表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Dark Brides −斯くて魔王は再誕せり−  作者: 入観ねいと
第4章 闇の婚約と王国の影
29/100

#29


「ったく、俺がなんでこんな草刈りなんかしなくちゃならないんだ」


作業着を着た若い男がぶつくさ文句を言いながら手に持つ鎌を動かす。その近くで土を耕す仲間の男もそれに賛同した。


「ホントだよなぁ、わざわざ王国から離れた場所まで来て草刈りや土いじりなんてやってらんねぇよ」


森の中、木々がない開いた場所で畑を作る下準備をする。この場所でもう何個目になるのか、三ヶ月もここで労働させられていた。

その後も二人で日頃溜まっている鬱憤をブチまけあっていると、鎧を着た男が現れ二人をジロリと睨む。


「おい貴様ら。口ではなく手を動かさんか。簡単な作業も出来んのなら飯も与えんぞ」

「き、騎士様! こちら頑張って作業しておりますとも!」

「ええ、そうですとも。いやぁ、天気も良くて作業が捗りますって」

「ふん、サボりでもしてみろ。厳罰を与えるからな。さっさと今日のノルマをこなせ」

「へ、へい!」

「了解ですぜ!」


もう一度ジロリと睨み、騎士はツカツカと去って行った。姿が見えなくなったのを確認して、二人はさっきより小さい声だが悪態をつく。


「クソが、偉っそうにしやがって!」

「俺らが平民だからってあの態度はないぜ全く。あいつも騎士の中じゃ下っ端のくせによぉ」


そんな事を言いながらも手は先程より速く動いている。小心者の二人にとって厳罰など絶対に受けたくないのだ。


「しっかし、一体こんな遠くの森まで来て何をするつもりなんだ? 畑仕事なら王国内で出来るはずだろ?」

「そんなの俺が知るかよ。あいつら、四大貴族のディエライト家の下っ端だろ? 貴族の考える事なんざ俺らに分からねぇよ。もう何も考えずに手を動かせ」

「チッ。はーいよ」


その後黙って作業をする二人。そんな彼らは周囲を囲まれている事に気づかなかった。


「ーーーあッ⁈」


鎌を持った男が驚きの声を上げる。腹から突き出た木で出来た槍を見て、何が起こったのかそれを理解することなく、次の一撃で頭を貫かれ絶命した。


「ひ、ひぃぃッ! 猿妖族だ! 誰か! 誰か助けーーーッ⁈」


悲鳴と共に鍬を放り投げ、逃げ去ろうとしたもう一人だったが、素早く現れた猿妖族の者達に囲まれ四方から串刺しにされた。


「うッ、そ‥‥‥」


痛みと恐怖で涙を浮かべた彼の、それが最期の言葉だった。同時に四つの槍が抜かれ、支えを失った死体が赤い染みを作りながら地面に倒れた。


「まだ他にもいるはずウキャ! 探し出して皆殺しウキャ!」

「ウキャ!」


五体の猿妖族は頷くと、獲物を探す為に移動を始めようとした。が、それは遮られる。


「ヴギィッ⁈」


一体に落雷が落ちた。こんな晴天の日に有り得ない。ならば自然のモノではなく何者かによる明確な攻撃。

驚く間も無く二体目、三体目も上空からの雷に身を打たれ、命を奪われる。


「逃げるウキャ!」


ここではやられてしまう。森の中へと生き残った二体が逃げ隠れようとするが、それは叶わない。


「逃がさんぞ」


鎧を着た騎士。先程の者とは違う煌めく白い装飾。逃げ道を塞ぐように現れた騎士が抜刀した剣は猿妖族の一体を、当人が切られたという自覚も与えぬ速さで頭から身体を真っ二つにした。


「キ、キィ!」


その一部始終を横目で見た残る一体は今更ながらに力量の差を認識し、すぐに他の仲間へと逃げるよう伝えなければと走る。


「キッ⁈」


身体が不自然に止まる。あれほど勢い良く走っていた身体が空間に縫い付けられたように動かない。

唯一動かせる目玉、それが捉えたのはこちらにゆっくり歩み寄る先程の剣使いとは別の騎士。


「僕は動物には優しくしようと思っていてね?」


装いが他の騎士よりも薄く、動き易さを重視しているのか。また、武器も何も持っていない。

あるのは両手に嵌めた他よりも豪華な装飾の手袋。


「だからさ、苦しめたりはしないから安心してよ」


ニコニコと笑顔でそう言うと右手の指をパチリと鳴らす。その動作だけで猿妖族の手足が細切れにされた。


「ヴギィァァァァァァァァァァアアアアア!」


絶叫。四肢を失った痛みで、彼は何故自分が宙に浮き続けているかを疑問に思うことも無かった。


「おっと、間違えた。こっちだった」


左手の指を鳴らす。今度は胴体が散り散りに霧散した。残った頭で猿妖族は数秒苦痛の意識を保ち、その命を散らせた。


「バレリア、肉体を粉々にしてどうするんだ。奴らの毛皮は高級品として価値があるのだぞ」


血の一滴も浴びていない剣を鞘へと戻しながら騎士がバレリアと呼んだ同僚を嗜める。


「いやぁ、ついつい。でもまだまだたくさんいるんだろう? だったらいいじゃないか」

「そのついつい、が多すぎるからこその忠告なのだがな」

「サガンは堅すぎるんだよ。もっと楽しんで仕事しようよ」


サガンと呼ばれた騎士は言っても無駄だな、と諦め、死体をそのままに歩み出す。


「とりあえず本部に戻るぞ。また本国からの労働者の補給が必要になりそうだな」

「ついでに可愛い子も呼んでくれない? 僕もうこの男むさい職場嫌なんだけど」

「‥‥‥連れてきた玩具を三日で全て壊し尽くしたのはお前だろ。我慢しろ」

「ちぇ〜」


その場を去る二人。それを遠くから見ていたのは戦いの場に遅れてしまい、参加出来なかった猿妖族の一体であった。


「キィ‥‥‥どうすればいいウキィ‥‥‥」


仲間が無残に殺された場面を見て、恐怖に震える彼は、しばらく経ってから自分達の住む集落へと向かった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