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何かあったのかい? いやに静かじゃないか

 話は少し遡る。

 ロラとノエルがデューの元へ向かった翌日の午後、ロラの父マルクが、領主ジェレミーを伴ってカントルーヴ家に戻ってきた。

 玄関先に馬をつなぎ、中庭に回り込むが、家人は誰一人見当たらない。いつも聞こえる賑やかな声もなく、家全体がひっそりと静まり返っている。

「今、帰ったよ」

 食堂の裏口から声をかけると、テーブルの上で野菜を選別していた妻のリアーヌが、はっと顔を上げた。十日以上も留守にしていたせいか、妻は大きな安堵の表情を浮かべた。

「まぁ、あなた。お帰りなさい」

「ジェレミー様をお連れしたよ。何かあったのかい? いやに静かじゃないか」

 食堂には妻と、作業を手伝っていた弟子のニノン以外に、誰もいなかった。

「あなたのいない間に、いろいろとあって……。もう、何から話していいか分からないわ。ばあさまにお聞きになった方が……」

「そうか。私も報告しなきゃならないことがある。ばあさまは?」

「今、お呼びします。ニノン、お茶の準備をお願いするわ」

 ばたばたと食堂を出て行ったリアーヌが、しばらくしてドロテと一緒に戻ってきた。

 ローズマリーのお茶がテーブルに並べられ、それぞれが椅子に座った。

「ばあさま、一体何があったのですか? 皆はどこへ行っているのです?」

「アンヌたち親子とヴィオは、市まで買い物に出ておるよ。他の者達は……仕事じゃ」

「仕事? ロラまでいないのなら、よほど重要な仕事ではないですか?」

「まぁ……そうじゃな。話せば長くなる。ジェレミーが来ておるのなら、先にお前の話を聞こうかの」

 長の歯切れの悪さが気にかかったが、促されたマルクは、自分の報告を先に始めた。

 マルクは二人の弟子とともに、ローズモンドと婚約したフランヴィル侯爵の子息と、その周辺を探っていた。彼女と彼女の両親が悪魔の呪いに捕われていたことから、黒魔術師が絡んでいると睨んでいた。

「残念ながら、フランヴィル侯爵家では魔術を行った形跡は、感じ取れませんでした。ただ、侯爵領で若い女性が行方不明になる事件が多発していて、侯爵が裏で女性を買い取っているなどという噂まで流れていたのが気になって、調べてみたのです」

 若い女性が行方不明になるときは、黒魔術がからんでいることが多い。侯爵家で魔術が行われていなくても、一枚噛んでいる可能性は高い。

「侯爵家を見張っていると、確かに、窓を塞いだ怪しい馬車が出入りしていました。そこで、その一台の後をつけたのですが、その馬車は、コデルリエ公爵の城に入って……」

 がちゃん。

 何かが割れる音がした。マルクが音の方向に目を向けると、妻がティーカップを床に落とし、真っ青な顔で震えている。

「リアーヌ、大丈夫か?」

「今、コデルリエ公爵と言うたか?」

 妻の元に駆け寄ろうとしたマルクは、長の重々しい問いかけに振り返った。

「公爵をご存知なのですか?」

「お前の子ども達は昨日、そこへ向かったのじゃよ。ついでに言えば、デューとジブリル、マテオは、既にコデルリエの元におる」

「なんだって! どういうことですか、それは!」

 不気味な一致に、マルクも顔色を失くした。

「どうやらわしも、のんびり隠居を決め込んでおる場合ではなさそうじゃ」

 ドロテが、白魔術師一族の長の威厳たっぷりに、ゆっくりと立ち上がった。

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