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Dark Brides −斯くて魔王は再誕せり−  作者: 入観ねいと
第3章 森の精霊と獄㷔の悪魔
22/100

#22


カドレの森から北西、魔族が統治するジャブラの城。

主であったノイノラが不在のその城を、我が物顔でくつろぎ勝手振る舞う者がいた。


「ちょっとちょっと! お酒もう無いの? しけてるなぁ、殺されたいの?」


外界が一望できる城の展望台で、控えるゴブリンたちに喚き散らす。人間の子供と同じくらいの見た目だが、皮膚は青く、額から突き出た角が、この少年を人外の者だと判断できる。

左目を覆う眼帯にはなぜか大小三個の目玉が埋め込まれており、それぞれがギョロギョロと忙しなく視線を動かしていた。


「今いいとこなんだからさぁ、盛り上がりのクライマックスな訳。分かる? 分ったならさっさと酒持ってきてよ。十秒あげるから。ほら、いーち、にーい」


慌てた様子で走る、城の警備を任されているゴブリンたち。だが無情にも傍若無人な魔族の気まぐれな暴力が襲う。


「さーん、とんでじゅー! はい死刑! バンバンバン!」


人差し指を向ける。ただそれだけで魔力の込められた弾がゴブリンを容赦なく穿ち、絶命させる。


「つっかえないなー。ノイノラと同じく部下も全く使えないなー」

「ハァ‥‥‥ほんとてめェは頭のネジが飛んでやがるなァ、ヴァインドラ」


やれやれと、非道な行いを止めはせず、首を振って悪趣味さを指摘するのはこれまた魔族の者。

ヴァインドラと呼んだ少年とは距離を置いた壁に背をつくその姿。羽こそ生えてないが、人と大鷲を合わせたかのような外見だ。鋭い猛禽類の目には呆れが伺える。彼にもやはり額には角がある。


「え〜? そうかな〜? 今めっちゃいいとこだよ? ガルドアのクソジジイが人間相手に本気出しちゃておかしいのなんのって。あれ? ホルザレってお酒飲めない感じだっけ?」

「飲めるがよォ、俺は一人でゆっくり飲むのが好きなんだよ。つか、俺っちはてめェみたいに目がよくねェからこっから見える訳ねェっての」

「つれないな〜。おっ、お〜〜〜! やった! ギャハハハ! 見てよホルザレ! ガルドアのやつ角折られてんやがんの! 傑作だよ!」

「何だとォ?」


ホルザレは信じられないと眉根を寄せ、壁から背を離す。やはりどうあがいても遠すぎて見えはしないが、激闘が行われているカドレの森の方角へ目を向けた。


「あの獄焔の、角を折っただァ? お前酔ってんじゃねェのか?」

「ひっど〜い、信用ないなぁボク。ほんとだよね、オルフェアイちゃん?」

「ええ、こちらも確認できました。ガルドア殿の敗北ですね」


フラフラと動くヴァインドラの傍らに浮かぶ一つの眼球からそう答えが返ってくる。ようやくホルザレは事実として受け入れ、嫌な顔をした。


「オイオイ、オルフェアイよォ。任務の内容は確か、ガルドアの旦那の排除と、先代魔王の遺産の回収だったよなァ? ガルドアは角が折られたってんなら自然消滅するだろうが、俺っちはヤだぜ? 獄焔をやれる奴なんかと相手なんざしたくはない」

「確かに、荷が重いですね。特にヴァインドラを運ぶという役目もありますし、ここは撤退しましょう」

「ちょ⁈ ハァァァァァア⁈ 何言ってんの⁈ 撤退⁈ そんなの許さないよボクは! 六輝将の誇りとかないわけ?」


手に持った酒瓶を放り出す。パリン、と中身のないガラスが砕け大仰に手を広げるヴァインドラが熱弁する。


「一番誇りとか似合わない言葉をてめェが使うなアホ。ガルドアの旦那にサシで勝てるヤツに下準備無しで戦いを挑むなんざァ自殺志願者だろ」

「だめだめだめ! そんなの知らない! ボクは、ここで溜めに溜め込んだデカイ一発を! ぶちかませるって聞いたから来てるの! もう我慢の我慢の限界なの! 暴発寸前五秒前なの! ここでお預けなんて許されないよ!」

