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君と私とコーヒー

作者: ぶちハイエナ
掲載日:2018/02/16

 短いですが恋愛ものに挑戦してみました。

 これは恋愛ではないと思われたら申し訳ありません。

 季節は春になろうとしている。

 それでも朝はまだ寒く、布団から出るには少し勇気のいる季節だ。

 今日は仕事も休みな事もあって、昨日は目的もないのに遅くまでパソコンの前に座ってネットの海を泳いでいた。

 休みだというのに携帯電話からはいつもの起床時間を知らせるアラームが鳴り響く。

 こんなことならアラームを切っておけばよかったと、布団から出るとその音を止める。

 2度寝をしようかと考えたが、せっかくの休みなのに勿体ないかと思い直し、ベッドに腰をかける。

 眠たいせいで頭が働かない。ふと広告動画で流れた缶コーヒーを思い出す。

 コーヒーでも飲めば頭も冴えるかと思い、ジーパンに履き替え、薄手のコートを羽織ると狭い部屋を出る。

 部屋を出てすぐに後悔した。朝の冷たき空気が体を包み、それだけで眠気も覚めてしまいそうだ。

 せっかく部屋を出たのだからコーヒーを飲みたいと、変な意地を張って自分の住んでいる老朽化の進むアパートの近くにある自動販売機に向かう。


 自動販売機はアパートの近くの酒屋の前に置かれていた。

 今時酒屋なんて儲かるのだろうかと疑問に思うが、様々な種類の酒のチラシが貼られているのを見ると需要があるのだと思わされた。

 自動販売機の前に着くとポケットに入れておいた小銭を投入しどのコーヒーにするか考える。

 様々な種類が置かれていたが、正直コーヒーの違いなど甘いか苦いかくらいしか分からない。

 眠気を覚ますためにも無糖にするかと考えたが、自然と指は微糖のボタンを押していた。

 誰もいないのだから格好を付けて無糖を飲む必要もないと無意識に体が思ったのかもしれない。

 家に帰ろうとしたが、酒屋の前に置かれたベンチが目に入ったのでそこに座る。

 コーヒーを飲むのに時間もかからないし、ここで飲んでしまえば缶を捨てて帰れるという簡単な理由だった。

 コーヒーを飲みながら意味もなく辺りを見回す。まだ寒いというのに花を咲かそうと蕾を付けている草を見つける。

 草の名前なんてもちろん分からない。普段なら見向きもしないようなその光景をただ眺めていた。


 誰かが歩いて来る音がして目を向ける。その目は一瞬にして奪われた。

 君は、スーツを着て寒そうに歩いている。成人を一回り前後過ぎたであろうその顔からは何故か幼さが感じられた。

 寒そうに手袋をした手をこすり合わせる仕草がその幼さを際立てた。

 極めて美しいというわけではない君に何故か私の胸が温もりに包まれる。

「おはようございます」

 見つめていた私に気付いたのだろう、その顔に笑みを浮かべて挨拶をしてくる。

 笑うと余計にその幼さは強調され、歳を感じさせない魅力があった。

「お、おはよう……ございます」

 そう返すのがやっとだった。

 私より年上だと思うが、その事に自信を持てず言葉までおかしくなる。 

 そんな私に気にした様子もなく君は通り過ぎて行った。

 そんな君が見えなくなると、ぬるくなったコーヒーを一気に飲み干し缶を捨てる。

 この時間にまた会えるだろうか、そんな事を考えながら部屋へと帰った。


 次の日から休みの朝は酒屋の前の自動販売機でコーヒーを買って、ベンチで君を待つという怪しい行動が始まった。

 頭の隅にストーカーという言葉が浮かんだが、朝に挨拶をするだけなので問題はないと自分に言い聞かせる。

 君は私が休みの土日は大体同じ時間にこの酒屋の前を通った。

 3度目の出会いの時に変化は起きた。いつものように挨拶を交わした後に君は立ち止まる。

「最近ここでコーヒーを飲んでますね」

 挨拶以外で始めて聞く君の声だった。

 挨拶でどんな声かは知っていたが、その声で他の言葉をつづられるとまるで違って聞こえた。

 その言葉はただの挨拶ではなく、私に向けた言葉なのだ。

「え、ええ。最近このコーヒーにはまってしまって」

 そう言って君にコーヒーの缶を見せる。

「それCMでもよく流れてますよね。私もたまに飲みますよ」

 君はその缶を見るとそう言って微笑んだ。

「そうなんですか?」

「はい。でも甘くないと飲めませんけど」

 その視線は私が持っている缶に向けられたままで、どうやら微糖の表示を見ているようだ。

「時間大丈夫なんですか?」

 もう少し話したいという気持ちはあったが、私と話していたせいで遅刻してしまっては申し訳ないと思い確認する。

 君は袖を少しずらすと腕時計を見た。

「あ、いけない。それでは失礼します」

 私にそう言って軽く会釈をすると君は慌てて私の前からいなくなった。

 君と話せた事に小さな幸せを感じると持っていた缶を捨てようとベンチから腰をあげる。

 立ち上がった私の目に以前蕾を付けていた草に花が咲いているのが映る。

 花の名前は知らないが、そんな小さな光景にも喜びを覚えた。


 5度目に君と出会った時、勇気を振り絞って食事の誘いをした。

 君は何も言わずに手にはめていた手袋を外して左手を見せる。その手には誰かを愛する事を誓った証があった。

 そんな私に君は申し訳なさそうな顔をすると、自動販売機でいつも私が飲んでいたコーヒーを買う。

「よければご馳走させてください」

 そのコーヒーを私に渡すと君も同じコーヒーを飲む。

「少し苦いですね」

 その言葉はコーヒーの味か、この状況を言っているか分からない。

 君の横顔を見ていると、たとえ誰かのものだとしても諦める必要はないのではないかという思いが胸にぎった。

「今幸せですか?」

 そんな私の気持ちとは裏腹に自然とその言葉が口から漏れた。

「はい、幸せです」

 私の言葉を聞いて君は今までで一番の笑顔を私に向けた。私にその笑顔を壊してまでこの気持ちを押し付ける覚悟はなかった。

「よかったです。……やっぱり苦いですね」

 コーヒーの缶を君に見せながらそう言う。

「いつも飲んでいたので好きなのかと思いました」

 少し驚いたよう顔を君が私に見せる。

「ええ、好きでしたよ。でもなんだか苦く感じてしまいました」

 そう言って君に今出来る精一杯の笑顔を向ける。

「そういうこともあるかもしれませんね」

 君は私にそう言って優しく微笑むと、時間がないのでと言って去っていった。

 君が去った後に私の目にあの草が見えた。その草は咲いていた花を私を皮肉るように散らしていた。

 その光景を見て私は苦笑すると持っていた缶を捨て、もう一度自動販売機の前に立つと今度は違うコーヒーを買う。

 そのコーヒーは私の気持ちと違ってとても甘かった。

 私が男性なのか女性なのか、君が男性なのか女性なのかそれは読者様のご想像にお任せします。

 色々と想像して頂けるようように書いたつもりですが、私の技術力不足で想像できなかった場合は申し訳ありません。

 

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