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ごめん、僕のせいだね

 白魔術師ロラ・カントルーヴの名を世に知らしめた事件から、四年の月日が流れた。

 カントルーヴ家の長ドロテは、自分の跡継ぎとなる薬師を育て上げ、その薬師とひ孫との結婚を見届けて後、半年前に満足そうな微笑みを浮かべてこの世を去った。

 白魔術師一族の長の座はロラが継いだ。そしてデューは薬師の職を引き継いだ。

「はい、これ」

 調薬をしているデューの前に、頼まれた二つの瓶を置くと、ロラは彼の隣に座った。

「熱冷ましを、作っているのかしら?」

「ああ。クリストフ様がお風邪らしいよ」

「まぁ、それはジェレミー様も心配ね」

 あの事件後ほどなくして、若き領主は呪いの解けた幼馴染とめでたく結ばれた。クリストフは二人の間に生まれた子どもで、もう一歳半になる。

「ふあぁぁぁぁー。なんだか、眠いわ」

 ロラが大あくびをすると、デューが作業の手を止めてちらりと視線を向けた。

「寝不足かい? 昨晩、夜更かしなんて……」

 途中まで言いかけて、彼が「ん?」と首をひねる。

「ああ、そうか。ごめん、僕のせいだね。僕が君を寝かせなかったから……」

 冗談めかしてならまだしも、大真面目な顔でこんなことを言われると、逆に恥ずかしくてしょうがない。ロラは真っ赤になって反論する。

「ち……違うわよ。そんなんじゃないわ。きっと……春だから眠いのよ。最近、ずっとそんな感じだもの」

 もう一度あくびをして、作業台にこてんと身体を伏せると、優しい手がゆっくりと頭を撫でてくれた。

「しばらく休んでるといいよ。今は手伝いは必要ないから」

 そう言って作業に戻る彼の顔を、ロラは寝たふりをしながらこっそり盗み見た。

 乳鉢で薬をすり混ぜている彼の、真剣な淡い青の瞳。綺麗に整った横顔には、銀色の長めの髪がはらりとかかっている。

 すてき……。

 夢心地で見つめていると、彼は瓶に入っていた細かな薬草の種を、匙ですくって乳鉢に入れた。種をごりごりとすり潰す音が聞こえてきて、独特の薬の臭いが鼻をつく。

「——!」

 突然、胃を逆流するものを感じ、ロラは慌てて口を押さえて椅子を立った。

「ロラ! どうしんだ?」

 なんとか水場まで走り、胃の中のものをすっかり吐き出すと、血相を変えて追いかけてきたデューが背中をさすってくれた。

「大丈夫かい? ほら、これで口をすすいで」

 手渡された水で口をすすいで、一息つく。

「もぉ、やだ。今朝、何か変なものを食べたっけ? デューは平気?」

「僕は大丈夫だけど……。君、もしかして?」

 まだ涙目の青白い顔をデューに向けると、彼は片手で口元を覆い、信じられないものでも見るように目を大きく見開いていた。

「どうしたの? そんな顔して」

「……やっぱり、僕のせいだよ。それ」

 そう震える声で言われても、何のことだか分からない。きょとんとしていると、彼にいきなり抱きしめられた。それから、額に頬に鼻先に、口づけの嵐に見舞われる。

 彼は最後に耳元に唇を寄せ、万感の思いを込めてこう言った。

「僕らの……子ども」

「え?」

 ああ、そうか……。

「デューの……あたしたちの、新しい家族ができるのね」

 喜びに胸がじんわりと熱くなる。

 過去を全て捨て去った彼に、血のつながった家族を持たせてあげられる。自分にしかできないそれが、何より嬉しい。

 ロラは両腕を彼の首に回すと、幸せに緩む頬に口づけを返した。



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