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大陸戦乱末の英雄伝説  作者: 楊泰隆Jr.
雄飛編
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ユリアーナ対グリューン

 ユリアーナは深呼吸をする。

 真剣を人に向けるのは久しぶりだった。

 真剣を持った相手と対するのも久しぶりだった。

 肌がピリピリした。

 静寂が流れる。

 それは僅かな風の流れで唐突に終わった。

 ユリアーナが先に動く。

 鋭い一撃がグリューンを襲う。

「見事な一撃」

 グリューンはそれを剣で受けた。そして、すぐに反撃する。

 ユリアーナはグリューンの一撃を体を捻って躱した。躱す動作から流れるように攻勢に転ずる。

 二人の間で三度の攻防が行われた。ユリア―ナは後ろに飛び、一旦距離を取る。

「すごい。ユリアーナさん、私と戦っていた時と別人みたいです」

 クラナは二人の武闘に見入っていた。

「ユリアーナさんはやっぱり手加減をしてくれていたんですね」

 クラナは少しだけ残念そうに言う。

「確かにクラナ様と対していた時、ユリアーナ殿は全力ではなかった。しかし今の立ち回りはもっと大きな理由からでしょう。今は相手の剣を受けるのではなく、躱すしか方法がないのです」

 フィラックの隻眼は鋭くユリアーナの欠陥を見抜く。

「どういうことですか?」

「ユリアーナ殿は一流の武人でしょう。しかし、その勇ましさで忘れがちですが、彼女はもちろん女性です。筋力では到底、男には勝てません。それでも並みの兵士になら正面から受けても勝てるくらいの力量はあります。しかし、技量が互角で、筋力が上回る男を相手にした時、ユリアーナ殿は剣撃を交えることができないのです。理由は二つあります」

「二つですか?」

「はい、ひとつは単純に力の差です。そして、もう一つは武器の耐久力の差です。私は疑問に思っていました。なぜ、女性であるユリアーナ殿が、男と大差のない速度で剣を振れるのかを。答えは簡単でした。ユリアーナ殿の剣は、普通のものより薄いのです。そして、軽い。剣の速度は上がりますが、もちろん強度は下がります。だから、ユリアーナ殿は体力に余力がある限り、剣で敵の攻撃を受けないのです」

「でも、それって危険じゃないですか?」

「そうです。とても危険です。神経は磨り減るでしょう。しかし、ユリアーナ殿はそれをやっております。それは彼女が過酷な戦場を生き残るために身に着けた武器なのです」

 ユリアーナが再び、攻め込んだ。

 今度の攻防は一瞬で終わった。

 二人が同時に、お互いの喉元へ剣を突き付けた。

「ん~~、やっぱり鈍ったかしら。なんだか、思った動きより体が遅れて動くわ」

 ユリアーナは納得できず、体を様々な方向へ動かす。

「これでも武に自信があったのです。もう少し健闘を称え合いたいものです」

 グリューンが苦笑する。

「ご、ごめんなさい。久しぶりだったから、完全に一人の世界に入っていました」

 ユリアーナは、グリューンに詫びた。

「いいです。私も良い経験をしました。カタイン様とは違った方向の戦い方で新鮮でした」

「そういえば、カタイン様も変わった戦い方ですね」

 カタインの戦闘、二本の短刀を軸にしていた。その変則的な動きは、初見だったユリアーナを苦しめた。

「あの方も豪胆ですが、女性です。生き残るために色々と考えているのですよ」

「カタイン様は帝国で、いえ、大陸で初の女性の元帥になるかもしれませんね」

 ユリアーナはカタインに賞賛の言葉を送る。

「あの方はそのようなものに興味が無いようです。私、個人としてはもう少し上に立つ者として腰を据えてほしいと思っております。あの方は文武の才に富んでおります。しかし、危ういところがあります。平穏をどこかで退屈だとも思っているのですよ。戦に出る時のカタイン様は本当に生き生きとしています」

「グリューンさん、カタイン様のことが好きなんですね」

「はい、普通の方に仕えるよりも刺激的な毎日を過ごしております。奴隷であった私が今の地位にあるのもカタイン様のおかげでございます」

「奴隷?」

 ユリアーナは、グリューンがあまりに自然な口調で言ったので、聞き逃しそうになった。

「私とカタイン様は元々、剣闘士でした。その点では私の方が古株でしたね。剣闘士として死ぬはずだった私に刺激的な人生を与えてくださった」

「でも、今回は別行動ですね。抗議しなかったのですか?」

「カタイン様は何か考えがあるのでしょう。私を意味もなく、ここへ残すとは思えません。表面上は私にイムレッヤ帝国軍とシャマタル独立同盟軍の緩衝材と言っていましたが、真意はどうでしょうか?」

 グリューンは困った表情をする。

「違うというのですか?」

「分かりません。カタイン様は真意を中々、話しませんから。今回の戦い。ラングラムは得体の知れないところがある不気味な相手です。しかし、カタイン様とリョウ殿がいれば、後れを取ることはないでしょう」

 リョウ、の名前は場を硬直させた。

「はい、その通りだと思います」

 それは一瞬で、すぐにクラナが発言する。

「カタイン将軍とリョウさんがいれば、負けることはありません。今回は一緒に戦えませんが、次は絶対に一緒に戦います。リョウさんだけが苦しむようなことは絶対ないようにします」

「ネジエニグ司令官は、賢妻ですね」

「け、賢妻、なんて言いすぎです!」

 クラナは顔を赤くする。

「なるほど、年相応の表情もあるようですね」

「グリューンさん、意外と意地悪ではないですか…………」

「これは失礼しました」

 グリューンは頭を下げる。

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