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Dark Brides −斯くて魔王は再誕せり−  作者: 入観ねいと
第5章 王都動乱 漆黒の花嫁
45/100

#45


王都にある巨大な闘技場。観客席が足りず立ち見客が多くいる程に盛り上がっていた。

レストニア大剣覇祭。王国最強の称号である七王剣の空位を埋める為の祭も、三ヵ月をかけてようやく終わりが近づいていた。

各地から集まった腕に自信のある強者達による宴。祭りの名に相応しい熱気は参加者だけでなく観客も当てられ、国内は大層な活気に満ちていた。


昨日で二つに分けられた決勝トーナメントの内一つは終了し、空いていた七王剣の一人は決まった。残りは一人。


「今日で最後か。このお祭り騒ぎ、嫌いじゃなかったけどな。残念だ」

「へぇ、いっつもつまらなさそうな顔してるから興味ないのかと思ってた」

「今の君には言われたくないね」


一般開放されている観客席とは別。闘技場全体が見渡せる上階の特別席に座るのは現七王剣の二人である。

長髪に仏頂面の陰気そうな男はギルバート・クロイメライ。

隣に座る心底つまらなそうな顔をした背の高い、髪を後ろで一つにまとめた女性がキリエ・ジュナルだ。


「今日の勝者が明日のエキシビションで君と戦う相手になるんだ。それでも興味が湧かないのか?」

「誰だって関係ないし、話にならない。興味も湧かない」


そう言って肘をつき目を閉じるキリエ。その表情に悲壮のようなものを感じたギルバートは疑問をぶつけた。


「今回の参加者は、君の望むような力のある者がいなかったからかい?」

「‥‥‥まあ、そうね。飛び抜けて強いと思える者はいなかった」

「ふむ、悪くはないと思ってはいるようだ。ならば心ここに在らず、といった様子なのは別の事か」

「何よ、別の事って」

「大剣覇祭が終わったら、ユリウスの奴が結婚してしまうからだろう?」


ズルっ、と肘を滑らせたキリエが慌てて立ち上がり抗議した。


「ち、違う! 何で私があいつの結婚についてとやかく考えなければいけないのだ!」

「いや、そういうのに鈍い私でも気づけるレベルだぞ、君のは。ということは他の七王剣のメンバーももちろん、いや、ユリウスを除いて君の気持ちは知っているよ」

「なッ、なッ、なッ〜〜〜⁈」


一瞬でキリエの顔が沸騰する。それに対しギルバートは仏頂面のまま言葉を続けた。


「しかし、私以上に鈍い奴は中々いないと思っていたが。そういう意味では君とユリウスはお似合いだな」

「おまッ、黙れ今すぐその口を閉じろッ!」


ギルバートの首根っこを掴みぐわんぐわんと激しく揺らす。本気の力に首が締まり息が出来ず顔が青くなる。


「し、死ぬッ‥‥‥君の、力だと、本当に、死ぬッ‥‥‥」

「そのまま死ねッ!」






「相変わらず楽しそうな二人だなぁ。僕もあっちの席が良かったなぁ」

「なんじゃ、ジジイと一緒だとつまらんか?」


そんな二人の様子を闘技場の反対側、同じく特別席から覗くのは、まだ少年と言っても差し支えない幼さを残したクロウ・ノウムと、反対にシワシワの皮膚とツルッとした頭の老人、ナフサ・アークだ。