「結局ソレじゃねェか‥‥‥いやァ、ガルドアは勝手に消えるしよォ、もう打つ必要なくね?」

「そんなの知らない! だったら消える前にボクの一発でイかせてやる! ついでにあのクソ生意気な精霊の森も吹き飛ばしてやる!」


オイオイ、どうすんのよコレとばかりに浮かぶ眼球に視線を向ける。しばしの沈黙の後、オルフェアイが指示を下す。


「バドゥーク様に確認を取りました。ヴァインドラとの約束は守る。魔装を解放、ガルドアとカドレの森へ放ち、ホルザレと共に即時帰還せよ、との事です」

「シャァァアッ!」


高々と上げられる両腕。嬉々とするヴァインドラに対し、ホルザレはうんざり気味に溜息をついた。


「オイオイ、遺産まで壊しちまうんじゃねェ? いいのかいオルフェアイ」

「はい、手に入らぬなら誰の手にも渡らぬよう破壊しても構わないとの事です」

「あっそォ」

「いや〜、何年ぶりかな? 前に獣人族の街をイかせたのが最後だから三年? 長い長いよ不能になっちゃうとこだったよ! やっぱ定期的にぶっ放さないとね、ホルザレ!」

「知らねェよマジ。ハァ‥‥なんで俺っちはいつもこんな役回りなんだろなァ‥‥‥貧乏クジもいいとこだぜェ」


そんなホルザレには目もくれず、クルクルとその場で踊るヴァインドラの宣言が上げられた。


「さあさあさあ! ヴァインドラ様のヴァインドラ様によるヴァインドラ様の為の演目、開演だ! 《魔装顕現》!」


ニチャァ、と空気が粘性を帯びる。ヴァインドラを中心に魔力の奔流が渦巻き、形を成す。


「《腐敗の骸神》!」


帝国随一の破壊力を持つ、ヴァインドラの魔装。破壊の化身たる骸の巨人。顕現しただけで、あまりの大きさに城の外壁が紙屑のように崩される。骨には腐った肉片が垂れ下がり、空いた眼孔から覗く紫炎が下界を見下ろす。

その巨躯だけでも強大な力を振るい、有象無象を蹴散らせるが、ヴァインドラが使いたいのはソレではない。


「ん〜でもってぇ! 《魔装覚醒》!」


ーーー発動するは《略奪の怨念》。


《腐敗の骸神》の覚醒能力。それは範囲内での生命力の強制徴収。


「ギィィ⁈」

「ガバァッ!」

「グッ‥‥」


城内の至る場所から苦悶の叫びが一斉に上がる。生命力を根こそぎ奪われているのだから当然だ。

同格以上の者、例えばホルザレは平気であるが、城内に住まうゴブリン達はその能力により命を奪われ次々と死に至る。


「あ〜! キてる! キてるキてるキてるよ〜!もうボクの砲身がパンパンに破裂しそうなくらいキちゃってるよ!」


ジャブラの城を文字通り壊滅させ、下準備は揃った。奪い取った膨大なエネルギーが、《腐敗の骸神》によって圧縮され、閉じ込められる。

骸の巨人の口内に、眩い光が生み出される。今にも爆発してしまいそうな、圧倒的な輝き。


「あ〜〜〜、あ〜〜〜ッ! イっちゃう! ボク! もう! イっちうイっちゃうイっちゃうイクイクイク〜〜〜ッ!」


自らの魂でもある魔装に込められたエネルギーに身をよじらせ、恍惚の表情を現すヴァインドラから、ついに、放たれる。


これが帝国最強最大魔装兵器。一瞬の威力で並ぶ者はいないとされる、破壊の一撃。


「ァァァァァァァァァァアアアアア!


《堕落墜星・骸神崩魂》ーーーーー!」


砲身となる《腐敗の骸神》すら耐えきれず、粉々に砕け散りながら放たれた凶星は、狙い違わずガルドアへ。そして背後にあるカドレの森へと墜落を始めた。

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