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大陸戦乱末の英雄伝説  作者: 楊泰隆Jr.
外伝 旅行編
71/184

地底湖の向こう側

「ああああああああああああああああああああ!!!」

 ルピンは叫んでいた。

「おーい、ここがいくら地下の個室だからって、そんなに叫んだら地上にまで聞こえるぞ」

 二人は地下の掃除に来ていた。地下には二人以外はいない。

「うるさいですよ! あの場で叫ばなかっただけ、私を褒めてください! グリフィード、あなたの余計な行動が見事に成果を出しましたね!」

「褒めるな」

「褒めてません! ああああ! もう、最悪です! 神兵に頭を撫でられました!」

 ルピンは頭を掻き毟る。

「良いじゃないか。祝福がありそうだ」

「呪いがありそうですよ!」

「しかし、悪いことだらけじゃない。神兵の数が減ったことは俺たちに都合がいいだろ?」

 ルピンは真面目な顔になる。

「確かにそうですね。ですが、やはり強行は出来ません。焦らずに行きましょう」

「ルピン、ひとつ良いか?」

「なんでしょう?」

「なんでローエス神国は神兵を中央へ集めたと思う?」

 今回の交代で来た神兵は、ローザを除けば、全員が若かった。

 グリフィードは実践経験のない新人だと気づいていた。

「私が思う中で最も面倒な方向へローエス神国、いえ、大陸が進んでいるということではないでしょうか? 今はさすがに情報を集められません。シャマタル独立同盟が何らかの形で、巻き込まれるとしても、まだ先であると思います」

 ルピンの予想は当たっていた。

 ルルハルトはこの時期、大陸連合の成立準備に動いていたが、さすがに四大国の足並みを揃えるのには時間がかかっていた。

「もしかしたら、リョウさんやネジエニグ嬢、フィラックさんやアーサーンさんが動くことになるかもしれません。しかし、今すぐに動くことは出来ないでしょう。シャマタル独立同盟は内政をどうにかしなければいけませんから。だから、三ヶ月くらいは居てもいいと思っています。あなたは耐えられますか?」