「当たり前でしょ。じいちゃんの話ズレてるから一緒に居てもつまんねーし」

「はっはっは、子供は素直で可愛らしいもんじゃな!」

「ガキ扱いはやめろよじいちゃん」


ポンポン、と頭を叩かれる。子供扱いされる事を快く思わないクロウだが、ナフサは特に気にしなかった。


「全く、次期七王剣が決まるっちゅうのに、だーれも試合に関心を持っとらんとわなぁ」

「いや、僕ちゃんと見てるし。それより向こうの二人が気になってるだけだし」


気になる、というより不機嫌そうな感じを出して反対側の観客席を覗き続けるクロウの態度にははあん、と一つ納得しナフサが声をかける。


「なんじゃ、お主キリエ嬢の事を好いておったのか?」

「え? なんでキリエさんの名前が出るの?」


キョトン、とした顔で返される。本気で意味が分からないという風に。


「‥‥‥‥‥‥」


ナフサは無言でクロウとの距離を少し置いた。


「なに離れてんのさ」

「いや、何でもない。それより、決着がつきそうじゃぞ」


眼下では大剣覇祭決勝戦が行われている。二人の決勝進出者が残りの一枠をかけ互いに死力を尽くし戦っていた。

レイピアを使うのは艶やかな青髪を揺らす中性的な顔立ちの青年。その対戦相手は体格差が大きく開く筋骨隆々な漢で、太い腕と同じくらいの棍棒を使っていた。


「レイピア使いの青年の方が巧みじゃな。間合いに入らせずじりじりと削っておる」

「対する筋肉モリモリマッチョマンさんは逆転の一撃を狙ってるね」


魔武器であろうレイピアは、刀身の長さより離れた相手にも傷を負わせていた。その為棍棒使いは中々近寄ることが出来ていない。

傷一つない青年とは対照的に血だらけの漢は、それでも目をギラつかせていた。


「魔力が集中しておる。終わるぞ」


ナフサの言葉と同時に、漢の持つ棍棒が動いた。突出していた数多の棘が伸び、赤い光を帯びる。


「死ねぇッ! デッドリィ・スパイク!」


届かぬ間合いから振り下ろされた棍棒。敵ではなく地面を抉ると、前方へと赤い線が地に無数に描かれた。


「これは⁈」


青年の足元まで伸びた赤い線。一息の後に線から地面が隆起する。棍棒と同じ棘だ。土が魔法により姿を変形させ、無数の棘がとめどなく襲いかかった。

肉体など軽く穿つ棘は青年を穴だらけにし、誰の目から見ても明らかに勝敗を決した。


「ハハハッ! やったぞ! 俺が七王剣だ!」


高らかに宣言する筋肉漢。だが試合終了の合図はまだ鳴っていない。


「美しくないね」

「ぬおッ⁈」


ガッツポーズを決めていた漢の足元から水が吹き出す。あっという間に漢の身体を覆うと球状となり捕らえた。


「君は美しくない。見た目も、戦い方も」


穴だらけになり絶命したと思われていた青年が動く。するりと棘から抜け出るその身体は、漢を捕らえたものと同じ水で出来ていた。


「水魔法じゃの。しかも己自身を変化させるとは」

「わざわざやられた振りするなんて趣味悪いなぁ」


地上で溺れもがく漢の眼前まで移動した青年はレイピアの切っ先をゆっくりと相手の心臓部へと向けた。


「せめて散り際は美しく逝かせよう」


レイピアを動かすことなく、水を、漢の身体を何かが穿った。丸い穴の空いた身体が地面に落ちる。大量の水が血とともに土に染み渡った。


「試合終了! 勝者、デュラメス・パラノイン!」


髪をかきあげレイピアを仕舞うと、青年は優雅に闘技場の出口へと向かった。




「キザったらしいのう。見よ、女子どものうっとりした顔。今はああいうのがモテる時代なんじゃのう」

「僕は筋肉さんの方が好きだったけどね。残念」


クロウのその言葉に再びナフサは距離を取るのだった。


「これであの優男さんがキリエさんと戦うのかぁ。死なないといいけど」

「お主は昨日の優勝者と試合じゃろ? 他人の事より自分の心配をしな」

「ハァ‥‥‥僕こう言ったイジメみたいなの好きじゃないんだけどなぁ」


憂いを見せるクロウにニヤリと意地悪くナフサが笑った。


「通過儀礼というやつじゃよ。お主もギルバートにボコボコにされたじゃろ。懐かしいのぉ」

「あぁ‥‥‥アレはとても素敵だったなぁ‥‥‥」


うっとりとした表情を浮かべるクロウに、今度はたっぷりと三人分の間を空けて座り直した。




「これで明日の君の試合相手が決まった訳だが、どうだ?」

「さっきも言ったぞ。誰でも同じだ」


用は済んだとばかりに席を立つキリエ。スタスタと去ろうとする背に再び声をかける。


「七王剣の授与式まで見ていかないのか?」

「それこそもっと興味ない」

「そうか‥‥‥分かっていると思うが、エキシビションは殺しは禁止だぞ」


止める事はせず明日の試合の忠告だけ行う。大剣覇祭と違い、七王剣となる者の力量を測る目的のエキシビション。折角新人が生まれたのに殺してしまうのはもちろん駄目である。

また、この試合は現七王剣から新人へと力の差を見せつける儀式でもある。

クロウは優勝の後、これでギルバートと戦い、文字通り手も足も出ずに負けている。


「善処しよう」


ヒラヒラと手を振り去ったキリエ。ギルバートは目を閉じ、授与式が始まるまで静かに待つのだった。

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