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大陸戦乱末の英雄伝説  作者: 楊泰隆Jr.
雄飛編
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ガンルレック要塞攻防戦一日目①~シャマタル独立同盟軍~

 シャマタル独立同盟軍は北の城壁で迎撃の準備を行っていた。

 シャマタル独立同盟だけで短い軍議を開く。

 クラナはユリアーナを最前線の指揮官に、アーサーンを弓・弩部隊の指揮官に命じた。フィラックは予備兵力と共に待機することになった。

 シャマタル独立同盟軍にとっては、約一年ぶりの実戦である。それは予期しない形で迎えることになった。それなのに大した混乱がなかったのは、指揮官の有能さ、兵士たちのクラナに対する信頼があった。

 要塞戦と言えば、兵士たちには去年のファイーズ要塞の攻防戦が記憶に新しい。その際、クラナは大陸屈指の名将エルメックを相手に奮戦した。その功績の立役者はリョウであるが、兵士たちはクラナがやったと思っている。

「ユリアーナさん、ごめんなさい」

 クラナは軍議の終わりに、ユリアーナへ近づく。

「何がですか?」

 ユリアーナは澄まし顔で言う。

「だって、ユリアーナさんが一番危険な場所で戦うことになります。いつもユリアーナさんには過酷な役割を任せています」

「あ~~、そんなことですか。クラナ様、あなたの優しさは素晴らしいことです。でも、その優しさが、甘さになってはいけません」

「ユリアーナさん…………」

「安心してください。私って結構しぶといんですよ。それにまだまだやりたいことがたくさんありますから、死ねませんよ」

 ユリアーナは笑った。

「ユリアーナさん、一緒に生き残りましょう。私だって、色々とやりたいことがあります」

「当然です。お互い頑張りましょう」

 クラナは「はい」と言い、ユリアーナの手を取った。

 「クラナ様、戦いとは関係ないことですけど、一つだけ言わせてもらってもいいですか?」

 クラナは「良いですよ」と返す。

「リョウはクラナ様のことを本当に大事に思っています。今回はそれが悪い方向に働いたから、こうなってしまいました。リョウに失望しないでください。あいつだって人間なんです。間違いを犯すんです」

 クラナは一度、間を置いた。

 そして、「ユリアーナさん、私、今、ムッとしました」と言って、迫った。

 ユリアーナは一瞬、緊張した。

「なんだか、ユリアーナさんは『リョウのこと、私は分かっているのよ』って言いたそうです」

 クラナはわざとらしく頬を膨らます。怒ってはいなかった。

「そんなことはないですよ」

「確かに私はリョウさんと出会って、まだ二年足らずです。過ごした時間では全然敵いません。でも、私だって、リョウさんの凄いところ、駄目なところ、弱いところ、ちゃんと見ていたつもりです。リョウさんが完全無欠なんて思いません。だから、失敗することも知っています。私がリョウに悪い感情を抱くことなんてないですよ。この程度のことで私がリョウさんに失望すると思われていたなんて、ユリアーナさん、酷いです」

「それは失礼しました」

 ユリアーナは口元が緩んだ

「むしろ、好機だと思っています」

「好機ですか?」

「はい、私だって頑張れるんだって分かってもらえれば、今度は一緒にいられるかもしれません。私はリョウさんを支えられるようになりたいんです。リョウさんにだって、苦手なものはあります。いえ、リョウさんは苦手なものばかりです。恐れていることばかりです。それはずっと前に気付いていました」

 リョウは強くない。多くの死者が出た戦いの後、リョウが酒を飲み、精神不安定になることをクラナは知っていた。クラナは、リョウの支えになりたかった。今、その機会が訪れたと思えると、ルルハルトに対する恐怖より、興奮の方が少しだけ勝っていた。

 午前中の内に軍備を整えたシャマタル独立同盟軍は、リテリューン皇国軍の動向を見守る。

 リテリューン皇国軍は、未だに要塞には近づいていなかった。矢の射程の遥か遠くに布陣していた。

「今日はこのまま終わるかもしれませんね」とアーサーンが言った直後だった。

 リテリューン皇国軍から鐘が鳴り響き、動き出した。

 その動きから、要塞の北の壁、つまりシャマタル独立同盟軍の方へ向かっているのは明らかだった。

「アーサーン連隊長が余計なことを言うから動いちゃったじゃない」とユリアーナが指摘する。

「ここにいる私の声など届くはずがないでしょう」

 アーサーンは困った表情だった。

「クラナ様、激励の言葉を兵士にかけてはいかがでしょう。士気が上がります」とフィラックが提案する。

「激励ですか…………」

 クラナは少しだけ考えた。考えがまとまると、全体が見渡せる高台の上に立った。

「皆さん、そのまま聞いてください!」

 クラナは声を張った。

「まもなく戦いが始まります。兵力では負けていますが、地の利はこちらにあります。この一戦に勝利し、ルルハルトに、いえ、大陸連合軍全体に私たちの力を示しましょう!」

 クラナは剣を天に掲げた。

 兵士たちは咆哮する。

「なんだか、ああいう姿を見るとクラナ様が遠くに行ってしまった気がしますね」

 ユリアーナは、フィラックに言う。

 表情は寂しげだった。

「時々ですが、ハイネ様と重なることがあります。始まりはどうであれ、クラナ様には人の上に立つ素質があるのだと思います」

 フィラックが返す。

「ユ、ユリアーナさん、フィラック、私の言葉、変じゃなかったですか!? 偉そうにし過ぎましたか!?」

 高台から戻ったクラナはあたふたとしていた。

「まぁ、本人が望んでいるかは別ですが」とフィラックは苦笑した。

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