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お前ではダメじゃ

 食事場所が食堂から庭に移っても、ロラは早朝から忙しく働いていた。

「ああ……お腹すいた」

 いつもなら、朝食の準備を手伝いながら、何かしらつまみ食いするのだが、今日は水を口にしただけだ。ついさっき、エヴィリエ城から、普段食べられないようなふかふかのパンと、新鮮な果物が大量に差し入れされた。パンのかごに近づくと、香ばしい香りが漂ってくる。ロラはその誘惑を振り払おうと、勢いよく頭を左右に大きく振った。

 やがて母屋の奥や離れから、次々と家族たちが庭に出てきて、急に忙しくなった。スープ皿やパンを配りながら、庭に置かれたテーブルやベンチ、芝生に敷いた敷物の間を飛び回っているうちに、空腹感は忘れていた。

 一通りの仕事を終え、ロラがようやく落ち着くと、それを待っていたかのように、ドロテが席を立った。そして、すたすたと全員が見渡せる場所に出て行くと、大げさな咳払いをした。

 全員が食事の手を止めて、一族の長に注目する。

「本日より、ロラが大天使の召還を試みる」

 長がしわがれた声を張り上げると、魔術師達が一斉にどよめいた。

 ドロテが、かつて召還に成功したという話は、一族の誰一人、本気で信じてはいなかった。大天使の召還は人間には不可能とされており、それゆえ魔術師達の永遠の夢なのだ。それにロラが挑戦するというのだから、驚くのは当然だった。

 しかしその驚きは、すぐに、大きな期待へと変わっていく。

「俺が、補助をする!」

 ベンチで食事を摂っていたノエルが、興奮した顔で勢い良く立ち上がった。鼻息も荒く、手には大きなパンを鷲掴みしたままだ。

「お前ではダメじゃ」

 しかしドロテは、彼にちらりと目を向けると、あっさり切り捨てた。

 そのことに、また、他の魔術師がざわめいた。彼はカントルーヴ家の直系で、実力も充分にある。そして、召還者であるロラの兄だ。誰もがノエルを適任だと思っていた。

 それは、本人も当然思っていることだったから、納得がいかない。

「なんでだよ! 俺じゃ力が足りないっていうのかよ。昨日失敗したのを、まだ怒ってるのか? ばあさま!」

「そうではない。ロラは、デューが悪魔の器かどうかを見極めてもらうために、そしてもしそうなら、どう対処すれば良いか教えを請うために、大天使を召還するのじゃ。そういう目的では、お前は神殿の気を乱してしまうだけじゃ!」

 天敵とも思う名を聞いて、ノエルは同じベンチの一番端に座っていたデューを思わず睨みつけた。直後に、長の言葉を実感して、ぷいっと顔を背ける。

 周囲の者達は、やれやれといった風に大きく息を吐いた。

「誰かを補助につけるとすれば、そうじゃのぉ……」

 一族の長が辺りをゆっくりと見回した。その視線は、ロラと同じ敷物の上に座っている人物に、ぴたりと止まる。

「レミ。お前じゃ」

「えっ? ボク?」

 まさか自分の名が呼ばれるとは思っていなかった少年が、驚きのあまり、手に持っていたスープ皿を落とした。スープが飛び散り、刻んだ野菜が膝や敷物にぶちまけられる。

「そうじゃ。お前なら純粋な気持ちで、ロラを手伝えるじゃろう。それに、良い勉強になる。どうじゃ、頑張れるか?」

「……うんっ! 頑張る!」

 少年は自分のズボンがスープまみれになっているのも気付かない様子で、嬉しそうに丸い瞳を輝かせた。

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