「構わないさ」とグリフィードは返す。


 しかし、事態は急転する。


 機会が訪れる。

 二人は動くことなる。

 いや、動くしかない状況になってしまった。

 それは次の日のことだった。



 ルピンとグリフィードは昨日の続きで地下の清掃をしていた。

 夕方、地上へ上がり、食堂へ到着した時だった。

「ま、魔物だ!」

 一人の信徒が叫んでいた。

「なんですか、あれは?」

 ルピンは頭のおかしい信徒がいる、くらいで流しそうになる。

 グリフィードは真剣な顔になっていた。

 その信徒は椅子や机は投げて、暴れる。

 それが連鎖したように他にも暴れだす信徒が現れ、収拾がつかなくなっていった。

「クソ、そういうことか…………!」

 グリフィードは呟く。顔は険しかった。

「どうしたんですか、あなたらしくもない」

 ルピンはキョトンしていた。

「そうか、お前もか。いや、これは男より女の方が影響が強いらしいからな。それでいて、女の方が許容量が多いらしい」

「いったい何を…………」

 グリフィードはルピンの手を引っ張り、食堂を出た。

「ちょっと、痛いですよ…………」

「ルピン」

「ちょっと、そっちの名前で呼ばないでください。万が一ばれたら…………」

「猶予がなくなった。選べ。謎を解いてから、ここを出るか。謎を解かずにここから出るか」

 グリフィードの言い方は乱暴だった。

 しかし、ルピンは戸惑わなかった。

「後で理由は聞かせてください」

 グリフィードがこうなるほどまずいことが起きた、ということはルピンはすぐに理解する。

 グリフィードの危機回避能力をルピンは信頼している。

「謎を解く猶予はあるのですね?」

「危険だが、それくらいはまだどうにかなるだろう。最後は多少、荒事になるかもしれんがな」

 グリフィードはこういう時、いい加減なことも調子のいいことも言わない。

「ならば、お願いします」

「分かった」と言い、グリフィードは足を早めた。

 始まりの洞窟へ向かった。

「た、大変です!」

 グリフィードは取り乱したふりをして、見張りに立っていた神兵に詰め寄った。

「なにがあったんですか!?」

「食堂で人が暴れています。一人じゃありません! 助けてください」

「なんですって!? おい、みんな!」

 神兵たちは建物に向かった。始まりの洞窟ががら空きになる。

「全員で行くとはなっていませんね。一人はここに残るべきでしたよ」

「経験がない新人ばかりで助かったな」

 二人は急いで、地底湖へ向かった。

 洞窟内に神兵がいることも考え、警戒したが、出くわすことは無かった。

 二人は無事に地底湖まで辿り着く。

「冷たいですね」

 ルピンが地底湖に手を入れて、呟く。

「それはしょうがない。だが、服が水に濡れるのはなぁ…………」

「それは心配いりません」

 ルピンは服の中から大きめの袋を取り出した。

「これは防水・防火性の高い素材で出来ています」

「お前、服の中にそんなものを隠していたのか」

「色々準備をしていたと言ったじゃないですか」

 二人は服を脱ぎ、全てしまい込んだ。

「間違っても欲情しないでください」

「何か欲情するものでもあるのか? 気付かなかった」

「分かりました! 後で戦争をしましょう!! …………ですが、今は急ぎます」

 グリフィードは服の入った袋を持ち、地底湖に入った。ルピンも続く。

「ルピン、しっかり捕まってろ」

 分かりました、と答えて、ルピンはグリフィードに背負われるような形で捕まった。

「息を吸え…………潜るぞ!」

 グリフィードは潜水した。

 ルピンの言った通り輝光石が光源になっていた。

 しかも、それは人為的に置かれたようで道を誘導していた。

 向こう側の入り口が見えた。

「あ~~、冷たい!」

 水面から顔を出して、グリフィードが言う。

「ちょっと、グリフィード、周りに誰かいたらどうするのですか」

「心配するな。誰もいない」

 二人は急いで服を着る。

 洞窟内に風が入ってきた。

「すぐに出口みたいですね」

「そうだな。さて、この先に何があるのか…………」

 グリフィードが出口の方を見た時だった。

「こんなところがあるとは知りませんでしたよ」

 後ろから声がした。

「くっ…………!」

 気付いた時には遅かった。

 グリフィードは剣を喉元に着けつけられる。

「何か言いたいことはありますか?」

「あんたみたいにいい女の裸を見るのは興奮するな」

 ローザは剣を持ってきたが、それ以外の物は置いてきたらしい。

 他に身に着けている物は神兵の紋章が入った耳飾りと薔薇の首飾りだけだった。

「貴方のような若い方からそう言われるとうれしいですね」

 ローザは鋭い眼光で言う。

 どうやら迂闊だったのは自分たちだった、とルピンは自覚する。

 恐らく、ローザはどこかに隠れて、始まりの洞窟に入っていく怪しい者がいないかを監視してのだ。

 この状況から逆転は不可能だ。

「あんた、自分にできることなら言ってくれ、って言っていたよな? 俺たちを見逃してくれないか?」

 グリフィードは軽い口調で言ってみる。

「それは出来ませんね」

 当たり前の答えが返ってきた。

「さて、この先に行きたいのでしょう? 行きますか」

「「えっ?」」

 二人は驚く。

「私もこの先に何があるか気になります」

「何があるか知らないのですか?」

「私たちはこんな場所があることを知らされていませんでした。あなた方が悪戯にここへ来たとは思えません」    

「分からないな。俺たちは侵入者だ。問答無用で殺されてもおかしくないはずだが?」

「私は貴方たちに恩があります。その恩に出来ることなら報いたいのですよ。グリフィード君、ルピンちゃん」

「「!!」」

 二人は驚く。

「私たちどこかで会いましたか?」

 ルピンには覚えがなかった。神兵に会ったら、忘れるはずがない。

「直接、会うのは昨日、いえ、ティアルアが初めてです。名前を知ったのは簡単です。地下室での会話、筒抜けでしたよ。私が足音を消していたのもありますが」

「おい、ルピン、今回はお前の失策だ」

「な、なんで私ですか!? 元々、目を付けられたのは、あなたがティアルアの街で暴れたからでしょ」

「いいえ、お嬢ちゃんの失策ですよ」

「えっ?」

「子供のふりなどするからです。気になって後を付けてしまいましたよ。でも、いい大人が子供のふりは恥ずかしくないですか?」

 ルピンは真っ赤になった。

「ああああああああああ!!!」

「お前、最近、それにはまっているのか?」

「うるさいですよ。自分のやっていたことがばれていたと思うと…………あっ…………あ~~~!」

 ルピンは恥ずかしさで悶えていた。

「お嬢ちゃんは面白いですね」

「そんなこと初めて言われましたよ!」

「おーい、二人ともそろそろ良いか?」

 グリフィードが割って入る。巡礼用の服を脱いでいた。

「ルピン、理由はなんにせよ。この先に進めるんだから、それでいいだろ」

「まぁ、そうですけど…………」

「それからローザさん、その姿は目の毒だからこれを着てくれ」

 グリフィードは巡礼用の服を差し出した。

「感謝します」

 ローザは服を受け取った。

「代わりに剣を渡しましょうか。私が持っていては不安でしょう」

「遠慮しておく。元々、負け戦だったんだ。この先に進めるだけでもありがたい」

 予想外な同行者を加えて、ルピンたちは洞窟の出口に向かった。

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