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大陸戦乱末の英雄伝説  作者: 楊泰隆Jr.
雄飛編
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予期せぬ来訪者

 カタインはリテリューン皇国軍に扮していたイムレッヤ帝国の民を保護した。

「とすると、妻や子供を人質に取られて、ルルハルトに協力したということかしら?」

 カタインは男の一人を目前に連れてこさせて、事情を聴いた。

「申し訳ありません。しかし、カタイン様の軍が近づいた時は戦わずに降伏していいと言われたのです」

 男の顔は真っ青だった。イムレッヤ帝国に刃向かった、という自覚はあった。

「お願いします。私はどうなっても構いませんから、妻や子はどうか…………」

 男は額を地面に擦り付けて、嘆願する。

「顔を上げなさい。民を苦しめたのは私たちが後手に回ったからよ。軍に責任があるわ。今生きているイムレッヤ帝国の民は無条件で命を救いましょう」

「ありがとうございます………」

 男は涙を流す。

「どうやら、まともな食事を取っていないようね。食料を分けるから、食べなさい。もう休むといいわ」

 男は何度も「ありがとうございます」と繰り返し、カタインの前から退いた。

「カタインさん、あの男の人の、いえ、この偽のルルハルト軍を作っていた人たちの奥さんや子供は、恐らくもう…………」

 リョウは言葉を詰まらせた。

「分かっているわよ。でも、私は優しくないの。混乱を避けるためには事実だって隠すわよ。これ以上、ルルハルトの掌の上で踊るのは御免だわ」

 カタインは苛立っていた。結局、空振りだった。ルルハルト軍がどこに行ったか分からない。

「もしかしたら、僕たちが帰還する道のどこかで待ち伏せているかもしれません」

「もちろん、来るのに使った道を戻るつもりはないわ。それにしても、一万のイムレッヤ帝国の民をどうしたらいいかしらね」

「このまま帝都へ向かってもらいましょう」

 リョウが提案する。

「ジーラー公に彼らの身の安全を保障してもらいましょう。それが良いと思います」

「そうね。さすがに民を連れて行動するのは、避けたいわ」

 この日、カタインは自軍から、兵と食料を割き、イムレッヤ帝国の民を帝都へ向かわせる準備をした。

 日が沈み、夜になる。

 兵たちは移動の疲労があったが、眠る気にはなれなかった。ルルハルトが夜襲をしてくるかもしれない、と皆が思っていた。眠気で瞳を閉じても、僅かな風の音で起こされる。

 カタインやリョウも寝ていなかった。夜襲に備えていた。

 しかし、夜襲はなかった。

 静かな朝を迎える。朝日を見ると同時に気が抜けて、寝てしまう者が続出した。

「もしかして、この瞬間を狙って、ルルハルトは…………」

「坊やに言われなくても分かっているわよ」

 徹夜の疲労でカタインも苛立っていた。

「焦らされるのは嫌いだわ。焦らすのは好きだけど、やられるのは堪ったもんじゃないわね」

 それでもカタインはやるべき作業を行い、民たちを帝都へ向かわせた。

「ごめんなさい。少しだけ休ませてもらうわよ」

 日が真上に上った頃、カタインはそう言って、鎧を脱いだ。

 辺りが急に騒がしくなった。

 カタインの切り替えは早かった。無言で二本の短刀を手に取り、騒ぎの方へ向かう。

「カタインさん!」と叫びながら、リョウも追いかける。

 騒ぎの中心に近づいた時だった。

「通して頂戴。至急、大至急、カタイン様へ伝えなきゃならないことがあるのよ!」

 リョウはその声に聞き覚えがあった。

「ユリアーナ?」

 彼女の髪は乱れ、顔はやつれていた。剣や鎧は一切付けていなかった。可能な限りの軽装で駆け付けた様子だった。

「どうして君がここに…………!」

 ユリアーナはリョウの姿を見ると迫り、胸倉を掴んだ。

「あんたが…………あんたが…………!」

 ユリアーナは何かを言おうとして、言い留まる。

「…………あんたを攻めるわけにはいかない。無能だったのは、あんただけじゃなくて私たちもだから。クラナ様にそう言われたから…………でも、これだけは私の感情に任せて言わせてもらうわ。この大馬鹿野郎!!」

 ユリアーナは泣き始めた。リョウは未だに状況が理解出来なかった。

「身内の喧嘩はそれぐらいにして、あなたがここへ来た理由を聞かせてくれるかしら?」

 カタインが言う。

 ユリアーナはカタインに頭を下げた。

「カタイン様、非礼と無茶を承知で申し上げます。今すぐに最短進路でガンルレック要塞へ帰還してください!」

「帰還はするわよ。でも、ラングラムの待ち伏せも考えて、別の進路を…………」

「その心配はありません! ないのです!」 

 ユリアーナは声を上げた。

「だってルルハルトはガンルレック要塞に現れたのですから!!」

 その言葉に兵士たちは衝撃を受けた。

 しかし、一番感情を揺す振られたのはリョウだった。

「そんな…………」

 リョウは崩れ落ち、放心のまま、地面に座り込んだ。

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