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Dark Brides −斯くて魔王は再誕せり−  作者: 入観ねいと
第2章 嘆きの産声
12/100

#12


馬車の中へとマナを閉じ込め、未だに帰ってこない部下へノイノラは苛立ちを感じていた。


「これは仕置きですねぇ。このまま捨て置く訳にもいきませんし、処分しましょう」


それほど間を空けず、森の方からガサガサとこちらに向かう気配。それに対してノイノラは少し瞳を細めた。


「ふむ、おかしいですねぇ」


気配は一つ。向かってきてはいるが、なんとも弱々しい。それに血の匂い。手負いの獣か、いやそれならばこちらに来るのはおかしい。それとも、判断も出来ぬ程弱り切っているのか。

その気配の主を測りかねていると、遂に森の中から姿を現した。


「‥‥‥はぁ。何ですかねぇ、コレは」

「‥‥‥‥‥‥」

「人間? こんな辺境の森に? しかしなんとまぁ、死にかけじゃあないですか」


劣等種が、それも単体で、何もせずとも死にそうな状態で自分の前に現れた。脅威には感じずとも困惑はある。


「お前、か‥‥‥」

「ん?」


見たこともない人間に明らかな敵意、いや殺意を向けられる。自分を見てそのようなモノを抱けるとは。少し興味が湧いた。


「何処かでお会いしたことでも? 記憶にありませんねぇ」

「ウワァァァァァァアッーーー!」


こちらの質問に答えず、獣のように吠え向かってくる。しかし、動きは遅く欠伸が出そうだ。

武器は、右手に持つ短剣のみ。それをこちらへと振りかぶる。


「おや?」

「ーーーッ⁈」

「ああ、なるほど。ゴブリンの短剣ですねぇ。あなたが彼等を殺してくれたのですか」


マジマジと右手ごと奪った短剣を眺める。装飾も何もない無骨なこれは確かに部下だった者の持っていたものだ。


「あ、ああぁァァァァッ!」

「これは感謝しないと。代わりにワタシがしなければいけなかった仕事をしていただいたのですから」


手首のあった位置から吹き出す血。左腕は動かないのか、胸で抑え絶叫する。

その光景にはたと思い出した。


「ああ! そうですか、君は獣人族の仲間でしたか。だからゴブリンを倒し、さらにはワタシへ仇討ちをしようと!」


なんと、おかしい。彼我との戦力差すら分からず戦いを挑むなど。

いや、と痛みに呻きながらもこちらを睨み付ける瞳を見て考え直す。


「違いますねぇ。確かに、ワタシが憎くて憎くてたまらないのでしょうが‥‥‥」


近寄り、見下ろす。見上げる瞳に感じるもの。


「アナタ、もう生きる気がないですね?」


それは諦め。この生き物には、生きるという気力が全くない。


「ワタシに、殺されに来たのでしょう? 可愛そうに。仲間を失ったのがそんなにも辛かったのでしょうねぇ。喜びなさい? あの獣人族の娘も、アナタと同じく右腕を切り飛ばしてあげたら泣き喚いて、そして命を諦めましたからねぇ」


それを聞くと、項垂れ、まるで切り落として欲しそうに首を捧げてきた。


「放っておいても死にますが、楽になるのがお望みで。いいでしょう、ワタシは慈悲深いので」


ーーー殺してあげましょう。それはそれは苦しめて。


「《魔装顕現》」


それは魔族にのみ許された、己の魂を現実に映し武器とする奥義。


「《双蛇の絞刃》」


手に顕現するは、うねり曲がる二本の刃が蛇のように絡まり合う毒々しい剣であった。


「本来なら人間如きに使う程安いモノではないのですが、コレには面白い力がありましてねぇ。刺すと瞬間で全身に致死性の毒を巡らせるんですが、この毒が秀逸でしてね。致死性とうたう割に死に至るまで長い時間がかかるんですよ」


双蛇の絞刃が持つ毒は刺されれば必死。だが、毒は即死には至らせず、ゆっくりと対象を蝕み、気絶すら許さぬ激痛をたっぷりと味わせるという、ノイノラの嗜虐心を文字通り武器として顕現させたものであった。


「さあ、望み通りの死をあげましょう。代金はアナタの苦しみ叫び、醜く這いずり回る姿としましょうか」


胸へと狙いをつけ、刺し込む為に一度腕を引く。

魔装を顕現させた高揚感か、はたまた嗜虐心唆る獲物を前にしたからか。

ノイノラは背後から飛び出す気配に気づけなかった。気付けぬまま、刃を刺し出した。


「ーーーひ、姫様ッ⁈」


刃は、庇うように立ち塞がったマナの背中を貫き、そのままシグの胸へと突き刺さった。

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