表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Dark Brides −斯くて魔王は再誕せり−  作者: 入観ねいと
第3章 森の精霊と獄㷔の悪魔
23/100

#23


何という大きさか。まさに星の如き巨大な魔力の塊がほぼ水平に落下し、宵闇を弾き飛ばす禍々しい輝きでもって押しつぶさんとする。


避けようもなく、防ぎようもない。対峙する者へと絶望を叩きつける一撃に、しかしガルドアは向かった。既に瀕死の身体ではあるが、それでもその眼は爛々と輝き、魂は今まさに絶頂に燃え盛っていた。


「フハハハハ! 一度試してみたかった! 帝国最強と謳う一撃を! ワシの力でねじ伏せてやるのをな!


《魔装覚醒ーーー燼滅・煉獄の轟斧》ッ!」


顕現させた斧とともに燃え上がるガルドア。


なぜ動ける。なぜ戦える。なぜ魔装をまだ振るえる。


そんなシグの疑問はすぐに氷解する。

崩れゆく身体に再び火を灯すガルドアの背。弱々しさなど微塵も感じさせぬ、あの雄々しき姿を見て、理解出来ないはずがない。


数歩で遥か彼方へ駆けたガルドアと、秒でこちらまで迫る凶星が対峙する。


「この身朽ちるとも、ワシの魂はまだ燃えておる! まだ燃えているとも! ならばこそーーー応えよ《燼滅・煉獄の轟斧》ッ!」


魔装とは己の魂。その力の大きさは魂の強さ。ならばとガルドアは、己が魔装こそ最強とばかりに、凶星に挑む。


「オオオオォォォォォォーーー《灼燼の揺光炎》!」


斧の中央部が大きく開く。中の炉心が稼働し、吹き上がる紅蓮の焔が斧を、ガルドアを包み小型の太陽と化す。


ぶつかり合う両雄。


凶星の禍々しき輝きに引けを取らない灼熱の光。大きさに圧倒的な差はあれど、ガルドアは星の墜落を押し留め、その場に一時拮抗させた。

だが、質量の差は大きかったか、徐々に太陽が押され始める。今にも押し潰されてしまうのではないか。そんな思いを打ち砕くよう、ガルドアは高らかに笑った。


「ガッハッハッハッ! 良し! 良し! 最強に偽りはなかった! 最期までーーー心踊る戦であった!」


魔族の膨大な魔力。その制御を司る角を折られたことによる作用は二つ。一つ目は生命維持が難しくなることによる肉体の崩壊。

そしてもう一つ。制御の無くなった行き場のない力の、今まで必死に抑えていた魔力のーーー暴発。


「さらばだーーーーーーーー!」


別れの言葉を残し、ガルドアの持つ圧倒的な質と量の魔力が、体外へと炸裂する。《灼燼の揺光炎》を暴走させたその威力、瞬間的にだがヴァインドラの《堕落墜星・骸神崩魂》すら上回る程。

命を、魂を燃料に、真実太陽に迫るガルドア最期の一瞬の輝きは、世界を閃光に染め上げ、あの凶星をも飲み込み対消滅した。






「‥‥‥出鱈目だな」


ポツリとシグが呟く。呆れたような物言いではあるが、そこには尊敬の念が込められていた。

昼間よりも明るく世界を染め上げたガルドアは消え、嘘のように闇を取り戻した世界。しかし、彼の者が最期に残した爪痕は、隕石でも落ちたかのように抉られた大地が証拠として残っている。まだ地面は赤く焼け尽き、当分は冷めないだろう。


そしてもう一つ残ったもの。


ボロボロに罅割れながらも形を失わずに宙に浮くガルドアの魔装、《煉獄の轟斧》。

持ち主は既に亡いというのに、まだその姿を保てるのはどのような理屈なのか。出鱈目さはさすがガルドアの魂が顕現した物である証拠かもしれない。


主人なき斧はなぜかシグの目の前へくると燃え上がり、小さな光の球へと変化した。次には無理矢理シグの胸中へと飛び込む。


「アヅッ⁈」


体内に焼けた鉄棒を突き刺されたかのような痛み。胸を押さえ目を顰めていると、確かに声が聞こえた。


『マナ様を頼んだ』


それきり声は二度と聞こえなかった。


「‥‥‥死んでも勝手なヤツだ」


側で何も言わずに寄り添うマナは、シグの苦笑を見上げ、不思議そうに首を傾げるのだった。






「あーーーーーー! チクショウチクショウチクショウチクショウチクショォォォォォォオッ!」


絶叫をあげるヴァインドラ。しかしその声の激しさとは裏腹に、仰向けに倒れた身体は一片たりとも動いてなかった。

魔装覚醒の反動。最強の一撃と謳われるものの、一度使えば一月は身体の自由が利がなくなるという欠点を持つ。故に口は呪詛を吐き続けるも、駄々っ子のように暴れ回ることも出来なかった。


