再び、ローエス神国へ
一ヶ月後、ダルナの街。
「ルピン、今日は顔色がいいな」
「やっとまともな感覚が戻ってきましたよ」
ルピンはやっと禁断症状から解放された。
「あなたも大丈夫そうですね」
「なんのことだ?」とグリフィードは惚ける。
「まったく、強がりですね。本当に麻薬はもう嫌です」
「それには同意だな」
グリフィードもさすがに苦い顔をした。
「二人とも元気そうですね」
一人は全くの平常だった。
「なんで一番多くの麻薬を摂取していたはずのあなたが平気なのですか?」
ついにローザには禁断症状は出なかった。
「さぁ、もう精神が死んでいるのかもしれませんよ」
ローザは自嘲気味に笑った。
「だが、あんたのおかげで助かったよ。全員が薬物中毒じゃ、さすがにキツかった」
三人は朝食を食べる。
「やっと物の味が分かるようになりましたよ」
ルピンが言う。
「それは良かったな。で、そろそろ、次の動きを決めないか?」
「では聞きますが、このままローエス神国から逃げますか? それともまた潜入しますか?」
ルピンは二人に問う。
少しだけ沈黙が流れた。
「私は逃げません」
ローザが言った。
「説得力はないかもしれませんが、ローエス神国には私を救ってくれた優しい人たちもたくさんいました。ローエス神国が麻薬で国を支配しているなら、許せません」
「一人で一国と戦うつもりですか? 無謀すぎますね」
「少なくとも二人じゃないですか?」
ローザはルピンを見る。
「私はローエス神国の隠している秘密を知りたいだけですよ」
「この際それは同義な気がします」
二人は目を合わせ笑った。
「まったくローエス神国の人間は頭がおかしいな」
グリフィードも笑った。
「私は大陸教ではありません」
「私はローエス神国出身ではありません」
ルピンとローザが返した。
「仲が良いことは結構なことだ。女性を二人で行かせるわけにもいかんな。俺も行くぞ」
「若い男の子と旅なんて心が躍りますね」
「若いって、あんた、ルピンと同じくらいだろ。なら、俺ともそこまで変わらないはずだ」
「お世辞でもうれしいですね。まぁ、確かにルピンちゃんとは近いですけど、あなたとは10歳くらい離れているんじゃないんですか?」
「んっ、俺と十離れているってことは…………」
「私はこう見えても三九歳ですよ。一応、子供もいます。最近知りましたが」
「三九歳!? それは驚いたな。まったく見えん」
「ちょっと、それならなんであなたと私が一緒なんですか!?」
ルピンが抗議する。
「同じ三十代ですから」
「そんな広い括りにしないでください!」
「…………お前、意外と歳とかには拘るんだな。それより子供がいるって本当か?」
「はい、最近まで忘れていましたけど、いることを知りました」
「男ならともかく、女が自分で産んだ子供を忘れるってどういうことですか?」
「人生には色々あるんですよ」
ローザは少しだけ悲しそうな表情になる。
「…………なら、今は聞きません。お互いに言いたく無いことはありますからね」
ルピンはリョウのことをローザにしゃべったことを思い出す。
「で、ローエス神国へ侵入するいい方法はあるのか?」
「現状はありません。ですが、私の予想が正しければ、必ずその隙は出来ます。それまでもう少しこうやって、休んでいましょうか」
ルピンはごろんとベッドに寝っ転がった。
「お前がそう言うなら、何か考えがあるんだろう」と言い、グリフィードはそれ以上聞かなかった。
「君たち二人は本当にお互いを信頼しているのですね」
「ただの腐れ縁ですよ」とルピンが言う。
ルピンはただ時間を浪費しているわけではなかった。
イムレッヤ帝国の内戦やシャマタル独立同盟の動きを把握する。
シャマタル独立同盟はイムニアを支援していることを知った。
ルピンは正しいと思った。
イムレッヤ帝国の内乱はイムニアが勝つ。この時期、それは疑いようがなかった。
さらに他国の動きにもルピンは目を向けた。
フェーザ連邦が兵を集めて、軍事行動に出る気配があった。
ローエス神国も神兵をかき集めていた。
そして、リテリューン皇国とベルガン大王国は停戦を続けており、再び戦いが始まる気配がない。
「大陸が動きますね。そして、その隙こそが私にとって好機ですね」
ルピンが呟く。
ルピンの言う隙ができたのは、さらに一ヶ月後だった。
それは大陸連合の成立だった。
ルピンはこれを利用する気だった。ローエス神国は交通の要所である。連合軍になれば、他国に街道通行の許可を出すと考えたのだ。
「さてと動きますか」
「目的地は?」
「そんなもの決まってますよ」
ルピンは東を指差した。
「ローエス神国、神都アニエピアです!」
外伝はこれにて、前半部分が終了となります。
外伝後半は次の本編、雄飛編(仮)が終わってからとなります。
分かりづらい章立てとなり、申し訳ございません。
今後もよろしくお願い致します。