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大陸戦乱末の英雄伝説  作者: 楊泰隆Jr.
雄飛編
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ガンルレック要塞攻防戦一日目②~要塞司令官シュタット~

 リテリューン皇国が動く少し前、シュタットのいる南門作戦本部。

「先ほどカタイン将軍の元へ伝令を向かわせました。カタイン将軍が戻ってくれば、我らの勝利は揺るぎないでしょう」

 シュタットの副官、ハウセンは興奮気味に言った。

「無事、伝令がカタイン将軍の元へたどり着ければの話だな」

 シュタットは冷静と無関心の中間辺りの声で言う。

「念のため、別の道で五組、向かわせました。心配することはないでしょう」

 ハウセンの言葉に力がこもった。司令官に自分の熱が少しでも伝わればいいと思った。

「ハウセン、もしこの戦いを生き残ることが出来たら、覚えておくと言い。英雄は我々には真似できないことを当然のようにやるということを。ラングラムが我らに感知されずに動けたのは、恐ろしいことだ。そんなことをやってのけた英雄、まぁ、ラングラムには奸雄という言葉が最もふさわしいが、そやつが、この要塞に姿を現した。それは勝ちを確信したからに他ならない」

 ハウセンにとって、シュタットの言葉はあまりに後ろ向きな気がした。

「英雄でも過ちは犯すでしょう。イムレッヤ帝国を代表する天才、エルメック様でも全ての戦いに勝ったわけでもありません」

「エルメック様か…………私は何度かエルメック様の元で戦った。あの方が勝つと言ったら、必ず勝っていた。英雄とはそういう者だ。エルメック様が勝ちを確信し、それでも勝てなかった戦いは一つだけだ」

「なんですか?」とハウセンが尋ねる。

「オロッツェ平原で、アレクビュー・ネジエニグ殿と戦った時だけだ。ネジエニグ殿もまた英雄だ。結局のところ、英雄と戦えるのは英雄だけだ」

「それでは我々のような凡才は、天才の引き立て役にしかならないというのですか?」

「そうだ、引き立て役にしかならん」

 シュタットは言い切った。

「そうなりたくなければ、大きな武功は望まず、ひっそりと暮らすべきだった。若さを失ってからこの歳までそうやって生きてきたのだがな。ここに来て、不運に遭ったのものだ」

 ハウセンは自分の司令官に不信感を覚えた。

 このような状況、武人なら手柄を立てる機会だと奮起するものではないか。

「君は私に不満があるようだな」

 シュタットは鋭く言った。

 ハウセンは驚く。まずいと思い、何か取り繕う言葉を探すが、咄嗟に出てこなかった。

「そんな顔をするな。別に攻めているわけではない。若いうちは武功を望み、己の才覚を試したいと思うものだ。私もそうだった」

 その言葉でハウセンはシュタットに対する考えを改める。この人は別に最初から消極的だったわけではない。恐らく、多くの人間を見て、今の結論に達した。ならば、その結論を短絡的に否定するのは間違いだと思った。この乱世を五十年以上生き残った人間には、先天性にしろ、後天性にしろ、何かがある。

「閣下の采配、勉強させてください」

 ハウセンは素直な気持ちから、そう口にした。

「勉強になるような采配を私は出来ないだろうな」

 ハウセンの上がった熱を冷ますようなことを、シュタットは言う。

「私に出来ることは英雄を引き立てることだけだ。しかしな…………」

 シュタットは立ち上がる。

「今回、引き立てる英雄が敵だと、いつ言った?」

 ハウセンは初めてシュタットから、好戦的な言葉を聞いた気がした。

「私だって民を殺し、帝国領内を好き勝手に蹂躙するラングラムにいい気はしていない。この年になって武功を望もうとはしないが、害悪を排除したいとは思っている」

 シュタットの言葉を聞き、ハウセンは自然と笑っていた。

「閣下、私も微力を尽くします!」

 ハウセンは強く胸を叩いた。熱く、普段より冴えるようになった頭で考える。

 シュタットが引き立てようとしている英雄は誰なのか、と。

 真っ先に思い浮かんだのはカタインだった。

 しかし、カタインは要塞にいない。ならばいったい誰だろうか?

「報告します!」

 慌てた兵士がシュタットの元へ走ってきた。

「リテリューン皇国軍が動きました。狙いは北の城壁です!」

「始まったか…………場所はシャマタル独立同盟軍の所か」

 シュタットが呟く。

「シャマタル独立同盟軍は大丈夫でしょうか?」

「彼らは、我らより窮地に強いだろう。兵の質も良く、指揮官も優秀だ。それにクラナ・ネジエニグ殿のような方もいる。我らはリテリューン皇国がこちらへ矛先を向けた時に備え、持ち場を離れてはならない」

 ハウセンは、シュタットの言う「英雄」がクラナ・ネジエニグのことを指すのでは? と思ってしまった。

 しかし、ハウセンにはクラナ・ネジエニグが英雄には見えなかった。イムニアを破ったシャマタル独立同盟の若き司令官がこのガンルレック要塞へ来ると知った時、どんな人物か楽しみになったが、実際に会ったクラナ・ネジエニグは覇気も、自信も無さそうな少女にしか見えなかった。

「今は各方面に、持ち場を守り抜くとを伝令してくれ」

 シュタットが指示すると、ハウセンは「かしこまりました」と答え、各方面に伝令を送った。

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