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なるほど、それは面白い

 そういうことか。

 きっとこの悪魔は、父上にも同じようなことを言ってたぶらかしたのだ。魔王を召還し使役すれば、世界を手中に納めることができるのだと。

 魔界を統べるほど強大な力を持つ魔王を使役できれば、何もかもが思いのままだろう。それは嘘ではない。しかし実際には、召還はできても、使役はできないのだ。ベリトはそれを分かっているから、召還を果たすまでという条件で契約を結んだ。その先のことは何一つ保証せずに。

「なるほど、それは面白い」

 ベリトはデューに対しても「魔王を支配すれば良い」と言っているのであって、「魔王を支配できる」とは言っていないのだ。

「そうでしょう?」

 悪魔の金色の瞳が妖しく光った。不気味に歪んだ笑みを浮かべ、親しげな様子でいそいそと近づいてくる。

「だが」

 デューがぎらりと睨むと、悪魔はその場に凍り付いたように動けなくなる。

「俺に魔王は支配できない。たかが人間の器が、魔王に勝るはずがない。たとえ適合する器にまで育ったとしても、魔王に成り代わられるだけだ。魔王が召還された時、この世のすべてを手にするのは、俺ではなく魔王だ! お前は、俺を陥れようとしている!」

「ま、待ってください。私は……ぐ、ぐはっ!」

 ベリトが胸を押さえ、身体を二つに折った。その身体が宙に浮き、四肢があり得ない方向に曲がっていく。全身の骨が砕け、断続的に鈍い音を立てる。書き損じた手紙を丸めるように、ひとまとめにされた悪魔は、圧倒的な力でさらに小さく圧縮されていく。

『貴様を……呪って……や……る』

 デューの頭の中に恐ろしい捨て台詞が聞こえた直後、既に林檎ぐらいの大きさで宙に浮かんでいた悪魔は、一気に小さくなって消滅した。

 身体の中の悪魔の器に、禍々しい石ころが、ことりと落ちた気がした。

「俺を欺くなと言ったはずだ」

 そう吐き捨てると、デューはがっくりと床に膝をついた。

 ロラは大天使の聖なる力を借りて、悪魔祓いを行う白魔術師。なのに、自分は器の力で悪魔を捻り潰し、自分の身の内に閉じ込める。

 なんておぞましい存在だろう。

「ロラ……」

 愛しいひとの名を呟いて、それきり口をつぐむ。自分が名を口にするだけで、彼女を穢してしまう気がした。

 思い返せば、デューという男は、自分でもあきれるほど純粋で真っすぐだった。きっと、憎悪や怨念などという醜い感情も、記憶とともに消されていただけなのだろう。

 今、ここに無様に這いつくばっているのはフェリクス・ジル・ヴァンタール。黒魔術師達に人生を弄ばれ、いいように利用されてきた穢れ切った男だ。

 あのデューは、もう、この世に存在しない。

 いや、もともと幻だったのだ。

 両手を痛いほどに握りしめたデューの耳に、廊下を急ぐ複数の足音が聞こえてきた。

「フェリクス!」

 乱暴に開かれた扉の向こうに、三人の人影があった。デューの父親のコデルリエ公爵と、継母のエドウィーナ、その娘リュシエンヌ。後ろには、数人の衛兵の姿もあった。

「父上。お久しぶりです」

 デューはゆっくり立ち上がるとすっと背筋を伸ばし、見下すように父親を見た。

 これまでと全く違う、ぞっとするほどの迫力を醸す息子の様子に、父親はごくりと唾を飲んだ。

「あ……あぁ……。気分はどうだ」

「最高ですよ。まるで、生まれ変わったようだ」

「ベリトはどうしたの?」

 この三人の中で、黒魔術師としての能力がいちばん高いエドウィーナが、彼に取り憑いているはずの悪魔の姿が視えないことを問いただした。

 デューは継母を横目でちらりと見ると、ふっと笑う。

「あんな目障りな虫けら、俺が握りつぶしてやりました」

「まさか! 悪魔を握りつぶしたですって?」

 呆然とする魔術師達を尻目に、デューは足音を響かせ、悠然と窓に向かって歩いていく。

「ははは。俺は魔王サタンの器なのですよ。それくらい雑作もない」

「お前、その話を誰から聞いた」

「ふ……。ベリトがあっさり口を割ったのです。正直、最初は父上達に腹が立ちましたよ。でも、考え直しました。ここまで穢れたのなら、いっそ、極めてしまえばいいってね」

 逆光に振り返ったデューは、うっとりと言葉を続ける。

「ねえ、父上。悪魔になるって、どういう気分なのでしょうね」

 銀色に縁取られた両手を広げた影が、にやりと笑った。


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