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Dark Brides −斯くて魔王は再誕せり−  作者: 入観ねいと
第1章 カドレの森の異変
3/100

#3


その日は森の中が静まり返っていた。鳥のさえずりもなく、風に揺れる木の葉の擦れる音すらいつもより幾分静かに感じる程に。

生きとし生けるもの、その全てが眠ってしまったかのような異変。


「‥‥帰った方が良さそうだ。何か、おかしい」


いつものように後方で隠れているアイシェへと提案する。すぐに姿を見せたアイシェも同様に、森の違和感に気づいていたようだ。


「そうだね。何の気配もないのが、逆に不気味‥‥。嵐の前のってやつかな」


感覚の鋭いアイシェがそう言うなら間違いはないだろう。言葉を交わすのも憚られる静寂の中、急ぎ帰路につく。

そうして踏み出した一歩が、闇の中へ沈み込んだ。


「なッーーー⁈」


いや、錯覚だ。足の裏は地面の硬さを感じている。だが、見えない。全てが暗く塗り潰されていた。そう、地面だけでなく、森が、自分が、隣にいるはずのアイシェさえ、黒へと。


「シグ!」


あまりに急な出来事に動揺して固まっていたシグの手をアイシェが掴む。彼女の方は闇の中でもまだ周囲を認識出来ていた。


「私が連れて行くから!」

「わ、分かった!」


何が起こったのか。理解出来ない現象に混乱する中、アイシェの凜とした声はシグに幾らか冷静さを取り戻させた。とにかく今は二人の元へ急ぎ戻らないといけない。

先導をアイシェに任せ、何度か転びかけながらも、暗闇を駆ける。


「もう、少しだよ!」


どれくらい走ったのか。時間も距離感も狂わせる闇の中で、アイシェの言葉に少し安堵する。そしてすぐに二人は無事なのか、ちゃんと洞窟の中で待っているだろうかーーー。


そんな思考が、一瞬で奪われる。


「うッーーー⁈」


世界が、揺れた。周囲の存在が知覚できないシグには文字通りそう感じた。立っていられないほどの揺れ。暗闇そのものが振動しているのか。足はもつれ、その場に倒れ込む。手が、離れた。


「シ、シグっ⁈」


揺れる。揺れる揺れる揺れる。しかも段々と大きく。世界が壊れてしまうんじゃないかと言うくらいに。

だが対比的に視界は黒いまま静寂を保つ。自分は本当に地面に倒れ込んでいるのか。もしかしたら川の中に落ち込んでいるのではないか。上下左右、天地すらどこかも分からない状態の中、シグが叫ぶ。


「先に二人の所へ! 早く行くんだ!」

「で、でもッ!」


「君の大切な最期の家族だろ! 行け!」

「〜〜〜ッ! すぐ戻るからね!」


気配が離れる。さすがにこの揺れの中では獣人といえど素早く動けないようだが、それでもすぐに二人の元へ行けるだろう。

何が起こっているかは分からないが、上手く動けない以上、揺れが収まるのをここで大人しく待つしかない。だが、いつまで?

幾ばくの刻が過ぎたか、それは唐突にきた。


『 ‼︎』


まさに悲鳴だ。ただし生命があげられる音ではない。聴く方の身も壊してしまうのではないか、そんな破壊の叫び。鳴き声に合わせるかのように振動もこれ以上ないくらいに大きくなる。

途切れかける意識を必死で繋ぎ止め、シグは見た。崩壊の絶叫とともに、闇が砕け散る。砕けた箇所からは普段のカドレの森の光景が戻っていく。まだ世界は揺れている。悲鳴も続いている。だが、見知った森が周囲に戻り、少しばかりの希望を持つ。


終わったのか? 歯を食いしばりながら久しぶりに見る光と、消えゆく闇を見て、すぐにその考えは否定された。

違う、砕けて消えているわけではない。集まっているのだ。元々質量などないはずの闇が、一箇所に、収束している。


揺れは収まらない。立ち上がれない。だが、視線は動かせる。目が離せない。理解不能な現象に、夢幻のような光景に。


『 ‼︎』


一際大きく吼えた。聞き取れないはずの悲鳴だったが、シグはそう感じた。


森の上空に集まった闇がーーー途轍もない存在感を持ったソレはーーー雷の如く地へ、天へ、双方へ堕ちーーー縦に伸びた黒線は世界へ亀裂を生み出した。

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