三大噺「贅肉・ナルシスト・快適」
「快適な空間」とは如何にあるべきか、技術が日進「月」歩する今日においてそれは良し悪しの拮抗したテーマである。建設会社に勤める私は今まさにこの課題に直面していた。今回の依頼は新たなモデルハウスのデザインであるが、求められるテーマはまさにその「快適」である。しかし、スポンサー企業の従業員は皆一様に肥満体系なのである。宣伝要員の受付嬢でさえも華奢とは縁遠い体型である。つまり、如何に肥満という負の面を以てして世間に「快適」をアピールするかが問題だ。会議室で一人浮遊感に包まれながらも難題はまだ続く、それは「出来るだけ身体を動かす必要」や「昇降設備」の不要をも注文に入っている。「我々は泳ぐが如く、動けますので」と彼らは口をそろえて言う。あの贅肉持ちが素早く生活する想像が出来ないが、時代が時代なのかもしれない。そろそろプレゼンの時間が近い。今日もこうして現地に赴いているがやはり、慣れるものではなく体だけでなく心までふわふわとしてしまう。ここは歩くことすら難しい。なるほど、彼らほどの質量ならこと移動についてはナルシストにもなるかもしれない。いかん、いかん、気が沈んでいるようだ。ここは光も当たらない異境の地であることはわかっているが太陽を直接拝めないというのも結構こたえるものだ。気分転換に廊下を散策する。外の景色は変わらずに黒一色であり、無機質な灰色の大地が寒々しく映っていた。途中、廊下に柳を模したオブジェクトが飾られていた。季節感が感じられないここならではの催しである。しかし、生きているうちに十五夜をここで過ごすことになるとは考えもしなかったが、そう思うと感慨深い。おや、のんびりしては時間に遅れてしまう。私は急いで資料を書き上げる。題目は「月面マンション」が妥当だろう。




