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大陸戦乱末の英雄伝説  作者: 楊泰隆Jr.
外伝 旅行編
65/184

新たな旅立ち

 リョウと別れた後のルピンとグリフィードの行動を書いたものになっております。

 本当は第三章の「雌伏編」に入れるつもりでしたが、ただでさえ舞台がシャマタル独立同盟とイムレッヤ帝国を行ったり来たりしているのに、そこにも一つの軸を作ると混乱(主に私が)すると思ったので、完全に切り離して、別の章立てと致しました。

 分かりづらい部分が多いと思いますが、読んで頂けると幸いです。

 リョウとクラナたちがファイーズ要塞へ出発した直後、首都ハイネ・アーレ。

「で、当てはあるのか?」

 グリフィードが尋ねる。

「前に言いましたよね『始まりの洞窟』へ行くと」

 ルピンが答える。

「そっちの当てじゃない。資金の当てさ。お前、獅子の団が解散する時にらしくもなく、団の資金を等分にして、団員へ配っただろ? 今の俺たちに長距離を移動するだけの資金はないぞ」

「らしくもない、って言い方はしないでくれますか。まるで私がケチみたいじゃないですか。私は団のことを考えて資金を運営しただけです。そして、団が解散するなら、平等に配るべきでしょう。仲間なのですから」

「律儀な奴だ。で、資金はどうする?」

「戦争中、物資の運営を誰がやっていたと思いますか?」

 ルピンは悪い笑みを浮かべた。子供っぽい見た目と不釣り合いである。

「着服を重罪だぞ」

「あれだけ働いたのです。少しくらいやらないと釣り合わないですよ。それにシャマタル独立同盟の物資には手を付けていませんよ。押収した物資をちょっと横流ししました。あの戦争の混乱中にね」

 ルピンは子袋を取り出した中で石をぶつかる音がする。

 グリフィードはその中身が宝石だと理解する。

 ルピンは金銭を持ち運ぶ時、宝石に代える。

「まったくお前が味方で良かったよ」

「褒められたと思っておきましょう」

「だがな、それだけじゃさすがに不安だろう。 貧乏旅になるぞ」

「グリフィード、私たちは昔どうやって旅をしていましたか?」

「なるほどな。上手くできるといいな」

「私がやるのですから、上手くいくに決まってます」

 ルピンは笑った。



 ルピンとグリフィードは首都を出発し、フェーザ連邦を目指した。

 その道中、二人は旧友を尋ねた。目的はいくつかあった。

「子供の一人くらい出来ましたか?」

「あんたね…………久しぶりに会って言うことがそれってどうなの?」

 ユリアーナは呆れ顔になった。

「折角の平穏ですよ。今やらなくどうするんですか?」

「ハハハ、やることはやっているんだがな!」

 ローランが横から口を出した。

「あんたは余計なことを言わなくていいのよ!」

 ユリアーナは顔を赤くする。

「仲が宜しいようで何よりです…………ユリアーナさん、あなた、ファイーズ要塞に行くことになっていませんか?」

 ルピンの表情がまじめになる。

「あんたはどこから情報を聞いてくるのかしら? 正解よ、リョウたちに何か言うことでもあるのかしら?」

「はい。西と南に注意せよ、と言っておいてください。今はそれだけでいいと思います。それにリョウさんなら、それだけで理解するでしょうし」

「西と南?」

「ベルガン大王国とリテリューン皇国です。あの二国が最近、まったく軍事衝突を起こしていないのです」

「まさか、そんな…………だって、あの二国は…………」

「はい、あの二国の因縁はとても深いです。だからこそ、争っていた。おかしな言い方ですが、あの二国が争っていたことが一つの大陸の均衡を保つ要因でした。もし、停戦や講和になれば、均衡は崩壊します。それにイムレッヤ帝国は内戦に突入しています。これから大陸は大きく動くかもしれません」

「ねぇ…………ルピン、あなたはそんな時期にリョウの元を離れて平気なの?」

 ユリアーナは真剣な表情になった。

「リョウさんなら心配いりませんよ。今までだってそうでしたから」

「それはあなたがいたからよ」

「……………………」

「リョウの脆さは知っているでしょ? 確かにクラナ様やフィラック様、アーサーン将軍もいるわ。でも、あなたの存在はリョウにとってはやっぱり特別なのよ」

「私は…………私は…………」

 ルピンは、自身がリョウのことになると酷く思考を鈍らせるのを自覚していた。それでもどうすることもできなかった。

「おい、ユリアーナ。ルピンだっていつまでもリョウの保護者でいるわけにはいかないぞ」

 グリフィードが割って入る。

「あいつは少し自立した方が良い。今までルピンに頼りすぎた。今はネジエニグ嬢がいる。助け合って、対等な立場でいられる相手がいるんだ。あいつの成長のためにも、俺やルピンが一旦離れるのは悪いことじゃない。心配するな。本当の窮地になれば、俺たちは駆けつける。そうだろ、ルピン?」

 グリフィードはルピンの肩をポン、と叩いた。

 ルピンは大きく息を吸った。

「はい、その通りです」

 ユリアーナは少し考え、「確かにそうかも」と答える。

「ううん、リョウだけじゃない。私や他のみんなもあなたたち二人には支えられっぱなしだった。みんな、一度あなたたちから離れて、自分を見つめ直した方がいいのかもしれないわね」

「別に俺は自由気ままにやっていただけだがな」

 グリフィードが笑った。

「それは否定できませんね。私は振り回されっぱなしでしたから」

 ルピンはムスッとする。

「まぁ、そう言うな。これからはお前の好きなようにしていいぞ」

「それが不安なんですよ。いいですか。頼みますから面倒を起こさないでくださいね」

「努力する」

「…………やっぱり、随員を間違えましたかね」

 ルピンは苦笑いをした。

「そういえば、頼まれていた馬車と馬、用意しておいたぞ」

 ローランが言う。

「ありがとうございます」

「気にするな。ユリアーナの世話をしてくれた恩人だ。それにシャマタルも救われた。これくらいはしてやるさ。それと多少の手癖の悪さも見逃すさ」

「それはありがたいですね」

 ルピンとローランは意味あり気な笑みを浮かべた。

 しかし、それだけだった。

「まぁ、二人も気を付けてね。あなたたちなら大丈夫だと思うけど」

 ユリアーナはそう言って、二人を見送った。



 ユリアーナから分かれた二人。

「グリフィード、ありがとうございます」

「なんのことだ」

「さっきですよ。私が言葉に詰まった時に機転を利かせてくれて」

「本当のことを言ったまでだ。まぁ、付け加えるなら、お前の心を整理する時間が必要だろ?」

「大きなお世話ですね。けど、確かに今の私はちょっと不安定かもしれません。次にリョウさんに会った時にちゃんと心の底から『おめでとうございます』って言えるくらいの余裕を作りたいものですね」

 ルピンは自虐気味に笑った。

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