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大陸戦乱末の英雄伝説  作者: 楊泰隆Jr.
外伝 旅行編
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再会

 次の日、朝食。

「なんだこれ?」

 グリフィードが嫌そうな顔をする。

 朝食に出てきたのは蒸かしたイモとその辺の雑草でも入れたのかと思われるスープだった。

「精進料理だと思って食べなさい」

 ルピンが小声で返した。

 そうは言ったが、ルピンもここまでひどいとは思わなかった。

 イモもスープもほとんど味がしない。

 その日は建物の清掃で一日が終わる。

 昼食と夕食もほとんど変わらなかった。変わったことは夕食にだけ干し肉が付いてきたことぐらいだ。

「これは一体、何の肉だ? パサパサしているし、固い」

「だから、黙って食べなさい」

 ルピンとグリフィードは小声で会話をする。

 二日目、三日目と時間は過ぎる。二人は特に行動を起こしていない。建物や周辺の清掃に努める一信徒として振舞っていた。ルピンはすぐにでも洞窟の中を調べたかったが、洞窟の前には常に神兵がいた。強行してまで中に入るわけにはいかず、時間が過ぎる。

 しかし、だた時間を浪費しているわけではない。洞窟に入る機会は存在する。それが訪れたのは、半月の忍耐の末だった。

 神兵の見張り付ではあるが、洞窟の中の清掃の順番が回ってきた。ルピンとグリフィードは清掃活動をしながら、洞窟の中を観察する。

 洞窟の中には篝火が設置されている。それが暗い洞窟の中を照らしていた。

 変わったところはなかった。

 ルピンには、ヤハランの一族がこの地へ何度も足を運んだ理由が分からない。

 当てが外れたか、それとも『始まりの洞窟』自体には何も存在せず、その道中に何かがあったのか、とルピンは思案する。

 ここを出た後の目的地をどうするか、を考えていた時だった。

「あれは…………?」

 ルピンが洞窟の最下層まで進んだ時、地底湖があった。

 ルピンはその地底湖に違和感を覚える。

 ルピンは神兵の注意が別の所へ向いている隙に地底湖を覗き込んだ。

「やっぱり…………」

「こら!」

 ルピンが振り向くと神兵の一人がルピンを捕まえる。

 しまった、とルピンは思った。

「危ないじゃないか! 気をつけろ」

 その言葉にルピンはホッとする。

(そういえば、子供のふりをしていましたね)

 ルピンは自分の見た目を最大限に利用することにした。

「疲れた~~。お水飲みたい~~」

 その声は神兵に向けたものではない。

 すぐにグリフィードが駆けつけた。

「申し訳ありません。私の妹が何かしましたか?」

 グリフィードはかなり焦った振りをしていた。

「君がこの子の兄か。もう少しでこの子は地底湖へ落ちそうになっていたぞ」

「な、なんですと!? ニコロ(ルピンの偽名)、なんて馬鹿をしているんだ!」

 グリフィードは怒鳴った。

「ご、ごめんなさい…………」

 ルピンは泣きそうな声を出した。

「まぁ、お兄さん、何もなかったのだから、その辺で良いでしょう。のどが渇いたなら、一回出て、井戸の水を飲みなさい。一度、奉仕活動を休むことを許可します」

「本当ですか!? 寛大な処置を感謝致します」

 グリフィードはルピンの手を引っ張り、洞窟の出口に向かう。

「まったく、夢中になりすぎた」

「そうですね。私としたことが」

 ルピンは本当に反省していた。

「あなたに馬鹿と言われるなんて、一生の恥です」

「そっちか。で、何があったんだ?」

「それは後で話しますよ。今は兄妹を演じましょうか」

 その日、ルピンとグリフィードは深夜に起きて、建物の外で話し合いをすることにした。



「輝光石?」

「はい、そうです。地底湖の奥の方の光は間違いなく、輝光石です」

 輝光石。

 こぶしほどの大きさで、一部屋を照らすほどの光を放つ光石のことである。

 大変高価なもので、こぶしほどの大きさ物を売却すれば、家が一軒建つ。

「それが地底湖に沈んでいるっていうのか?」

「地底湖の付近は明るかった。これは仮説ですが、あの地底湖は向こうに繋がっているのだと思います」

「その先に何かがあるというのか?」

「分かりません。ですがあるとしたら、もうそこしか思いつきません」

「分かった。だがな、潜入は至難の業だぞ」

 始まりの洞窟の前には常に神兵が駐在している。強行は出来ない。

「潜入できる機会が訪れるのを待つしかありませんね」

 それから一週間、ルピンたちはほとんど何も行動できなかった。

 焦りからか、精神不安を覚える機会が多くなる。

 精神不安は粗末な食事の後にだけ、少しだけ緩和した。

「こんな環境ですから、こんな食事でも楽しみに思ってしまうのでしょうか?」

 ルピンは大して味の無いスープを飲み干して、呟いた。

 その日、神兵の人員交代があった。

 それはただの交代ではなかった。

 交代の前と後では、明らかに神兵の数が減っていた。

「どういうことだ?」

「ローエス神国の中央に神兵を集めているということでしょう。交代で来た神兵は明らかな新米神兵ばかりですし。まぁ、私からすれば好都合ですよ。人数が減れば、それだけ隙ができ…………!?」

 ルピンは言葉に詰まった。

 一人の神兵で視線が止まる。

「あの女神兵は…………!」

 ルピンはその女神兵を知っていた。

 運命、という言葉をルピンは信じないが、今だけ良くない方向で、その言葉を使ってしまいそうになった。

「まさか、また会うことになるとはな」

 グリフィードはなぜか楽しそうだった。

 ルピンは怒鳴りたくなった。

「あなたがティアルアで余計な乱闘に参加するからですよ!!」と。

 女神兵もグリフィードに気が付き、近寄ってくる。

 うまく誤魔化しなさい! とルピンは心の中で念じた。

「あなたとは一度、お会いしましたね」

 女神兵が話しかける。

「まさか、こんなところで会えるとは思いませんでした」

 グリフィードが返す。

「あの時の加勢、感謝します。しかし、なぜすぐに姿を消したのですか?」

 ルピンは嫌な汗をかく。

「もし、あの場で私が出て行ってしまっては、神兵様に助力し、ご機嫌を取ったようになってしまいます。私はなるべくなら献身的な教徒でいたいのです。私が加勢したのは、人助け。そうするためにはあの場を正体を明かさないまま立ち去る方がいいと思ったのです。お許しください」

「どうか謝らないでください。見返りを求めない貴方の献身を大陸神様は見ていてくださった。だから、私たちはまた会えたのです」

 ルピンは体中が痒くなる。

「私は貴方の献身に感服致しました。同志として、できることがあったら言ってください。力になります」

「神兵様に顔を覚えて頂いただけでも光栄です。他に臨むことなどございません」

 ルピンは全身を掻き毟りたくなった。

「あなたに祝福があらんことは。まだ、名前を言ってませんでしたね。私の名前はローザです」

「私はウェントと申します。こちらは妹のニコロです」

 ルピンは頭を下げる。

「…………妹ですか? ニコロちゃん、よろしくね」

 ローザはルピンの頭を撫でた。

 ルピンはすべての感情を押し殺し、思いっきり子供っぽい声で「よろしくお願いします」と言った。

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