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Dark Brides −斯くて魔王は再誕せり−  作者: 入観ねいと
第4章 闇の婚約と王国の影
24/100

#24


夜も更け、身体も動くようになったシグは思案していた。

あれから魔族と思われる敵の攻撃はなく、かと言ってこのままここにいても仕方ない。だがやはり行く当てもなく、ただうなり続けていた。


「‥‥‥すぅ‥‥‥すぅ」


マナは案外図太い性格なのか、それとも体格の小ささから体力がないのか、すっかり膝の上で眠りこけていた。


「今更慌ててもどうしようもないか‥‥‥」


周囲は見渡す限りの草原。近くにあるのはカドレの森のみ。徒歩のみでの移動を考えると、休める場所を発見し辿り着くまでに一体どれほどの時間がかかるか。

そも何個か休める集落のある場所は知っているが、カドレの森で暮らすまでにアイシェ達と行ってきた悪行、食べ物の盗みが主だが、そのせいでお尋ね者である。


「どこか遠くに行くしかない、か」


ポツリと小さく呟くと、マナが目を開け身体を起こした。


「あ、悪い。起こしたかな?」


シグには目を向けず、星空に淡く照らされた草原の、とある方向へ視線を向け口を開いた。


「誰か、来て、る」

「えっ?」


マナが指差す方向。視界は悪くない。遮蔽物のないこの地なら、誰かいればすぐに気づける。だが何者の姿も見当たらなかった。


「草の動き、見て」

「‥‥‥‥‥‥」


マナの指示に目を凝らす。やはり姿はない。だが、そよ風に揺れる草の一部が、誰か見えない人物が歩いているように折れては戻っていく。


ように、ではない。見えないが何者かがこちらに向かってきているのだ。

そう判断したシグは立ち上がるとマナを背後へ移動させ、足元の影を広げ戦闘態勢に移る。


ゆっくりと、見えない足跡が近づく。来てここまでの距離になると草のすれる足音が聞こえた。

どうする? 先に攻撃を仕掛けるべきか?


迷っていると、足音は影を踏まない位置で止まった。そして、何者かはこちらへと攻撃ではなく声を発した。


「久しぶりだな、シグ」

「‥‥‥誰だ?」


陽気な声に記憶が刺激される。聞いたことのある声。


「あらら、忘れられたんならさすがにショックだぜ。兄貴が大好きのシグナスくんよ」

「‥‥‥あっ!」


何かを脱ぐ衣摺れの音とともに、何もなかった空間から人間の男が姿を現した。スラリと長い体躯に整った顔立ち。派手な赤色の髪をしたこの男性を、シグはよく知っていた。


「ジュディエム! ジュディエムじゃないか!」

「久しぶりだな、シグ。お前を逃してからだから二年くらいか。元気にしてたか?」


人のいい笑顔を向けるジュディエム。知らない相手に興味があるのか、シグの背後からマナが顔を半分だけ出して覗き見た。


「なんだよ、お前も隅に置けないな。そんなかわい子ちゃん連れてるなんてよ。しかもーーー角持ちとはな」

「‥‥‥‥‥‥」


ジュディエムの目が細められる。そうだ、七王剣でありレストニア王国の騎士である彼にとって、魔族は敵。マナに対しては並々ならぬ対立がある。


「ん? どうしたシグ。もっとその子の顔を俺に見せてくれよ」

「ーーー見て、どうするつもりだ?」


マナをジュディエムから遠ざけるように再び背後へ隠す。命の恩人である彼とは戦いたくはないが。

背中に担いでいるのが、名高い王国の聖弓エルターヴァか。そちらにも注意を向け、影からいつでも武器を飛び出せるようにする。


「あちゃー。見事に警戒されちまったな。別に魔族だからって襲いかかったりしないよ。その子も、お前にもな。ほれ」


ジュディエムが纏っていたローブを広げて右腕を晒す。


「‥‥‥あんた、その腕」

「お前も見ない間に色々あったみたいだが、俺も色々あってな。クソ変態ヤローに大事な利き腕切り飛ばされ、七王剣もクビ。というか死んだ事になってるからな」


右腕は異様な造形だった。およそ生命が宿ったものとは違う。鉄を細かく組み合わせ、腕の形にして貼り付けているのか。不思議なのはそれが本物のように動いていることだ。


「面白いだろ? 北に住む小人族のやっかいになった時に貰ったものだ。すげーよな、鉄で出来た腕だがなぜか動くんだ」


ギギギ、と鈍い音を立てながら指が閉開する。


「ま、今の俺は王国の人間でも、人間の味方でもないただの流浪人さ。だからそのやる気満々の戦闘態勢解いてくれよ」


異性ならそれだけで蕩けてしまうようなウィンクを寄越すジュディエム。この人は何も変わってないな、と安心し影を引っ込めた。


「とりあえず、時間はあるんだ。ああ、さっきお前達を狙ってた魔族なら追い払ってるから安心しな。ほら座れよ。積もる話でもあるだろ?」

「‥‥‥そうだな」


二人は近くに寄ると地面に腰を下ろした。マナは斜め後ろにくっついた。


「それで? 彼女の紹介はしてくれないのかい?」


若干茶化すように言ってくるが、特に反応せずマナを紹介した。


「この子はマナ。先日から一緒に行動を共にしてる」

「そうか。よろしくな、マナちゃん」


キラッ、と白い歯を見せながら爽やかに笑みを見せるジュディエム。


「‥‥‥よろ、しく」


まだ幼いマナにはあまりイケメン効果は発動しなかったようだ。淡々と返事をする。次にシグはジュディエムの紹介を行った。


「マナ、この女好きのタラシはジュディエムって言って、俺の兄の自称親友だ」

「なんか俺の紹介だけ酷くはないか⁈」


昔、小さい頃によく兄と一緒に遊んでくれた。その頃から女関係で周囲に迷惑をかけてくれ、こんな大人にはなりたくないと強く思ったものだ。


「こんなんでも、兄と同じくらい強い人だ。特に弓の腕前がすごくてね。よく的当てを見せてくれたよ」


女関係以外ならとても気さくで楽しい人物である。弓に関しては当時から百発百中と謳われ、庭で神がかった的当てをシグに見せてくれていた。


「じゃ、紹介も終わって仲も深まった事だし、話してもらおうか。俺の知らないシグの二年間を」

「ーーージュディエム。あんたに助けられた後、色々あったよ」


シグはこれまでの出来事について話し始めた。

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