る事を必ずするから」

「はいっ!」


シグの言葉に、花のような笑顔が咲いた。


そこから、ルナリスも二人と同じく寝息を立て始めるのに時間はさほどかからなかった。


「‥‥‥夜明けか」


一人登り来る太陽の光を受けその眩しさに目を細めた。王国での長い一日は終わり、新たな一日が始まった。

冷静に考えても、しでかした事は大変なモノだ。王女の誘拐。これで立派な大犯罪者である。

それでも、後悔などは微塵もない。スヤスヤと、穏やかに眠る彼女達を見て自然と微笑む。


「覚悟ならあるさ。これから、何が起きようと必ず君達を守るよ」


改めて自らに誓う、何者にも、この幸せを壊させはしない、と。






三人が目覚めたのは太陽が真上に来てからだった。その後再び空中散歩を繰り返し、途中何度か休憩を挟んだが、カドレの森へと夕刻には辿り着いた。


「まさか、こんなに早くここに戻ってくるとはなぁ‥‥‥」


ポツリと、誰に言うでもなく呟きが漏れた。

半年という短い期間。だがとても濃厚な半年だった。その旅の始まりの地。全てを失って辿り着き、そしてまた失った土地。


「とりあえず、暗くなる前に湖には辿り着きたいな」


おそらく、ディーネが居るならばそこ。彼女の性格上、こちらを出迎えるような事はしないだろうし。


「またビューンっと跳ばないっスか?」

「そんなことしたらディーネに殺される」


アレは発射と着地の衝撃がデカすぎる。森で使えば環境破壊もいいとこだ。確実に怒られる。


「すごい‥‥‥これがカドレの森‥‥‥こ、この中に、今から入るん、ですね⁈」


ゴクリと喉を鳴らし、恐怖半分、興奮半分くらいの様子のルナリス。今まで王国内でしか生きてこなかった彼女にとっては未知の領域だ。期待と不安がないまぜになるのも無理はない。


「ああ。木だけじゃなく植物もうじゃうじゃ生えてるから、慣れないと歩き辛いと思う。獣は俺たちに近寄らないだろうけど、一応手を繋いでおこうか」

「ん」


短くそう言ってマナが素早く右手を掴んだ。


「じゃあ自分も師匠と手を繋ぐっス!」


続いてマナの右手をクナイが握った。


「え、ええっと‥‥‥あのその、わ、私は?」


そもそもルナリスに言ったつもりだったんだが。マナはこちらをじっと見上げている。その表情からは何も読めない。

まあ名前言ってないからそもそも勘違いでも何でもないか。まさか確信犯という訳でもないだろう。別に両手が塞がるくらいは何ともない。空いている左手を差し出した。


「ほら、こっち」

「は、はい!」


嬉しそうに飛びつくように手が握られる。まるで犬のようだなぁ、と王女相手に失礼な事を思いつつ、森へと手を繋ぎ合ったハタから見れば変な四人組が入っていくのであった。


「う、中々、歩くの、難しいです、ね」

「あー、まあその格好だときついよね」


生い茂る草木の密集地に、裾の長いドレスではさぞ歩きにくいだろう。


「あっ、枝に引っかかって、あっあっ! と、取れません!」


言ってる側からドレスが引っかかってしまい四苦八苦している。


「うーん、多分ものすごく高い衣装なんだろうけど。気が引けるが、破った方が歩き易くなると思う」

「は、はい! 私気にしませんので、お願いします!」


許可も取れたので、引っかかっている部分を手に取り破こうと屈む。捲れた裾から生足が見えて少しドキっとした。

見上げるとルナリスも恥ずかしいのか顔が赤かった。


「シ、グ。手で、やる、必、要、ない」


耳元で囁くにしてはドスの効いた声だった。ビックリしてドレスから手を離す。


「た、確かにそうだな! うん、マナ良く気づいたな! じゃあルナリス、ちょっと動かないでね」


足元から伸ばした影でちょちょいと裾をカットする。あまり短すぎるのも色々危険なので、膝下くらいまでは残した。


「わぁ、すごいですね! うん、さっきより動きやすくなりました」


クルッと回り具合を確かめるルナリス。だがそれでもやはりこの森には不似合いな格好である事には変わりなかった。


「代えの服があれば良かったけど、そんなものここにはないしなぁ」

「シグ殿シグ殿、師匠の帽子ってシグ殿が作ったっスよね?」


クイクイっと服を引っ張りながらクナイが影で作った角隠しの帽子について尋ねてきた。


「ん? ああ、そうだけど?」

「だったら服も作れるんじゃないっスか?」

「いや‥‥‥まあ出来ない事もないが‥‥‥」


そもそも帽子だって本物の帽子ではなく、シグが《魂身分離》によって切り離したシグ自身を帽子の形にしただけのものだ。

つまり、これで服を作ってルナリスに着せようものなら、シグ自身がルナリスの身体を覆うようなモノである。帽子も普段は意識を切り離してはいるが、それでも健全な男子に女子の肉体を意識するなと言うのは無理である。


「じゃあ作ったらいいじゃないっスか」

「いや、あの‥‥‥それはだなぁ‥‥‥」

「それ、は、ダメ。何、が、何、でも、ダメ」


何とクナイに説明しようかと悩んでいるとマナから助け船。


「は、はいっス師匠! なんか怖いっスよ!」


敬愛する師からの言葉に、最早服作成の話は続かなかった。


「服は、また今度なんとかしよう。それまではごめんけどそれで我慢してもらうしかないな」

「はい、私はこれで構いませんので。でも、どうして服を作るのはダメなのでしょうか?」


またその話にルナリスが戻してしまう。やはり説明せねばならぬのか、恥ずかしいんだが。


「ルナ、リス。こっ、ち」


ちょいちょいと手招きし、少し離れた場所で二人コソコソと何かを話し合う。それが終わると、少し顔を赤くしたルナリスが戻り謝罪した。


「あ、あのその、申し訳ありません。そういうものなのですね。流石に、私も恥ずかしいのでこれで我慢します」

「あ、ああ」


こちらもなんだか恥ずかしい。悪い事をしてないのにそんな気分になる。


「シ、グ、すけ、べ」

「それは違う! 違うって!」


あらぬ誤解を受けながら、少し気まずい感じで湖への歩みを再開した。




「やっと、着いたな」


日はほぼ沈みかけ、足元も不鮮明になりかけていたが、なんとか目的地までたどり着いた。

とは言えシグの眼ならば暗闇くらい見渡せはするが、一般人のルナリスがコケたりする前に来れて良かった。


「な、中々、森を歩くというのは、疲れる、のです、ね」

「そうっスか?」

「ルナ、リス、もや、し、っ子」

「え、えっと、もやし? どういう意味なのでしょうか?」


ほとんどを城内で過ごしてきたルナリスには歩くだけでもハードだったらしい。三人を後ろに湖へと近づく。


「‥‥‥湖の中、かな」


夕日に染まる湖を凝視する。周囲にディーネの姿はない。まさか水の中に潜って行かないといけないのか、と考えていると上空より風が舞い降りた。


「これはこれは〜、お久しぶり〜、ですね〜」


カドレの森の管理者。ディーネと同じ精霊であるシルフィが、シグ達を迎えた。


「ああ、久しぶーーー」


シグが挨拶を返し終えるその前に、シグの首がスパッと切り落とされ宙を舞った。

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