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大陸戦乱末の英雄伝説  作者: 楊泰隆Jr.
外伝 旅行編
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山越え

 三人は急いで来た道を戻った。

「食堂での騒ぎがまだ収まっていなければいいのですが…………」

「さすがにそれはないだろう」

 グリフィードの言葉は正しかった。

 洞窟の入り口で神兵に出くわす。

「神兵ローザ、なぜあなたが洞窟から、それにその二人は…………」

 戸惑う神兵に対して、ローザは抜刀せずに剣を振る。

 ティアルアの街でやったように一撃で失神させた。

「お見事」

 グリフィードは倒れた神兵から剣を奪う。

「これは一体…………とにかく逃がすな!」

 騒ぎは波及し、三人の前に神兵が立ち塞がる。

「強行します!」

「了解だ!」

 グリフィードとローザが包囲を突破する。

「こっちです」

 ローザは建物の裏に走る。そこには馬がいた。

 グリフィードはルピンと一緒に馬に乗った。

「何をしているんですか、早く!」

 ルピンが叫んだ。

 ローザは馬に乗らずに何かをしていた。

「追撃をできなくします。少しだけ時間を稼いでください!」

「了解した」

 グリフィードは何も言わずに従った。

「馬上での戦いは久しぶりだな」

「楽しそうに言わないでください!」

「しゃべるな、舌を噛むぞ」

 グリフィードは神兵を翻弄する。

「貴様、何者だ!?」

 神兵の一人が叫んだ。

「そんな問答をする時間があったら、かかって来たらどうだ?」

 グリフィードと神兵の戦闘技術の差は圧倒的だった。

 神兵とはいえ、戦闘経験が少なすぎた。

「お待たせしました。逃げましょう」

 ローザが合流し、三人はそのまま街道へ向かった。

「追手は大丈夫か?」

「大丈夫だともいます。他の馬の轡をすべて切りましたから」

「なるほど、そういうことでしたか」

 逃走はあっけなく成功する。



 三人は夜通し馬を走らせ、ベルガン大王国の国境近くまで進んだ。

 馬は泡を吹いて倒れ、途中からは徒歩になる。

 三人は殆ど寝ることなく進み、たったの三日でローエス神国とベルガン大王国の国境まで到着した。

 しかし、問題はここからだった。

 街道から国境を越えるのは危ないと考えた三人は山中に入り、ベルガン大王国への密入国は謀った。

 そこに道はなく、降りると言うより落ちると言った方が良いような斜面を下り、また逆に上がったりも。した。

 三人が山の中で方向を把握できたのは、ルピンの備えがあったからだった。

「まさか方位磁石まで用意しているとはな」

「色々準備をしておきましたから。…………ところでグリフィード?」

 ルピンとグリフィードの二人は一度、小休止をしていた。

 ローザは食料の調達のため、いない。

「何だ?」

「この山越えは私にとってかなり過酷なはずです。なのに、思ったより疲れないんですよ。私は自分の体力の無さを自覚しています。とっくに限界を超えています。最初は緊張からなのかと思ったのですが、一つ引っかかることがありまして」

「なんだ?」


「………………あなた、あの時、採取したシオサの草をどうしましたか?」


「聞かない方が良いぞ」

「…………やっぱりですか!」

「仕方ないだろ。どう考えてもお前じゃ、俺とローザさんに付いて来れない。見捨てない為にはこうするしかなかったんだ」

「殺人犯の言い分みたいですね! それにその感じだと、麻薬を投与されているのは私一人ですか!?」

「まぁな」

「いつか、あなたに報いを受けさせますからね! というか、ぶっ殺す!」

 麻薬のせいなのか、疲労からなのか、普段からの鬱憤が爆発したのか、ルピンは完全に冷静さを失っていた。

「元気ですね」

 ローザが戻ってきた。

「ええ、元気ですよ! おかげさまでね!」

「その口調だとバレちゃいました?」 

 ローザはグリフィードを見る。

 まぁな、とグリフィードは返した。

「グリフィード君、残っている麻薬入りの薬は?」

 グリフィードは「これだ」と言い、ローザに水筒を渡した。

「さて、どうします? ルピンちゃん?」

 ローザはルピンに迫る。

「な、何がですか?」

 ルピンは一歩引く。

「選んでください。今、グリフィード君が持っている薬を飲むか。それとも自分の体力を信じて、ここからは自力で何とかするか。もし、要らないなら今ここで捨ててしまいますよ」

 ローザは水筒を傾けた。

「ま、待ってください」

 ルピンは思わず、手を伸ばした。

「待つ、ということはどういうことですか?」

「この極悪信徒。分かりましたよ。選択肢はありませんよね。生きるためには腹を括りますよ。その代わり、本当の禁断症状が出たら、二人で全力で私を介抱しなさい」

 ルピンは初めて自分の意志で麻薬に手を出した。

 今を生きるために後の地獄を覚悟した。

 さらに二日後、三人はついに山中を抜け、ベルガン大王国の小さな街へ到着した。

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