「でェ? 何が起こったんだァ?」


状況を見る事の出来ないホルザレが浮かぶ目玉に尋ねる。


「どうやら、防がれたようですね。ただ、ガルドアは綺麗に消滅しましたが」

「ならいいんじゃァねェか?」


ホルザレのどうでも良さ気な声にヴァインドラの眼帯の目玉達がギョロッと睨み付ける。


「い〜〜〜い訳ないじゃんかッ! 折角気持ちよく射ったのに! ガルドアのクソジジイ一人にボクの《堕落墜星・骸神崩魂》が消されたなんて! 許せる訳がないッ! 本当なら森も破壊し尽くすはずだったのにぃ!」


動かせるならば間違いなく腕や足をバタバタと振り回したであろう。ホルザレは憤怒をあげ喚き散らすヴァインドラの方を半眼で見下ろした後、オルフェアイへと指示を仰ぐ。


「んで? このアホ連れて撤退でいいんだなァ?」

「ええ、そうーーー」


オルフェアイの声は続かなかった。


宙を飛ぶ目玉が弾け飛ぶ。その一瞬前にホルザレはヴァインドラを庇うように魔装を顕現させていた。


「チィッ!」


ホルザレの魔装《比翼の光翅》は四本の翼からなる。その羽は一本一本が鋭く、また硬質であり、攻防一体に扱える魔装である。

ヴァインドラと己の身体を包み込むようにして展開した羽は、飛来する何かを確実に防いでいた。

だがホルザレの驚きは、飛来した何かが自分の魔装に貫通とまではいかないまでも突き刺さった事にあった。


「矢、だとォ?」


恐らく透明化の魔法が付与された不可視の矢。それ以外何の変哲もないただの矢だが、込められた異常な力が魔装をも傷つけられる威力にのし上げている。その異常な力の正体など分かりきっていた。


「クソッ! やっぱ貧乏クジだったなァ!」


指揮官との連絡手段を断たれた今、自らで判断し行動しなければならない。ホルザレの決断は早かった。

ヴァインドラを拾うと翼を展開。高速で空へと飛び立つ。


だが襲撃者もそれを逃しはしない。不可視の矢が無数に追撃を仕掛ける。

見えはしないものの、風切り音で場所は掴めている。その為初撃の不意打ちに対応出来たのだ。ホルザレは冷静に翼から鋭い羽を射出し、背後から迫る矢を撃ち落とす。


全て撃ち落とす事で、追撃が止む。諦めたのか。否。

今までの矢とは比べ物にならない速度と威力を持ってして飛来する矢をホルザレは視認した。

空気を裂く悲鳴とともに迫る必殺の矢。羽では防げない。それをホルザレは知っていた。


「ーーー舐めんなァッ!」


極限の集中。意のままに正確無比に動く翼をもって、矢へと、その僅か先端に一本の翼の切っ先を高速で向かわせる。


ギャリギャリギャリギャリーーー!


翼で矢の先端部を一瞬の誤差も許さぬタイミングで撫でるように当て、矢の進行方向をズラす。鳴り響く甲高い金属音。翼を削りながら矢は一瞬で遥か彼方へと消えていった。


翼の損傷を確認すらせずにホルザレは全速力で離脱する。流石に今の威力の矢を連発は出来ないらしく、追撃はなかった。

ドルヴェンド帝国の領地へと飛翔しながら、ようやく安全圏まできたと分かると安堵の溜息をつく。


「ハァ〜、ったくよォ。本当に勘弁して欲しいぜェ」

「お疲れホルザレ。流石はホルザレ。いや〜、惚れちまうね〜」

「落とすぞ気持ちわりィ」

「え〜、めっちゃ感謝してるのに〜。で〜? 今のってやっぱ?」


スピードを緩めた飛行の為か、翼で頭をかくという器用な事をしながら、嫌々そうにホルザレが答える。


「あァ。てかお前とオルフェアイの探知をかいくぐれて、聖属性の矢を放つっつったらよォ、アイツしかいねェわなァ」

「七王剣の‥‥‥名前何だっけ? 興味無さ過ぎて覚えてないよ」


ケラケラと笑うヴァインドラに呆れつつも律儀に教えてやる。


「聖弓使いのジュディエムだなァ。お荷物抱えて相手は出来ねェ」

「お荷物? 何の事かな〜」


無視して、分かりきっている答えにそれでもホルザレは首を傾げた。


「だがよォ、アイツ、確か味方に処刑されなかったかァ?」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